乳癌術後の患者さんは、外来で不眠、倦怠感、意欲の低下などのうつ症状を訴えることがよくあります。こういう場合、もともと持病があったのか、術後の不安などで発症したのか、薬の副作用なのか迷うことがあります。今回はこのようなうつ症状をきたすホルモン剤についてお話しします。
うつ症状をきたす代表的なホルモン剤はタモキシフェン(商品名 ノルバデックス、タスオミン、アドパンなど)です。アロマターゼ阻害剤でも起こるとも言われていますが、印象としてはタモキシフェンが多いような気がします。
タモキシフェンでなぜうつ症状が出るのかは明らかではありません。タモキシフェンの副作用として起きうる更年期症状の一部分症なのかもしれません。また、再発の不安や乳房にメスを入れるという精神的にストレスがかかる時期に内服することが多いこと、年齢的にそもそも更年期症状に伴ううつ傾向が出やすいことなども関与しているのかもしれません。
私の経験上でも、術後にタモキシフェンを投与してからうつ傾向が強くなって中止せざるを得なくなった患者さんが何人かいます。閉経前の患者さんには、他に内服できるホルモン剤がないため、可能であれば抗うつ剤を併用して経過を見る場合もあります。
抗うつ剤を併用投与する場合には、注意しなければならない薬物相互作用があります。
ルボックス、パキシルなどのSSRI(セロトニン再取り込み阻害剤)というタイプの抗うつ剤は、タモキシフェンと併用するとタモキシフェンの作用を減弱させると言われています。これはタモキシフェンが薬理学的に十分な活性を得るためにはCYP2D6という酵素により代謝される必要があるのですが、SSRIはこの働きを阻害するからです。ですから、タモキシフェン内服中にはこれらの薬剤は避けた方が無難です。
抗うつ剤には、他にも三環系抗うつ剤(トリプタノール、トフラニール、アモキサンなど)や四環系抗うつ剤(ルジオミール、テトラミドなど)などがありますので、主治医の先生と抗うつ剤の変更について相談した方が良いと思います。
4 件のコメント:
先生、こんにちわ。
現在ノルバデックス20㎎を服用しています。
うつ症状ではないのですが、ホットフラッシュがひどく、睡眠障害や倦怠感に悩まされています。睡眠障害が本当に辛く、うつになるのでは?と少々心配気味の私・・・。
主治医には話しており、ツムラのカミショウヨウサンを処方して貰って3か月になりますが全く改善されません。
主治医曰く「抗がん剤で生理もストップしているし、ホルモン治療も11月に開始したばかりなので今が一番ひどい時かも。この薬が効かないとホルモン剤をストップするほかないんだよね」と。
ホルモン剤を中止しても問題ないのかしら?それも不安で結局しばし様子見する事に。
こんなもんなのでしょうか??
ホットフラッシュの症状は多いと聞いていますが皆さんどうされているのかしら?そして先生はどう対処されているのでしょうか?
>りんこさん
ホットフラッシュは女性ホルモンの欠落症状の一つです。タモキシフェンでもアロマターゼ阻害剤でも起きますが、根本的な解決法は女性ホルモンを投与することであり、これは治療目的と相反することですから乳癌の術後には行なえません。
ですから少しでも症状を改善するために漢方薬などを処方することはよくあります。しかし、効果がみられないこともしばしばあります。
たいていは徐々に症状が軽快して体が慣れてきますのでそのうち気にならなくなることも多いのですがどうしてもダメな患者さんもいます。
そういう場合は、治療の有益性と体の状態を秤にかけて中止するかどうかを判断しなければなりません。
ホットフラッシュに対しては抗うつ剤の効果は不確定です。付随する不安感や不快感、睡眠障害が軽減してタモキシフェンの投与に耐えられるようになる可能性もありますから試してみても良いかもしれませんね。
とりあえずもう少し様子を見て、睡眠障害などが辛いようなら抗うつ剤を試してみようかな、と思いました。
(ちなみに様子見期間の目安ってあるのでしょうか?既に3カ月は経過しているのですが・・・)
アドバイス、有難うございます。
>りんこさん
様子をみる期間に決まったものはありません。どのくらい我慢できるかにもよります。その間、抗うつ剤や他の漢方薬を試してみてもよいかもしれません。早く体が慣れるといいですね!
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