2014年8月5日火曜日

細胞診/針生検による播種

術後の病理標本で術前に行なった針生検や細胞診の針穴にがん細胞が引きずられて残っている所見が確認できることがあります。おそらく細胞診よりも針生検、特に口径の大きいマンモトームやバコラ生検ではその率は高くなると推測されます。ですから手術する際はできるだけそのルートも一緒に切除するようにしています(乳房温存術で放射線治療を行なう場合は残しても良いのかもしれませんが、可能な限り切除できるように切開線を置いています)。

以前、ある症例検討会で奇妙な症例の発表がありました。術前検査で良悪の判定が微妙だったために患者さんの同意を得て乳腺部分切除術+センチネルリンパ節生検を行なったところ、切除した主病巣は良性だったのにリンパ節に腫瘍細胞が発見されたという症例です。通常リンパ節内の細胞はリンパ球がほとんどを占め、上皮細胞はありません。ですからリンパ節内に上皮細胞があれば転移と考えるのが普通です。このケースの場合、考えられるのは①切除した乳腺以外の場所にがんがあった②良性腫瘍の細胞がなんらかの理由でリンパ管を通じてリンパ節に到達した(転移のように)という2つです。

病理所見について解説して下さったG病院のA先生は、後者の可能性について言及していらっしゃいました。この症例はマンモトーム生検をしていたため、腫瘍細胞(良性)が太い生検針によって損傷を受けたリンパ管内に迷入してしまい、リンパ節に到達したのではないかということです。もしそうであればいわゆる転移とは異なりますので生命予後には影響しません。

当院でもこれと似たような症例を経験しました。細胞診をした際に腫瘍周囲の針穴に播種した腫瘍細胞(良性)が偶然針生検で採取されてしまったために、あたかも浸潤がんの細胞のように見えてしまったという症例です。私は以前、G病院で研修中にA先生に針穴に播種した症例を見せていただいたことがありましたので、その可能性について頭に浮かんだのですが、まさか細胞診のルートに偶然針生検で当たるとは…。A先生にconsultationをお願いしたところ、やはりその可能性が高いのではないかとのこと。念のため主病巣周囲の部分切除を行なって本当に浸潤がんが隠れていないか確認しましたが、標本内にはがんは確認できませんでした。非常に珍しいケースだと思いましたので今年の乳癌学会で報告しました。がんだけではなく良性腫瘍でも針穴に播種することがあるということには病理診断の上では注意が必要です。

3 件のコメント:

さくら さんのコメント...

 10月22日に「線維腺腫の自然経過」のコメント欄へ質問させていただいた者です。再び、すみません。

 マンモトーム生検の結果、癌ではないと伝えられました。ほっと胸をなで下ろして帰宅したものの、不安なことがあります。
マンモの画像に写っていた(集属性の濃さがまちまちの)石灰化に関して組織検査をして癌ではなかったということは、確率的にほぼ100%大丈夫と思って良いでしょうか?
 そして不安はもう一つ、石灰化は大丈夫にしても、もしかしてこの硬いしこりはまだ診てもらえていないのかも・・・と。今回の先生は触診もせず「もし悪いものでも初期ですから」と仰って、しこりが出来ているのに初期なの?とわたしは疑問でした。エコーとマンモグラフィの画像で、しこりと石灰化は一致していたと考えれば良いのでしょうか?
 不安がますます増してすっきりしません。もう一度他の病院を受診すべきかと悩んでいます。考えすぎでしょうか?(受診した病院で尋ねればよいことなのですが、その先生には話しかけられない雰囲気があって聞けません。病院を変えたい理由でもあります。)
 もしもと考えると、生検してから時間が経つほど、転移していくのではないかと不安になります。

 お忙しい中、誠に申し訳ありません。
先生のお考えをお聞かせください。よろしくお願いします。

hidechin さんのコメント...

>さくらさん
とりあえずがんではなくて良かったですね。
ただ、私は神様ではありませんので100%大丈夫かと聞きかれてもわかるはずがありません。画像も病理も見ていないのですよ?ここはあくまでもネット上の世界であることをご理解下さい。そしてさくらさんのことを一番わかっているはずの医師は主治医です。聞きにくい雰囲気があったとしてもまずは主治医にお聞き下さい(トップページの注意事項をご一読願います)。

精密検査の結果が良性と出て、その結果が担当医の判断としても妥当であると考えてご説明したことを患者さんに信じてもらえないのであれば、全ての患者さんにセカンドオピニオンや他院での再検査が必要になります。これは現実的ではありません。

すべての検査所見を考えて、例えばしこりは古い線維腺腫で、石灰化はその内部にできたものであるとか、しこりと思っている部分は腫瘍ではなく単なる乳腺症の硬結で石灰化も乳腺症の石灰化であるとか、主治医自身はその結果にまったくなんの疑いも持っていないのではないでしょうか?さくらさんがそのように不安に思っているなんて考えもしなかったからあっさりした結果説明だったのかもしれません。そうであれば、さくらさんの不安を聞いたらびっくりするかもしれませんよ?

ですから繰り返しになりますがしこりが触れる件も含めてもし疑問があるのであればもう一度主治医にお聞き下さい。十分説明されてもまだ納得できないのであれば、主治医にその旨を伝えてセカンドオピニオンを受けるべきだと私は思います。以上です。

さくら さんのコメント...

不安と焦りから個人的な相談をしてしまいました。ごめんなさい。
確かに仰る通り、診察をお願いしていない先生に対しこのような質問をしてしまい、申し訳ありませんでした。
主治医の先生に改めて伺ってみようと思います。

ご丁寧なお返事に心から感謝します。
ありがとうございました。