症例検討会をしていると、
”え〜っ、こんなのがDCIS(非浸潤癌)なの?”
というような微妙な症例を目にします。
例えば脂肪みたいな画像や乳腺症のむらのようにしか見えない画像とか…。
ふだんは精査対象にしないように見えるものが癌だったりすると、みんな疑心暗鬼になります(実際には、精査になったことや癌であったことにはそれなりの理由があるのですが、その差は微妙なんです)。
そんな症例検討会のあとは、外来診療が大変です。
”DCIS疑い”や”DCISを否定できず”、”次回もフオローして下さい”という超音波技師さんたちからのコメントが急増するんです。こういう現象を”DCIS症候群”と私は勝手に呼んでいます。まあ、あんな画像を見てしまうと不安になるのもわかりますが…。
早期癌を見逃さないことはもちろん大切です。しかし、要精査率をあまり上げないということも検診をする上では重要なことです。このバランスのとりかたがなかなか難しいんですよね。
技師さんには、超音波検査で何か所見があった場合には、単に”低エコー腫瘤”だけではなく、疑い病名を必ず書くように指導しています。また、私自身も技師さんの所見に対して自分がどう思うかをカルテに書くようにしています。例えば、技師さんが”DCISの可能性あり”と書いていても、”脂肪のようにも見える”などのようにです。そうでなければ自分の診断も技師さんの診断も正しかったのか間違っていたのかがあいまいになるからです。
私は技師さんが気になった場合は、私自身がそう思わなくても基本的に細胞診をするようにしています。その理由は、実際に動画で見ている技師さんが本来は一番よく見えているからです。もう一つの理由は、気になった所見を細胞診で確認させてあげることで、悪性でなかった場合は技師さんが下した判断が読み過ぎだったことがすぐにわかるからです。それをフィードバックすることによって、さらに技師さんの技量が上がると信じています。実際はそう簡単なことではないのですが、検査をやりっぱなしにしないで結果を確認するという地道な積み重ねは絶対に必要なのです。
9 件のコメント:
はじめまして。私は超音波検査をしている検査技師です。先生のBlogでいつも勉強させていただいています。
DCIS症候群。そうなのです。本当に勉強会や講習会の後は乳腺症かな?でもDCISかも...と弱気になってしまい、結果先生の言われるように精査率が上がってしまいます。
JABTSの講習会でも『拾いすぎないように』と何度も言われていますね...。
私もなるべく細胞診や病理、MRIの結果を見に他の検査室に足を運んで結果をフィードバックさせるようにしています。
スペシャリストへの道は遠いですが、地道な努力を続けて行きたいと思います。
これからも先生のblogで引き続き勉強させていただきます。
>Marthaさん
いつも読んでいただきありがとうございます。
人間の心理としては当然ですよね。私たちもマンモグラフィのFilm Reading(学会などで試験のような形で行なう読影)で微妙な(見落とし症例など)フィルムをたくさん見せつけられると要精査率が上がってしまう傾向があります。
見落としが増えるのは避けなければなりませんが、ごく小さなDCISを見つけようと頑張りすぎないこともある意味重要だと思っています。さじ加減は難しいですけどね。
はじめまして。
DCIS について記載があるため、病院で病理検査をした結果が本当にDCISなのか、判断していただきたく、投稿させていただきました。
左乳首より、血液分泌あり。健康診断マンモで微小石灰化あり(多形成)とのことで病院に行き、先週、乳腺腺様区域切除を行い、病理検査を行いました。
病理検査結果では、DCIS 、グレード1、ER-70% , PgR-70%, Her2-0% , Ki67-15/602、 所見では「 13×50mmの領域で、乳管内に異型細胞が、微小乳頭状に増殖している。間質浸潤は認められない。」との記載です。
この、異型細胞というのは、正常細胞とどれぐらい異なっているのでしょうか? 細胞自体の崩れの判断要素となる基準はあるのでしょうか?
また、DCISそのものを癌と呼ぶことに疑問視される意見もありますが、これは、癌なのでしょうか?
そして、Ki67の数値は、正常な人では数値は0なのでしょうか?
