2015年9月23日水曜日

北斗晶さんのニュース

Yahoo!ニュースを見ていたら、北斗晶さんが乳がんと診断されて治療予定という文字が目に入ってきました。芸能人の乳がんは非常に多いという印象を持たれる方も多いかと思いますが、12人に1人は一生の間に乳がんになると言われていますので、乳腺外科医の立場としては不思議ではありません。

このニュースに関するコメントを読んでみると、「全摘するんだから相当進んでいる」とか「全摘をすれば再発の危険が少なくなるから安心」などという間違った書き込みがありました。やはり一般の方には、乳房全摘をすることの意味が正しく伝わっていないのかなと感じました。

ちなみに、乳房全摘をするか乳房温存術をするかは、いわゆる進行度(病期)とは関係ありません。超早期の非浸潤がんであっても乳管内を広く広がっていれば全摘が必要です。広く広がっていても非浸潤がんであれば0期ですし、全摘すればほぼ100%治癒します。つまり全摘が必要か、温存術が可能かは、進行度ではなく、乳腺内の広がりによって決定されるということです。

さらに、乳房温存術が可能な乳がんに対して乳房全摘をすれば予後が良くなるということはありません。2つの術式の差は、温存術の場合は乳腺が残ることによる乳房内再発率が異なるだけであり、適応を守って、かつ局所再発を早期に発見すればその差は予後には影響しませんし、遠隔再発率(肺、骨、肝臓などへの再発)は2つの術式で差はないことが臨床試験によって明らかにされています。

いずれにしても北斗晶さんには、なんとかつらい治療を乗り越えて、また元気な姿を見せて欲しいと願っています!

2015年9月14日月曜日

第13回 日本乳癌学会北海道地方会

一昨日の土曜日、北海道がんセンターにて「第13回 日本乳癌学会北海道地方会」が開催されました。

当日は朝早くから会場入りしてスライドのチェックをし、9:30から一般演題を聞いていました。10:30からは、ずっと準備をしてきた教育セミナーが行なわれました。診断部門は私が担当で、治療部門はGセンターのW先生が担当でした。持ち時間が45分にも関わらずスライドを作っているうちに60枚になってしまったため時間内に終わるかどうか心配でしたがなんとか終了することができました。このセミナーがパネリストの若手の先生方やフロアの参加者に少しでもお役に立つことができたならうれしいです。

ランチョンセミナーは第2会場でS病院の精神科の先生のお話を聞きました。日常診療にすぐに役に立つような内容をわかりやすくご説明していただき、とても勉強になりました。

ランチョンセミナーが終わるとすぐに午後の一般演題が始まりました。私は最初のセッションの座長を務めましたが、「検診」というセッションにも関わらず検診に関する発表はなく、超音波検査に関するものが2題、MRに関するものが2題、免疫染色に関するものが1題でした。いろいろ質問を用意していたのですが、発表時間がオーバーしたり、フロアからの発言が続いたりで、あまり私から聞くことはできませんでしたが、それほど時間を超過することなく無事に終えることができました。

コーヒーブレイクセミナーでは、S医大のK先生が、抗がん剤による有害事象(主に発熱性好中球減少症)のお話をして下さいました。この内容は、11月の私の講演の内容とも重なるので興味深く拝聴させていただきました。

最後の一般演題のセッションでは、G先生がピンクリボンイベントで使用したお手製の乳がんの自己検診用の触診モデルと超音波検査用のモデルの作り方などについて発表しました。普通の学会ではあまり見かけない内容の発表でしたのでひときわ異彩を放っていました(笑)。

今回の学会は準備も結構大変でしたが、それ以上に本番のストレスはいろいろと大きかったです(汗)。自分が発表する方がずっと気楽に思えました。なんとなく未だに気持ちがすっきりせず重いです。

2015年9月10日木曜日

明後日は乳癌学会北海道地方会

With Youが終わって一息つく暇もなく、今週末は乳癌学会の地方会です。

今回は、S医大のK先生から教育セミナーを頼まれため、結構な時間をかけて準備をしてきました。あまりに力を入れすぎたためスライドの枚数が多くなってしまい、おそらく全部は供覧することができないと思いますが、なかなか面白いスライドになったと思います。

今回の地方会は、N先生はおめでたいことがあったため発表は控えることになりました。G先生は発表しますが、私はセミナーがあったため、自粛する(サボる?)ことにしていました。ところがセミナーの準備をしている真っ最中に、今回の主催者のGセンターのT先生から口演の座長を頼まれてしまい、結局あまり楽をすることができなくなってしまいました(汗)。ただ、今回私が担当するセッションはパラメディカルが中心の第2会場ですので、わりと気楽にできそうです。ちなみに私のセッションには、いつも症例検討会に参加してくれているT病院のH技師さんやKT病院のK先生が演者に含まれていますのできっとアットホームな雰囲気でできるのではないかと思っています。

これが終われば10/27がKK社主催の薬剤師対象の研究会で乳がん化学療法に関する講演、11/20がKK病院主催の研究会でチーム医療の講演、翌日の11/21が、KK社の講演会のパネリストとストレスのかかる院外の仕事が続きます。それが終わったら、来年の乳癌学会の演題申し込み締め切りが間近に迫っていて、年内はずっと落ち着かない毎日が続きそうです。

さらに私事ですが、ついに年内に札幌市の北の果ての豪雪&猛吹雪地帯から中心街近くに転居することになり、そちらの件でもばたばたしています。ようやく目処がつきそうですので、おそらく11月くらいには転居ということになりそうです。これで吹雪の中の運転や連日の雪かきからは解放されます!

