2010年2月10日水曜日

パロキセチン併用がタモキシフェン内服患者の予後を悪化

「ホルモン療法の副作用3 うつ症状」のところにも書きましたが、SSRIというタイプの抗うつ剤は、タモキシフェンの作用を減弱させることが知られています。

今回、これを裏付けるような報告がカナダのSunnybrook Health Science Center、Catherine M. Kelly氏らによって発表されました(BMJオンライン版 2010; 340: c693)。

要旨は以下の通りです。

対象:66歳以上のタモキシフェンを投与中の乳がん患者のうち、1種類のSSRIを服用している2,430例
方法:SSRI内服患者と非内服患者の予後、SSRIの種類別の予後を比較検討
結果:SSRIの種類別ではパロキセチン(商品名 パキシル)内服症例が約30%を占めていた。SSRIを服用した期間が長いほど乳がん死のリスクは増加。パロキシフェン以外のSSRIでは有意差なし。
パロキセチンにおいては、併用期間の割合が25%の場合;補正後ハザード比(AHR)1.24,95%信頼区間(CI)1.08~1.42,同50%;AHR 1.54,95%CI 1.17~2.03,同75%;AHR 1.91,95%CI 1.26~2.89,各群間のP<0.05。

つまり、パロキセチン長期投与群(タモキシフェン投与期間の75%以上の期間、パロキセチンを内服していた群)では、SSRI非内服群に比べ乳がん死亡率が1.91倍になるという報告でした。やはり、タモキシフェン投与中はSSRI(特にパキシル)の併用は避けたほうが良さそうです。

もう既にタモキシフェンの内服を終了してしまった患者さんについては、今からどうすべきかという指針は示されていません。5年内服をさらに延ばすべきかどうかも子宮内膜がんとの関連もありますので一概には言えません。タモキシフェン内服が終了した時点で閉経している患者さんについてはアロマターゼ阻害剤を追加することは考えてみても良いかもしれません。

2010年2月9日火曜日

DCIS症候群

症例検討会をしていると、
”え〜っ、こんなのがDCIS(非浸潤癌)なの?”
というような微妙な症例を目にします。

例えば脂肪みたいな画像や乳腺症のむらのようにしか見えない画像とか…。

ふだんは精査対象にしないように見えるものが癌だったりすると、みんな疑心暗鬼になります(実際には、精査になったことや癌であったことにはそれなりの理由があるのですが、その差は微妙なんです)。

そんな症例検討会のあとは、外来診療が大変です。

”DCIS疑い”や”DCISを否定できず”、”次回もフオローして下さい”という超音波技師さんたちからのコメントが急増するんです。こういう現象を”DCIS症候群”と私は勝手に呼んでいます。まあ、あんな画像を見てしまうと不安になるのもわかりますが…。

早期癌を見逃さないことはもちろん大切です。しかし、要精査率をあまり上げないということも検診をする上では重要なことです。このバランスのとりかたがなかなか難しいんですよね。

技師さんには、超音波検査で何か所見があった場合には、単に”低エコー腫瘤”だけではなく、疑い病名を必ず書くように指導しています。また、私自身も技師さんの所見に対して自分がどう思うかをカルテに書くようにしています。例えば、技師さんが”DCISの可能性あり”と書いていても、”脂肪のようにも見える”などのようにです。そうでなければ自分の診断も技師さんの診断も正しかったのか間違っていたのかがあいまいになるからです。

私は技師さんが気になった場合は、私自身がそう思わなくても基本的に細胞診をするようにしています。その理由は、実際に動画で見ている技師さんが本来は一番よく見えているからです。もう一つの理由は、気になった所見を細胞診で確認させてあげることで、悪性でなかった場合は技師さんが下した判断が読み過ぎだったことがすぐにわかるからです。それをフィードバックすることによって、さらに技師さんの技量が上がると信じています。実際はそう簡単なことではないのですが、検査をやりっぱなしにしないで結果を確認するという地道な積み重ねは絶対に必要なのです。

2010年2月7日日曜日

ホルモン療法の副作用4 子宮体癌(子宮内膜癌)

これはタモキシフェンの有名な副作用なので、ご存知の方も多いと思います。
このような副作用の報告があると、一部の人たちは、“発がん性のある危険な薬剤だ!”と騒ぎ立てたがります。実際、タモキシフェンが子宮体癌の発生リスクを3倍増加させるという報告が出されたとき、そのような主張をする人たちがいました。

