2010年8月31日火曜日

乳癌の治療最新情報21 デノスマブ(骨転移治療薬)①

2010.8.25に第一三共株式会社がAMG162(デノスマブ)の国内製造販売承認申請を行ないました。

今のところ骨転移に対する化学療法剤はゾメタが代表的であり、優れた効果(骨折、痛みなどの骨関連イベントの減少、骨転移自体に対する増殖抑制効果、他臓器転移に対する付随効果など)が報告されています。実際ゾメタの登場により、骨転移の治療がずいぶん進歩しました。

今回承認申請したデノスマブは、「骨転移を有する進行性乳癌患者を対象としたデノスマブのゾレドロン酸(ゾメタ)対照ランダム化二重盲検多施設共同比較試験」において、有効性がゾメタを上回ったと報告されています。

デノスマブは、通常の生理的な骨吸収のメカニズムや骨代謝調整において非常に重要な役割を果たしているRANK-RANKL系のRANKLに特異的に結合する完全ヒト型モノクローナル抗体(分子標的薬)で、骨吸収を抑制するメカニズムを持ちます。

また、骨粗鬆症の治療薬としても国内第3相臨床試験を実施しており、アロマターゼ阻害剤による骨粗鬆症にも有効との報告もあります。リウマチに対する効果もあると言われており、今後さまざまな用途で用いられるようになるかもしれません。

これでまた乳がん再発治療の武器が増えました。骨転移は生命にはあまり影響しませんが、痛みや骨折など、QOL(生活の質)を著しく低下させます。デノスマブの登場は骨転移で苦しむ患者さんに新たな光を与えてくれそうです。

10/17(日)は乳がん検診(J.M.S)!

今年も10月の第3日曜日(10/17)はマンモグラフィが受けれる日曜日(ジャパン・マンモグラフィサンデー:J.M.S)です。

これは、NPO法人J.POSHが2009年から始めたイベントで、平日は仕事をしていたり、子育てでなかなか受診できない女性を対象に、全国の賛同施設に呼びかけて日曜日に乳がん検診を受けられるようにしたものです。

詳細はJ.POSHのHPに書いてあります(http://www.j-posh.com/jms.htm)。受診できる医療機関のリストもありますので、希望者は早めに申し込んで下さい。

ちなみに私の病院も賛同施設になっています。前日は乳がん患者会の温泉1泊旅行があるため、朝早くに戻らなければならないかもしれません(泣)。でも実際、平日の受診が困難な方は多いはずですので、せっかくのチャンスですから利用して欲しいものです。

2010年8月28日土曜日

第7回 With you Hokkaido報告


今日、札幌医大の講堂で第7回With you Hokkaidoが行なわれました。

以前にもタイムスケジュールを書きましたが、実際の内容と印象を報告します。

①基調講演1 「乳がん患者とコミュニケーション」保坂隆先生(東海大学医学部精神医学教授、聖路加国際病院ブレストセンター)

・がん患者さんの1/3はうつ病、適応障害などの精神疾患を併発する。がんの部位によっても有病率は違うが、乳がんは40%前後。なお、一般人のうつ病有病率は5%で、何らかの病気を患うと10%になり、入院を要する疾患にかかると20%に増加する。
・抑うつの症状には、①抑うつ気分(ゆううつ、気分が落ち込む、楽しくない、悲しい)、②精神運動性抑制(物覚えの低下、考えがまとまらない→「仮性痴呆症」、何もしたくない、おっくう)、③身体症状(食欲不振、体重減少、頭痛、肩こり、不眠など→「仮面うつ病」)などがある。
・抑うつの病前性格には、①メランコリー親和性性格(協調性が高い、ルールに従い、ルールに乗ることを好む→「いい人」)と②執着気質(完全癖が強く最後までやり通す→「真面目な人」)の二つがある。①は変化に弱いため、喪失体験(家族の死、リストラなど)があるとうつ病を発症しやすい。②は心身の加重(過重労働、成果主義など)が加わるとうつになりやすい。
・主治医には「自分の患者はうつになって欲しくない、うつのはずがない」という思いがあることと、「乳がんになれば気分が落ち込むのは当然だ」という正常反応の拡大解釈があるため、うつを正確に診断することは難しい。
・妻と死別した夫は、妻が生きている夫より4年生命予後が短い(男女逆の場合は1.9年だけ…)、特に死別後1年以内に病気になったり急死する率が高いというデータもあり、がん患者家族のケアも重要。
・集団精神療法やグループワークががん患者の生存期間を延長するかどうかははっきりしていない。1970年代のデータは有効という結果だったが1990年代の再検証では有意差が出なかった。これは近年ではこれらの治療を受けない群でも患者会やネットなどで精神的なストレスの軽減ができていたからかもしれない。したがって精神療法などの介入は無効とは言えない。
・医師に好かれる患者(協調性があり、おとなしく、あまり質問しない)の予後は悪く、嫌われる患者(予約通り受診しない、うるさい)は長生きするという傾向がある?→断れるものは断る、嫌なものは嫌だと言うようにしよう!
・抑うつ症状の発生予防法…①リラクゼーション(腹式呼吸、自律訓練など)②イメージ療法(がん細胞を免疫細胞が食べるイメージを思い描きながら寝る、など)
・「患者学入門」…医師は患者とのコミュニケーション法について勉強し始めたばかりだから、患者自らも勉強するべき。①知る責任もある ②病気、治療内容を熟知する ③メモを取る ④十分な説明を必要とする場合は診療時間外に医師にアポを取る ⑤重要な話には家族や友人を同伴する ⑥即決しない(1週間くらいかけて頭を冷やす)