本州では豪雨による洪水被害が深刻なようですね…。ニュースを見て心を痛めています。少しでも被害が少なく済むように願っています。天候が不順になると体調も崩しやすいです。私もどうやらまた息子の風邪をうつされたようです(泣)。皆さんもどうかご自愛下さい。

2015年8月31日月曜日

第12回 With You Hokkaido 終了!

一昨日、札幌医大で「第12回 With You Hokkaido ”知ってほしい、乳がん診療の最前線”」が開催されました。


今年は天気も良くて昨年のようなJRのトラブルもなく、順調に終了することができました。ただ参加者は昨年より少し少なかったような印象です。

今年も最初にグループワークが行なわれました。私は、「緩和ケア」のグループで、参加者は患者さん7人、スタッフ3人の計10人でした。当初は患者さん4人の予定だったのが当日の飛び込みもあって少し多くなってしまいましたが、できるだけ皆さんに均等に話をしていただくように頑張ったつもりです。再発して治療中の患者さん、進行がんのため手術をせずに全身療法を行なっている患者さん、再発はありませんが、術後にメンタルで苦しんだ経過のある患者さん、患者相談の院内ボランティアを行なっているので勉強したいと思って参加した乳がん術後長く経過した患者さんなど、さまざまな背景を持っている患者さんたちでしたが有意義な話し合いになったならうれしいです。

その後大講堂に戻って代表世話人の霞先生のご挨拶があり、引き続いて今回のメインテーマの「緩和治療」「遺伝性乳がん」の講演が行なわれました。2つともすべての乳がん患者さんにとって少なからず関係があるはずなのにちょっと近づきにくい話題だと思いますが、とてもわかりやすく説明して下さいました。


そのあとあらかじめ集約していたアンケートを参考にしたモデルケースを元に「緩和治療」「遺伝性乳がん」に関するパネルディスカッションを行ないました。昨年に引き続いてのこのセッションですが、今年も壇上に上がることになってしまいました。ここ数日ずっと緊張していましたが、幸い発言を求められたのは一度だけでしたのでつつがなく終了しました。来年はもう少し時間を長くして、パネリストの間で意見が分かれるような話題を取り上げてみても良いのかなと思いました。

そのあとあけぼの会の活動報告と全国のWith Youの報告があって、今年のWith You Hokkaidoを無事終えることができました。参加した皆さん、お疲れさまでした。少しでも今後の療養、診療に役立っていただけることを願っています。

終了後は、以前から約束していたため、E先生と一緒にワインを味わってきました。

写真は、1軒目で飲んだ赤ワイン2本です。その後ちょっと懐かしい雰囲気の店でさらにグラスワインを飲み(何杯飲んだか途中から記憶なし)、楽しい時間を過ごしました。もちろんその後はひどい頭痛で横になれず、ほとんど眠れないまま朝を迎えました(泣)
昨日はアルコールが抜けてからニセコの1泊旅行に行ってきました(今日は夏休みでした)。久しぶりの温泉に癒されて戻ってきましたが、到着した途端、この間の疲れがどっと出てぐったりしているところです(汗)。

早めに休んで明日から仕事頑張ります!

2015年8月26日水曜日

乳腺術後症例検討会 41 ”副乳がん”

しばらくぶりのアップです。この間、さまざまな院外での仕事とプライベートの仕事が重なってなかなかブログを書く気力がわきませんでした。これから11月くらいまでイベントが続きますので余裕があるときに書くようにします。

今日は2ヶ月ぶりの乳腺症例検討会でした、手術が遅くなってしまったため、私だけ先に手を下ろして参加しましたが、G先生は途中から、N先生は別件の会議で結局参加できず、技師のNさんは私用で欠席とちょっと寂しい検討会になってしまいました(20名ちょっとくらいの参加でした)。



症例は3例。
1例目は、腋窩のしこりを自覚して来院。精査にて乳房内にがんが見つかったのですが、腋窩は皮膚腫瘤だと思って切除してみたら副乳に発生した非浸潤癌だったという症例でした。乳房内と副乳に同時発生した乳がん症例は非常に珍しいのではないかと思います。この腋窩腫瘤の超音波画像を見て”副乳発生の非浸潤がんなども考えられる”と言った関連病院の超音波技師のTさん、さすがです!