しかし、どんな薬剤にも副作用はあります。たしかに子宮体癌の発生率を上げるのは事実ですが、そもそも子宮体癌自体、発生頻度が高い癌ではないので、3倍になっても発生頻度としては投与した患者さんの1%未満と言われています。一方で、タモキシフェンは対側の新たな乳癌の発生を有意に減少させることがわかっています。その効果は子宮体癌発生数の増加より大きいので、新たな癌の発生を考えた場合に、発癌効果より発癌抑制効果のほうが上回ることになります。もちろん、そもそも手術した乳癌の再発予防目的で投与しているわけですし、その有益性(タモキシフェンの5年投与は再発を42%減少させる)はメタアナリシスで証明されています。ですから、“タモキシフェンは、発がん性があるから危険な薬なので、飲まない方が良い”という主張は正しくありません。

定期的な子宮体癌の検査(超音波検査や生検など)をするかどうかは、各施設の判断です。2000年のNIHのカンファレンスでは、タモキシフェン服用患者における子宮体癌の発生頻度は、全員にスクリーニングを受けさせるほど高くないため、無症状の人がこれらの検査を受けることの有益性を否定しています。

ちなみに私は年1回の子宮がん検診時に頸がんと体がんの細胞診を受けるように勧めています。理由は、多少痛みはありますがさほどの負担ではないこと、私の患者さんの中にもタモキシフェン投与後に子宮体がんを発生した方が、覚えているだけでも4人くらいいらっしゃるからです。

2010年2月5日金曜日

さっぽろ雪まつりにピンクリボンブース!

今日から始まるさっぽろ雪まつりのつどーむ会場にピンクリボンのブースが登場します。

ブースでは、模型を使ってのセルフチェックの練習、啓発パネルの展示、パンフレットの配布、DVD上映、そして来場者にピンクリボンを結んでもらうツリーも設置されます。さらにアンケートに記入すると北海道日本ハムファイターズ田中賢介選手のグッズが当たるくじもあるそうです。

残念ながら私は今回のイベントのお手伝いはできませんが、多くの人に乳がん検診の重要性について理解してもらえればいいなと思っています。お暇な方は是非ブースにお立ち寄りください。

なお詳細は”ピンクリボン in Sapporo”のHP(http://pinkribbonsapporo.web.fc2.com/)に書いていますのでご覧ください。

2010年2月4日木曜日

ピンクリボンの名刺

私が勤務している病院では新任の医師には名刺が支給されます。ごく普通のいわゆる”ダサイ”名刺です。

以前は同じ系列の病院に転勤を転々としていてその都度名刺が配給されました。しかし、諸事情で10数年前に札幌から移動できなくなり、今の病院を含む3病院間を移動することになってからは毎回作るのが面倒だったのかはわかりませんがいつも間にか名刺を作ってくれなくなりました。ですから手元にあるのは古い名刺だけで、役職も印字されていず郵便番号も古いままなので普段は持ち歩いていませんでした。

で、先日の東北の病院視察の時に名刺が必要だという話になって慌てて新しい名刺を作りました。

今度名刺を作る時には絶対ピンクリボンマークを入れると前から思っていたので、J.POSHにピンクリボンマークを入れていいか問い合わせをしました。快く了解していただき、ピンクリボンのロゴをJPEGファイルで送っていただきました。校正をチェックしていただき、とりあえず名刺ソフトで作成して視察に出かけました。

ところが…

なんと名刺に入れたE.mailのアドレスが間違っていたんです。せっかく先方にお渡ししてメールをいただいたのに届かないと連絡があって初めて気づきました。今度は病院に依頼して本格的に作ります。もちろんピンクリボンマークは必須です!

2010年2月3日水曜日

乳癌の治療最新情報14 ジェムザールが手術不能・再発乳癌での追加承認へ

再発膵癌などで使用されている抗がん剤”ジェムザール”(日本イーライリリー社:一般名 ゲムシタビン)について手術不能・再発乳癌に対しての効能追加が薬事・食品衛生審議会で認められました。来月中にも正式承認される見通しとのことです。

ジェムザールは、米国では2004年にすでに乳癌に対してFDAでアンスラサイクリン投与後の転移性乳癌治療のファーストラインとして認められていた薬剤です。この時承認にあたって提出された臨床試験の結果は以下の通りです。


