2013年11月14日木曜日

再発巣がHER2陰性から陽性になった興味深い症例

以前ここでも紹介したことのある患者さんですが(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2012/07/her2her2.html)、原発巣、鎖骨上リンパ節再発巣ともに免疫染色でHER2(2+)にてFISH法にまわしましたがともに陰性だったため、再発後もER陽性、HER2陰性乳がんとしてホルモン療法を中心に治療を行なってきました。

しかし、ホルモン療法に対する反応が鈍く、一時的に縮小するのですがすぐに再燃を繰り返すため、やむを得ずハラヴェンに変更しましたがやはり再増大をきたしてしまいました。

当初の予定では、ホルモン療法でできるだけ縮小させてから放射線治療の方針だったのですが、もう待てない状況となってしまったため、放射線治療科のDrと相談の上で、可及的に再発巣(鎖骨上、胸骨傍リンパ節)を切除することになりました。

手術は無事終了し、病理結果を確認したところ、今度もER陽性のままだったのですが、HER2が(3+)という結果で返ってきました。前回も書いたように、この患者さんは血清HER2が一時陽性に出たため、実はHER2陽性なのではないかと内心では思っていたのです。どうして原発巣と前回の生検ではHER2陰性という結果が出たのかは不明です。標本の固定法を含めた測定法の問題なのか、モザイク状に存在するHER2陽性細胞の少ない部分を採取、測定したのか、それとも治療によってHER2陰性から陽性に変化したのか…。

いずれにしてもHER2陽性なら今までの治療に抵抗性だったのも納得できます。幸い遠隔臓器には再発はありませんので、今後は局所に放射線治療を加えた上で、強力な抗HER2療法(ハーセプチン+パージェタ)+抗がん剤(ドセタキセル)→アロマターゼ阻害剤(アロマシン)で再発巣の根治を目指します。再燃の繰り返しでかなり頭を悩ませていましたが、これで光が見えてきたような気がします!

今回のケースのように、治療を繰り返すうちに、または測定法の問題などから、ホルモンレセプターやHER2が変化することがあります。効くはずと思った治療がなかなか効果が見られない場合は、簡単に採取できる再発部位があれば生検をしてレセプターの再検索をするのも一つの方法です。

10 件のコメント:

まさみ さんのコメント...

はじめまして、いつもためになる記事ありがとうございます。
少し今日の記事とはズレてしまいますが質問させて下さい。
診断時の針生検でER,PGRともに強陽性、HER2(FISH陰性)でした。
術前にFEC、TCとホルモン治療、全摘手術後放射線もしました。現在はホルモン治療中です。
手術の病理検査ではER、PGR、HER2も調べていません。
手術後に値が変わることもあるのではと主治医に聞きましたが、仮に陽性度が減ってもホルモン治療をすることに変わりはないいどうしても検査したいならしますがとのことだったのでしませんでした。
幸い現在転移、再発しておりませんが保存してある標本を今からでも検査した方がよいのでしょうか。

hidechin さんのコメント...

>まさみさん
はじめまして。
私の施設では一応針生検で免疫染色を行なっても手術材料でもう一度確認する場合がほとんどです。
しかしまさみさんの主治医のDrがおっしゃるように、仮に手術材料でERが陰性だったとしてもホルモン療法はするべきだと思いますし、強陽性であればその可能性はきわめて低いと思います。ですからホルモン療法を行なうかどうかに関しては手術材料の検索は必ずしも不要ということになります。
ただ、HER2に関しては、針生検が陰性だった場合は手術材料で再検査をしておいた方が良いのではないかと私は考えています。ERも同じですがHER2も採取する部位によって結果が変わることもありますので…。ただしこれも針生検でHER2陽性なら再検査は必ずしも不要です(理由はERの場合と同じで、仮に手術材料でHER2陰性でもハーセプチンの適応からはずさない場合が多いからです)。
以上に関しては施設によって若干考え方が違うかもしれません。もしご心配でしたらもう一度ご確認してみて下さい。

匿名 さんのコメント...

