2013年11月10日日曜日

乳房温存術後の寡分割照射法に関する長期成績(START-A/START-B)

国内外のガイドラインにおいて、乳房温存術後には残存乳房への放射線照射が推奨されています。標準的には、総線量45~50.4Gy/1回線量1.8~2.0Gy/4.5~5.5週の照射が行なわれていますが、1ヶ月から1ヶ月半、毎日のように通院しなければならないのは患者さんにとってはけっこうな負担となります。

そのため、1回の線量を増やして回数を減らす、寡分割照射法(少分割照射法)が各国で検討されてきました。今回はその10年経過時点での成績が、英国のJohn R. Yarnold教授らの研究グループによってThe Lancet Oncology に報告されました(The Lancet Oncology 2013; 14: 1086-1094)。

概要は以下の通りです。

臨床試験名:
START-A/START-B

研究手法:
ランダム化比較試験

内容:
START-A 50Gy/25回/5週,41.6Gy/13回/5週,39Gy/13回/5週の3者を比較(1回線量を増やして回数は減らすけど照射期間は同じ)
START-B 50Gy/25回/5週,40Gy/15回/3週の2者を比較(1回線量を増やして回数も照射期間も減らす)

結果(10年経過時点):
START-A 局所再発率 50Gy群7.4%,41.6Gy群6.3%,39Gy群8.8%と有意差なし。周囲の正常乳房組織の損傷はほとんど同等。
START-B 局所再発率 50Gy群5.5%,40Gy群4.3%と有意差なし。照射期間が短い40Gy群では,正常組織の損傷が有意に少なく,5年時点で見られた生存に対する効果が依然として維持されていた。

*これらの結果は,年齢,腫瘍Grade,病期,化学療法の有無,腫瘍床へのブースト照射の有無には関係していなかった。

つまり、このデータからは、少なくとも心配された局所の有害事象(皮膚の収縮、浮腫、血管拡張など)の増加はみられず、むしろ減少する可能性を示しており、局所成績も標準照射法に比べて同等であるという可能性を示す結果と言えます。ただし、日本人の体型でも同じ結果が得られるかどうかは不明ですし、心臓や肺に関する有害事象はabstractからは確認できませんでした(近日中に原文を読んでみます)。現在日本でも「乳房温存療法の術後照射における短期全乳房照射法の安全性に関する多施設共同試験(JCOG 0906)」が行なわれていますので、実臨床に取り入れるのはこの結果を待った方が良さそうです。ただし、患者さんの状況によっては(遠方、高齢など)、オプションとして寡分割照射が行なわれる機会がこれからは多くなるのかもしれませんね。

ちなみに「乳癌診療ガイドライン ①治療編 2013年版(日本乳癌学会編)」においては、以下のようになっています。

<推奨グレード B>
「50歳以上,乳房温存手術後のpT1―2N0,全身化学療法を行っていない,線量均一性が保てる患者では勧められる。」
<推奨グレードC1>
「上記以外の患者には,心臓等への線量に留意し,細心の注意のもと行うことを考慮してもよい。」

これは、米国放射線腫瘍学会(American Society for Radiation Oncology;ASTRO)における「50歳以上,乳房温存手術後のpT1-2N0,全身化学療法を行っていない,中心軸平面での線量均一性が±7%以内の患者については,寡分割照射も従来の照射と同等である」との報告に基づいているようです。今回のSTARTの結果を受けて、次回のガイドラインでは年齢などの制限がなくなって推奨グレードBになるかもしれません。

4 件のコメント:

まったりーな さんのコメント...

乳房温存手術後のpT1-2N0,中心軸平面での線量均一性が±7%以内の患者とはどういう患者の事なのか教えていただけると嬉しいです。

主治医から寡分割照射の提案を受けましたが、共同研究中であり安全性の研究中という事でしたので通常照射にしました。でも、副作用が同等程度または、少なくなるようなら寡分割照射でもよかったのかなと思います。

副作用としては腫れ、痛み、水疱、びらんの他に、すごく疲れやすくなって午後はいつも寝ていたように思います。座った途端に寝てしまったこともありました。もう、術後で痛いのか、副作用で痛いのかわからないくらいでした。

これから研究もされて、患者が楽に効率よく治療が受けられるようになればいいなと思います。

hidechin さんのコメント...

>まったりーなさん
”pT1-2N0”というのは病理学的進行度の表記で、5cm以下の浸潤径でリンパ節転移を認めなかった症例という意味です。
”中心軸平面での線量均一性が±7%以内”というのは、放射線治療領域の専門用語ですので専門家ではない私が一般の方にわかりやすくご説明する自信はありませんので、大学から来て下さっている放射線治療Drに先ほどお聞きしてみました。
線量均一性というのは照射目的部位(たとえば温存術後の乳房)における照射線量のばらつきの程度のことで、このばらつきの程度が少ない場合には寡分割照射を考慮しても良いという意味です。線量均一性が保てないケースというのは、乳房温存術によって変形が強くなってしまった場合などのようです。


本文にも書いていますように、寡分割照射はまだ日本国内での標準的照射法にはなっていません。評価にはもう少し時間がかかると思います。

まったりーな さんのコメント...

早速お返事ありがとうございます。

私は部切同時再建広背筋皮弁だったし、DCISだったのでリンパ節転移もありませんでした。

その上、病院まで毎日往復60キロの道のりを自力運転だったので主治医も勧められたんだろうなと思いました。

途中で止めるよりも回数少なくして通いきってもらいたいというお気持ちだったのかなと思いました。

丁寧に放射線科治療科の先生にもお尋ねいただいてありがとうございました。お手数おかけいたしました。

hidechin さんのコメント...

>まったりーなさん
まったりーなさんのようなケースや高齢者の場合などではこのような照射法が有用なのでしょうね。ちなみに英国ではこの照射法がかなり広く行なわれているようです。日本人の結果が早く出るといいですね。
それでは。