当方、30代で妊娠経験なし、最近まで飲酒をしています。
ちなみに、主治医は、検査をしたところ、がんだったので、取り残しのないように、拡大切除手術を明日します。
よろしくお願いします。
>Hirooさん
はじめまして。
まず、DCIS(非浸潤がん)は日本における定義ではがんです。DCISである間は転移しませんので、「転移しないものはがんと呼ばない」と定義してしまえばがんではなくなりますが(前がん病変)、通常の乳がんはもともとDCISから発生する事実を考えるとDCISをがんとして対処すべきであるという考え方には私は同意しています。乳房温存術で遺残したDCISから発生した残存乳房内再発のうち、約半数は浸潤がんである事実からもDCISをがんではないものとして対処することは私はお勧めできません。
「本当にDCISなのか」を私が判断することはよく考えていただければわかると思いますが無理です。診断は病理医が顕微鏡検査で行なうものなので、その結果を尊重すべきだと思います。病理結果の記載にはDCISとしての所見が記載されていると思いますが…。
「異型細胞が正常細胞とどのくらい違っているか」や「細胞自体の崩れの判断要素となる基準」を一般の方に文章で説明することは困難です。乳腺疾患の良悪の病理診断は時に非常に難しく、簡単にご説明できるようなものではありません。例えば、がんの典型的な病理所見の一つに「二相性の消失」というものがあります。これは正常乳管や良性腫瘍では、乳管上皮細胞と筋上皮細胞というものが同時に存在するのですが、がんでは乳管上皮細胞のみ(筋上皮細胞が併存しない)しか見られなくなることを言います。しかし、DCISでは、一部二相性が見られることがあるのです。ですから二相性の消失だけでは診断できず、筋上皮細胞の存在割合、細胞集塊の形態、核の形や大きさの変化、核の偏在の有無、核小体の状態などを総合的に判断して良悪の診断をつけるのです。これは病理学を専門に学んでいる医師でも簡単なものではありません。
次にKi-67は腫瘍細胞で測定する増殖能(悪性度が高いかどうか)の指標です。正常組織ではカウントしませんので実際平均何%なのかは知りませんがかなり低い値であることは確かです。Hirooさんの場合は5%未満ですのでおとなしいタイプのがん細胞だと思います。
乳管腺葉区域切除術は、主に診断目的で行なう手術ですので、一定の広がりをもったDCISと診断された場合には追加切除が必要になります(偶然完全切除できることもありますが)。2回の手術はストレスだと思いますが、主治医が追加切除が必要と判断したのでしたら、きちんと受けるほうが良いと思います。
それではお大事に!
早々の御返事、ありがとうございました。
週末に再手術の説明を受け、週明け火曜日に手術だったため、自分で自分の身体のことを調べる時間もなく、また先生に聞いても詳細な説明をいただけず、不安のままの再手術でした。
術後に御返事を読み、追加手術の必要性が判り、納得することができました。ありがとうございます。
抜糸後の検査など何もなく、次回診察は1年後となったので、「え~!?マンモ等の検査も何もないのですかぁ?!」と医師に言うと、「じゃあ、どうですかぁ~?という感じで3か月後に診察ね。」と言われました。
医師は、完全切除したので、診察不要と考えたようですが、普通このようなものなのでしょうか?
こちらとしては、一応乳がんだったし、身体を切開しているのだから、2週間後・1カ月後・3カ月後・・・というように診察するものだとばかり思っていました。
少し余談になりますが、乳がんが見つかる前は自分のライフプランを計画しているため、出産は40歳になったら産もうと、先延ばしにしていました。
しかし、拡大手術が決まり、手術が行われるまでの間、自分の人生で一番後悔することは何だろうか?とベッドの上で自問しました。すると、驚いたことに、子どもを産んでいないことは自分にとって一番後悔するだろうという気持ちが湧きあがってきました。
これは本当に驚きました。
ライフプランを見直し、来年には妊娠できるように体力づくりを行っています。
そこで、少しお聞きしたいのですが、
マンモなどの検診は術後、いつ頃から受診可能なのでしょうか?
私は、術後の過剰治療は受けない旨伝えております。
これについては、ガイドラインから外れますが、例えば、畑の土の中(おっぱい)に種(がん細胞)があるとして、その種(がん)を取り除いたのに、放射線治療を行って、土(おっぱい)自体を使えなくしてしまうことについて疑問をもっているからです。
放射線であれば、ピンポイント照射もできるため、仮に再発すれば、治療などを考えようと思っています。
ホルモン療法についても、来年妊娠希望のため、これについては医師は飲まなくてもいいというコメントでした。
もう一つ、お聞きしたいのですが、妊娠すれば乳がんのリスクが下がるということを聞いたのですが、本当なのでしょうか?
質問ばかりですみません。
よろしくお願いいたします。
書き忘れておりましたが、
拡大手術が必要との理由は、病理結果にて、切除範囲ががん細胞の0.1mm上だったため、少なくとも1cmは取りたいという医師の説明があり、再手術となりました。
がんの転移について質問があります。
がん細胞は血液やリンパ液に乗って転移していくが、非浸潤がんは乳管の中に留まっているので、転移しないという説明を受けました。
しかし、がん細胞はどこから栄養をもらって増殖しているのですか?と尋ねると、医師は「毛細血管から。」と言われました。
毛細血管から栄養をもらっているのでしたら、その毛細血管を通じて、他に細胞をばらまいているのではないのでしょうか?