その他は、微細石灰化で検診精査となり、乳がんと診断されたのですが実は石灰化自体は良性だった症例と男性の浸潤性微小乳頭がんの症例でした。

その後、先日の日本乳癌学会学術総会で発表した3演題の概要を紹介して終了となりました。

今日はなんだかすごく疲れました…(汗)でも帰ったらファイターズが大谷投手の好投で勝っていたのでちょっと元気になりました!

2015年8月7日金曜日

がん治療の案内板〜ESMO (欧州臨床腫瘍学会)診療ガイドラインに基づいた患者向け情報

このたび日本癌治療学会が、ESMO (欧州臨床腫瘍学会)による患者さん向け情報の日本語版をWeb上で公開することにしました(http://www.jsco.or.jp/guide/index/page/id/136)。

日本乳癌学会も患者さん向けの診療ガイドラインを作成していますが(http://www.jbcs.gr.jp/people/people_gl.html)、冊子を購入しなければその詳細を読むことはできません(税別2300円)。この本も非常にわかりやすく解説していますが、有料ということで購入する方は少ないかもしれません。

ESMOの患者向け情報には、乳がんの基礎、検査法、治療法、治療の副作用、術後の検査などが掲載されています。ただ乳癌学会の患者さん向けガイドラインに比べると情報量は少なめで、言葉などは少し難しいかもしれません。またサプリメントや民間療法などに関する内容も乳癌学会の方が豊富です。乳癌学会の方はQ&A形式で書かれているのも一般の方にはわかりやすいかもしれません。

ざっと乳がんに関する概要を見たいのであればESMOの方が読みやすく、じっくりと細かい内容を知りたいのであれば乳癌学会の方が良いのではないかというのが、私が最初に受けた印象です。ネット上で両者を見比べて、もしESMOではわかりにくい、もしくは不十分と思われる方は乳癌学会の患者さんのための乳がん診療ガイドラインを購入してみてはいかがでしょうか?

2015年8月1日土曜日

センチネル陽性で腋窩郭清を省略した場合の盲点

ACOSOG Z0011という臨床試験の結果は、一般紙にも取り上げられるほどのインパクトのある結果でした(
http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2011/02/blog-post_12.html、http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2011/07/blog-post_23.html)。

簡単に概要を書きますと、”T1-2、明らかなリンパ節転移がない、乳房温存術を受け術後に乳房照射と”適切な補助療法”を行なう症例、においては、センチネルリンパ節生検でリンパ節転移が2個以下であれば腋窩郭清は省略しても局所健存率および全生存率を低下させない”というものです。

ただこの臨床試験にはその後いくつもの問題点が指摘されています。それでもこの結果はもうすでに世界中をかけめぐり、あっという間にコンセンサスを得てガイドラインにも掲載されているのが現状です。

センチネルリンパ節転移が陽性でリンパ節郭清を省略した場合の一番の問題点は、実際に何個のリンパ節転移があるのかを確認できないことです。当院で手術を行なった症例では、センチネルリンパ節転移が1-2個陽性の場合に、腋窩リンパ節郭清をしてみると、その1/4程度は4個以上の転移がありました。

私が知っているある患者さんは、他院で乳房温存術+センチネルリンパ節生検を受け1個のリンパ節に転移がありましたが、郭清はしなかったそうです。術後は通常の乳房照射を行ない、ホルモン療法のみで経過を見ていましたが、数年後に鎖骨上リンパ節、肺、骨に再発したとのことでした。

この患者さんがセンチネルリンパ節転移陽性と判断した時点で腋窩リンパ節郭清を受けていた場合、もしもリンパ節転移の個数が多数あったとしたら治療方針が変わっていたのではないか?という思いが頭をよぎりました。つまり、転移個数が多ければ、術後に抗がん剤を投与していたはずですし、胸壁+鎖骨上リンパ節領域への照射もしていた可能性があるのではないかということです。もちろんこれはあくまでも推測に基づく可能性の話ですので、抗がん剤や放射線治療をしていても同じ経過だったのかもしれませんが…。

ちょうどこのようなケースを以前の投稿(上に貼ったURL)で想定していたのを発見してちょっとびっくりしました。

要するに個々の症例を見てみると、正しい転移個数を確認できないことで適切な術後治療を受けられず、結果的に予後に影響が出る場合もあるのではないか?ということです。今までも指摘されていたように、Z0011では過半数に強力な化学療法を行なっていたために、その差、影響が出なかった可能性もあります。ER陽性の乳がん患者さんにおいてセンチネル陽性で腋窩郭清を省略する場合に、ホルモン療法のみという術後補助療法の選択は妥当なのか、もう少し検討が必要かもしれません。

もちろんセンチネルリンパ節に転移があった全症例に郭清を追加すれば、結果的に不必要な腋窩郭清をしてしまうケースも多くなります。そのために術後長期間にわたってリンパ浮腫に悩まされる患者さんが増えてしまうのもまた事実です。機能温存と根治性を両立させるのはなかなか難しいです。