2011年10月6日木曜日

乳癌の治療最新情報27 エベロリムス1

先日のノバルティスの講演会でも話題になりましたが、新しい分子標的薬が近い将来、使えることになるかもしれないというニュースです。

先日、スイス・ノバルティス社は、mTOR阻害剤「アフィニトール」(一般名 エベロリムス)について、進行性乳がん、結節性硬化症にともなう良性腎腫瘍をそれぞれ対象にした第3相臨床試験で主要評価項目(無増悪生存期間)を達成したと発表しました。いずれも日本が参加した国際共同治験で、適応追加申請に向けた準備を各国で進める予定です。

アフィニトールは、腫瘍細胞の分裂、血管新生、細胞代謝の調節において重要な役割を果たすmTORタンパクを標的としています。乳がんにおけるホルモン療法に対する耐性(薬剤が効かなくなること)は、mTOR経路の過剰活性と関連があるとされています。アフィニトールを投与することによって、その耐性を解除しようという試みなのです。

昨年発表された第2相試験では、ホルモン受容体陽性でアロマターゼ阻害剤に抵抗性の進行性乳がん患者さんを対象とした無作為比較試験の結果、クリニカルベネフィット(CB:完全奏効、部分奏効又は6カ月以上継続した病勢安定の割合)は、タモキシフェン単独療法群の42%と比較して、「アフィニトール」とタモキシフェンの併用療法群では61%と「アフィニトール」に上乗せ効果があり、病勢進行までの期間(無増悪生存期間:PFS)の中央値は、タモキシフェン単独療法群の4.5カ月と比較して、「アフィニトール」とタモキシフェン併用療法群の患者さんでは8.6カ月に延長していたと報告されていました。

今回発表された第3相試験(BOLERO-2(Breast cancer trials of OraL EveROlimus-2))の結果では、アロマターゼ阻害薬(アナストロゾールまたはレトロゾール)による治療中・後に再発/進行した進行性乳がん患者に対し、別のアロマターゼ阻害薬(エキセメスタン)とアフィニトールを併用投与し、その効果を比較しました。主要評価項目はPFSで、アフィニトール群はアロマターゼ阻害薬単剤よりもPFSを2倍以上延長したそうです(2.8ヶ月 vs 6.9ヶ月)。観察された主な副作用のうちでグレード3または4の主なものは、口内炎(7.7%)、貧血(5.8%)、呼吸困難(3.9%)、高血糖(4.3%)、疲労感(3.7%)、非感染性肺炎(3.1%)、肝酵素の亢進(3.1%)などでした。

今回の結果を受けてノバルティス社は年内にも日本を含む世界各国で承認申請手続きを開始する予定とのことですので、1−2年後くらいには使えるようになるかもしれません。ただ、今回の結果は全生存期間(OS)には触れられていません(現在解析・評価中とのことです)。FDAのOS重視の審査を通るのかどうか、注目しています。

2 件のコメント:

カノン さんのコメント...

今日のお話もそうですが、ちょっと羨ましいような気がしてしまいます。
ホルモンのレセプターがある人には有効な薬、私達のようなトリプルネガティブにはあんまり縁がなさそうで・・・・・
以前、ジェムザールで治療中と書きましたが、すぐにマーカーが上昇、CEAが90くらい、CA15-3が600近く、薬を変えることになり今はドセタキセルです。
何かに書いてありました、Her2のような因子がある人にはハーセプチンとか有効な薬が開発しやすいけど、トリプルネガティブというのは、ホルモン治療もハーセプチンなども有効でないというのは同じだけど、他に共通の因子があるとは限らないから、トリプルネガティブの誰にでも効くというのは開発されにくい、って。それでも、いつかそのうち良い薬や治療法が見つかることを願っています。
もっともっと医学が進んで、今以上にすべてのタイプの乳癌の患者さんがよりよい治療を受けられますように!

hidechin さんのコメント...

>カノンさん
たしかにトリプルネガティブに対する治療はいまだに確立されていません。しかし、昔予後が悪い理由がわからなかったHER2陽性乳がんが、HER2などの分子標的マーカーの研究が進んでハーセプチンの開発につながったように、いま世界各地で分子標的マーカーの研究が進んでいますのでいずれはトリプルネガティブも細分類されて様々なタイプ別の治療薬が開発されていくものと期待しています。
一番期待されていたPARP1阻害剤のトリプルネガティブ乳がんに対する承認は以前報告したように第3相試験の結果を受けて一度棚上げされましたが、再評価される可能性は残っていると思います。
日進月歩の乳がん治療薬の分野ですので希望を持ち続けていきましょう!それではお大事に!