(このあたりの返事はもらえませんでした)
また、細胞は皮膚などを作っていると思うのですが、単体のがん細胞が離れて血管やリンパに乗って他に移動し、他に棲みついてまた増殖を始めるという考えで良いでしょうか?
医師は、がん細胞はハチの性質に似ていることが判ってきており、女王蜂の役割を持っているがん細胞が働き蜂に働かせていると言っておりました。この女王蜂を駆除すれば、他は死んでしまうということでした。
よろしくお願いします。
>Hirooさん
とりあえずわかる範囲内で簡単にお答えします。
①術後の乳房検査として推奨されているのは、定期的な診察(最初の3年は3-6ヶ月ごと、その後2年は6-12ヶ月ごと、その後は年1回)と年1回のマンモグラフィだけです。ただ、マンモグラフィは対側乳癌の発見には有用と言われていますが、温存術後の局所再発に有用であるというエビデンスはありません。ですから私は超音波検査を6ヶ月に1回併用しています。ですから次回のマンモグラフィは1年後で良いと思います。超音波検査と診察については主治医の判断かと思います。
②術後の放射線治療の判断については残存乳房照射を省略するリスクを十分に理解しての判断でしたらかまわないと思います。ただ、DCISは本来乳房全摘をすればほぼ100%治癒するがんです。温存術後に照射を省略して万が一局所再発をした場合にはその半数は浸潤がんとして再発すると言われていますので、その場合は治癒率は100%ではなくなります。ですからDCISであるならなおさら局所再発率を下げる治療を選択するべきではないかという考え方もありますのでよく考えた上で照射の省略を決めて下さい。また、ピンポイント照射やラジオ波治療など、十分なエビデンスが得られていない治療に過大な期待をすることも気をつける必要があります。主治医にそのあたりについての考え方をお聞きしておいた方が良いと思います。
③妊娠すれば乳がんのリスクが下がるというのは、乳がん術後の話ですか?
一般人(乳がんに罹患していない女性)においては、妊娠というより、出産数や授乳回数、授乳年数によって乳がんリスクを下げるという疫学データはあると思います。乳がん術後の患者さんの妊娠に関しては以前は予後を悪化させる(再発を促す)として、避けることを推奨していた時期がありました。しかし、最近の報告では妊娠、出産は乳がん患者さんの予後を”悪化させない”という考え方が主になってきています。このことを混同されているのではないですか?乳がん術後の患者さんが妊娠することによって、再発を予防する、または局所再発や対側乳がんを予防する、という報告は私は聞いたことがありません。
④がんの転移についてですが、一般的には、転移経路となる静脈やリンパ管は乳管外にあるので、浸潤しなければ転移はできないと病理の本にも説明されています。しかし乳管内のがんから出血することはありますし(血性乳頭分泌)、乳管内のがんに毛細血管を認めることはあります。この毛細血管の中になぜがん細胞が侵入しないのか、たしかに疑問に思うかもしれませんね。私も病理の先生と話をしてみましたが、推論としてはいろいろ考えられるのですが一般の方にうまく説明はできませんし、不確実な情報をここに書くことはできません。実際問題として数多くの経験から細かい理屈は考えずにDCISは原則転移しないと信じて良いのではないですか?(DCISの診断が正確であり、局所再発しなければ、という条件付きですが)。
⑤がん細胞が血管に入ったあとの話ですが、乳がんの患者さんのからだの血中にはけっこうながん細胞が遊離して流れていると言われています。しかしそのほとんどは免疫細胞によって退治され定着(転移)しません。一定の条件(がん細胞の数など)を満たした場合に転移巣を形成すると言われています。
⑥女王蜂の話はおそらく「がん幹細胞」の話だと思います。これはトピックな内容ですが、まだ不明な点も多く、これからの研究課題ですので詳細を述べることはできません。
今回は一応全てのご質問にお答えしましたが(不十分な部分もありますが)いくつものご質問(特にかなり専門的な内容)に文章でわかるようにお答えするのはかなりの労力を要します。お返事が遅れたのも病理医に確認したためです。
できれば主治医にお聞きして解決する問題であれば主治医にお聞きいただければ幸いです。
質問に対するご丁寧な回答、ありがとうございました。
自分が乳がんになるなんて信じられず、多くの疑問が沸いてきた次第です。
再発の可能性についても、確率の問題であることがわかりました。
これからもブログを読ませていただきます。
また、今回の自身の経験を語るのはかなり抵抗がありますが、話しの流れで可能な限りマンモを受診するよう、友人に話していこうと思っています。
>Hirooさん
まわりの方に乳がん検診をお勧めするのはとても大切なことだと思います。
いろいろ疑問や不安はあるとは思いますが、まずは一番Hirooさんのことをわかっている主治医の先生によくお聞きになってみて下さい。それではお大事に!
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