なるほど、最近言われている、再発巣にも可能な限り生検をといわれているいい例ですね。ただ、Dr(特に腫瘍内科の先生)によっては、Sc,PsLNの外科的切除の前に、生検して再確認するという方法もありなのではとも言われるかもしれません。でも自分も外科医ですし、とりあえずスッキリとdisease freeになったのでよかったとも思えます。
最近の報告であったかと思いますが、PAM50とIHCの結果が一致しない例も散見されますし、IHCでのサブタイプ分類はこういうような症例の時は疑ってかかったほうがいいでしょうね。
      関西の専門医

hidechin さんのコメント...

>匿名さん(関西の専門医さん)
そうですね。
ただ今回の症例も最初から郭清をしようと思っていたわけではありません。生検でサブタイプを確認して薬物療法→放射線治療でCRを目指すつもりだったのです。実際同様のケースで長期にCRを継続できている症例もいますので。ただ、今回のケースは生検でサブタイプを確認して薬物治療をしたにもかかわらず反応が悪かったため、やむを得ず郭清をしたという経過なのです。たまたまその結果がHER2陽性だったということで、結果的には再度の病理学的検索が有効だったということになります。
今回のケースのように治療抵抗性の場合は2回目の生検、または郭清を含めた外科的切除を考慮しても良いのではないかというのが私の見解です。

まさみ さんのコメント...

大変お忙しいところ詳しく教えていただいて本当にありがとうございました。
針生検で陰性だった時には手術材料の再検査をした方がよいのですね。
使える薬が増える可能性があるのですね。
主治医にもう一度よく聞いてみます。

再発したら治らないと耳にすると不安でたまらなくなりますが、先生の再発治療にかける思いを読ませていただいたり、再発しても長期奏功状態の患者さんもおられると知って不安な気持ちが救われました。
この記事に書かれたHER2陽転の患者様が根治されますことお祈り申し上げます。

hidechin さんのコメント...

>まさみさん
ありがとうございます。私もそう願っています。
HER2の再検査に関しては施設によって考え方に違いがあるかもしれません。私の意見が絶対に正しいというわけではありませんので主治医のDrとよくご相談願います。
それではお大事に!

匿名 さんのコメント...

ソラです。 私は再発して悩んでいたときにこちらにたどり着きました。 とてもいい情報をいただきいつもありがとうございます。 今回は私の現状と同じようでコメントしました。

四年半前に初発して、右全摘(放射せんせず)一年半後再発、その後病院転院。放射線をする。 胸骨の所に腫瘍があるのでホルモン剤。 効果があり。 その後、この患者さんと同じように現在、鎖骨リンパ再発で腫れ上がっています。 AC~タキソテール~ナベルビン~現在ジェムナール 効かなかったら、ハラヴェン予定。 でも腫れは飛び出るくらい大きくなっています。 手術は出来ないと言われました。 放射線も腫れがヒドいときは当てられない。 薬を順番にやって効いてくれるのを祈るだけです。初発の病理検査は、充実腺せんガン、HER2は陰性でした。  もしかしたら、私もこの可能性があるのか? 今度主治医に聞いてみようか悩むところです。 
幸いな事は、他臓器の転移は無いことです。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん(ソラさん)
はじめまして。
ソラさんはトリプルネガティブだったのでしょうか?最初のHER2の詳細な結果はどうだったのでしょうか?免疫染色ですか?それともFISH法ですか?
免疫染色だった場合、HER2が0だった場合は陽転化する可能性は低いと思います。私の症例のように2+だった場合は、再発巣が陽性という可能性はありうると思います。私の施設ではもう一人、HER2が1+から陽性になった患者さんも経験しています。一度主治医の先生に再生検についてご相談してみても良いかと思いますよ。
それではお大事に!

匿名 さんのコメント...

ソラです。 返信いただきありがとうございます。 
病理検査 高度ホルモン反応性あり グレード1 染色法で0 でした。
昨日、診察だったので主治医に聞こうと思ったのですが、腫れがひどくなったのでジェムザール1クールで終了。 CMF(C は錠剤)に変更になりました。 順番に効く投薬をするしかないのかな?と思っています。 次回、主治医にゆっくり聞いてみたいと思います。  先生の情報もとても参考になります。再発ガンについてありましたらまた、投稿してください。 
 

hidechin さんのコメント...

>匿名さん(ソラさん)
HER2が0であれば再発巣が3+の可能性は低いと思います。ただERが陰性化している可能性はありますので今後ホルモン療法を検討する場合には再発巣の生検を検討した方がよいかもしれません。
以上です。それではお大事に。