対象および方法:
529人の患者において、①ジェムザール+パクリタキセル療法と②パクリタキセル単独療法とを比較。
①群では、21日サイクルの第1日目と8日目にジェムザール1250 mg/m2(静注30分間)を投与、各サイクルの第1日目にはジェムザールの前にパクリタキセル175 mg/m2(静注3時間)を投与。
②群では、単独で薬パクリタキセル175 mg/m2(静注3時間)を各21日サイクルの第1日目に投与。

評価項目と結果:
パクリタキセル併用ジェムザール群では、パクリタキセル単独療法群と比較して、進行までの期間(中央値 TtDPD 5.2ヶ月 対 2.9 ヶ月、 p<0.0001)と全奏効率(RR 40.6% 対 22.1%, p<0.0001)において、統計的有意に良好。ジェムザールとパクリタキセルの併用は、中間生存率分析においても生存率向上の強い傾向あり。

有害事象:
ジェムザール+パクリタキセル群の主なグレード3、4の有害事象は、血液系障害(好中球減少症、貧血、血小板減少症)。グレード3、4の肝臓酵素の上昇も、ジェムザール+パクリタキセル群で多い傾向あり。グレード3,4の検査値以外の毒性症状は、倦怠感、痺れ、筋肉痛。


通常、アンスラサイクリン(EC、AC、FECなど)を術後補助療法として使用したあとの再発に対するファーストラインの治療は、パクリタキセルやドセタキセル、ゼローダなどを単剤で投与するケースが多いのですが、パクリタキセルとジェムザールの併用で奏効率が上がり、奏効期間が伸びるというのはうれしい情報です。ただ、副作用は少し強めになりそうですので、実際に投与してみないと本当に患者さんにとって好ましい治療なのかどうかはわかりません。できることなら単剤での投与や他の薬剤との併用も可能な形で(もちろん裏付けになる臨床試験結果があればの話ですが)承認されると使用する側からすると助かります。

また、欧米ではトリプルネガティブ乳癌の再発治療に対してカルボプラチンとジェムザールの併用がよく行なわれています。今までは両薬剤とも乳癌は保険適応外で使用できませんでした。今回のジェムザール承認を突破口にして、カルボプラチンの保険適応承認につながることを期待しています。

<追加>
薬事日報によると、
”用法用量は、非小細胞肺癌などと異なり、1回1250mg/m2を30分かけて点滴静注し、週1回投与を2週連続し、3週目は休薬する。これを1コースとして投与を繰り返す。”
となっています。
文面から考えると単剤での投与で承認されるようです。

2010年2月1日月曜日

ホルモン療法の副作用3 うつ症状

乳癌術後の患者さんは、外来で不眠、倦怠感、意欲の低下などのうつ症状を訴えることがよくあります。こういう場合、もともと持病があったのか、術後の不安などで発症したのか、薬の副作用なのか迷うことがあります。今回はこのようなうつ症状をきたすホルモン剤についてお話しします。

うつ症状をきたす代表的なホルモン剤はタモキシフェン(商品名 ノルバデックス、タスオミン、アドパンなど)です。アロマターゼ阻害剤でも起こるとも言われていますが、印象としてはタモキシフェンが多いような気がします。

タモキシフェンでなぜうつ症状が出るのかは明らかではありません。タモキシフェンの副作用として起きうる更年期症状の一部分症なのかもしれません。また、再発の不安や乳房にメスを入れるという精神的にストレスがかかる時期に内服することが多いこと、年齢的にそもそも更年期症状に伴ううつ傾向が出やすいことなども関与しているのかもしれません。

私の経験上でも、術後にタモキシフェンを投与してからうつ傾向が強くなって中止せざるを得なくなった患者さんが何人かいます。閉経前の患者さんには、他に内服できるホルモン剤がないため、可能であれば抗うつ剤を併用して経過を見る場合もあります。

抗うつ剤を併用投与する場合には、注意しなければならない薬物相互作用があります。

ルボックス、パキシルなどのSSRI(セロトニン再取り込み阻害剤)というタイプの抗うつ剤は、タモキシフェンと併用するとタモキシフェンの作用を減弱させると言われています。これはタモキシフェンが薬理学的に十分な活性を得るためにはCYP2D6という酵素により代謝される必要があるのですが、SSRIはこの働きを阻害するからです。ですから、タモキシフェン内服中にはこれらの薬剤は避けた方が無難です。

抗うつ剤には、他にも三環系抗うつ剤(トリプタノール、トフラニール、アモキサンなど)や四環系抗うつ剤(ルジオミール、テトラミドなど)などがありますので、主治医の先生と抗うつ剤の変更について相談した方が良いと思います。