・盛りだくさんでしたが、とても楽しく有意義なお話でした。


②基調講演2 「美しきコミュニケーションスキル」堺なおこさん(フリーアナウンサー)

ピンクリボン in Sapporoのイベントでご一緒させていただいたりS放送局のFM放送に出演させていただいた縁のある堺さんが、人とコミュニケーションを取るための注意点や秘訣を参加型のトークで教えて下さいました。
初対面の印象は最初の6秒で決まってしまい、そこで悪印象を与えると、回復するのに2時間を要する。そして最初に与えた印象は3年間持続する、とか、挨拶などは「ラ」の音階で話すと印象が良い、コミュニケーションを取る場合の座る位置は、ななめが良い、など、すぐに実行できそうな内容を教えて下さいました。

③グループワーク

今回は「手術後の不安・治療」のグループに入りました。いつもは患者さんからの質問コーナーのような形になってしまうのですが、今回は患者さん同士が自発的に体験談などを語ってくれてスムーズに時間が経過しました。

④癒しのフラ ピンクリボンフラダンサーズ(写真)

ちょっと出遅れてしまいましたが、今回もやはりG先生はフラをノリノリで踊りまくっていました。私の患者さんにもフラのサークルに入っている方がいます。リハビリにはちょうど良い運動量なのかもしれません。

⑤基調講演3 「乳がんの方が利用できる社会保障制度、乳がん診療における医療費」高橋由美子さん(札幌医大看護部師長)

高額な医療費は患者さんの家計を圧迫します。今までも何度も相談されたことがありますし、相談できずに通院を中断してはじめて経済的困難を抱えていることを知ったケースもありました。今回のお話は、高額療養費制度、高額療養費貸付制度、高額療養費受領委任払制度、障害年金制度、介護保険サービスなど、詳細は割愛しますが、知らないと損をしてしまう制度をまとめてわかりやすく紹介して下さいました(詳細はネットで検索するか、病院の相談窓口へ)。

長くなってしまいましたが、今回もとても充実した内容で勉強になりました。ただ、リレーフォーライフ(室蘭)と重なっていたためか、今回は参加者が少なかったのが残念でした。来年はもっと早くから宣伝して多くの患者さんや医療従事者に参加してもらえるように頑張ります。

2010年8月26日木曜日

乳腺術後症例検討会6 講演


今回の症例検討会は趣向を変えて、たまたま北海道の学会に来られた岡山のI先生に乳腺疾患の検査(MMG、US、MRI)についての講演をしていただきました。I先生は乳がん検診をはじめ、成人病検診などの検診活動や治療、疾病予防に積極的に取り組んで来られた先生です。

あらかじめ各方面にインフォームしたおかげで51名の参加者が集まり、会場はいっぱいでした(写真)。

講演内容は乳がんの基礎、疫学から各検査法のガイドラインや病理組織との対比など、幅広くお話をしていただきました。普段は個々の症例の診断が中心ですから断片的な情報共有が主になっています。今まで積み重ねてきた知識を整理するには良い機会だったのではないかと思います。

終了後はI先生を囲んで懇親会を開き、先ほど帰宅したところです。たまには他の病院の違う世界で仕事をしている方のお話を聞くのも勉強になります。また明日から新たな気持ちで診療に取り組みたいと思います。

2010年8月24日火曜日

代替補完療法6 ホメオパシー〜続報

やはり科学者はこの事態を無視はできませんよね…。

日本学術会議は代替療法「ホメオパシー」の効果について、「科学的な根拠がなく、荒唐無稽」とし、医療従事者が治療法に用いないよう求める会長談話を24日、発表しました(http://www.asahi.com/national/update/0824/TKY201008240373.html)。

まあ、そもそもこの治療を信じている人たちは現代医療を否定しないと言いつつ、非科学的な論理で効果を主張していますので、科学者が何を言おうと彼らの論理で否定するのでしょう。明日の日本ホメオパシー協会の反論に注目しています(http://www.jphma.org/)。

患者さんが個人的にこの治療を希望して服用する分には否定はしませんが、「効果がある」と他人に勧めるだけの根拠はないことを利用者も理解しなければなりません。また医薬品ではないのに、「癌に効果がある」などと効能を表示して販売を行なえば薬事法違反になります。

ただ、このへんは微妙ですね。おそらく公式見解では体質改善や健康増進目的、免疫力向上目的だと主張するのでしょうが、利用者の中には病気の治療目的でホメオパシーに頼っている場合も多いはずです。また、組織の末端の人たちは病気に対する効能を主張してレメディを勧めている可能性もあります。しかし仮にそれが発覚しても一部の誤った考えを持つ人間がやったことだと言えば組織的な責任は問われないのです。

この問題は歴史が長い分、一筋縄ではいかないような気がします。
もしホメオパシーを信じる方がこのブログの読者にいらっしゃるのでしたら、治療目的でホメオパシーを信じるのは個人の範囲内にとどめておくようにお願いいたします。

月経周期でコレステロール値が変動!

今回は乳がんとは直接関係ない話ですが、女性のとっては大切なトピックです。

エストロゲンはコレステロール上昇を抑制する効果があることは以前から報告されています。実際、患者さんの血液検査結果を見ると閉経後にコレステロールの上昇が見られることは多いのです。これは閉経前の乳がん患者さんにLH-RH agonist(ゾラデックスやリュープリン)を投与した場合も同様です。

一方、閉経前女性のコレステロール値の変化についてはあまり報告を聞いたことがありませんでした。今回Eunice Kennedy Shriver米国立小児保健発育研究所(NICHD)のEnrique F. Schisterman氏らによる報告によると、月経周期中はエストロゲン値が上下するためコレステロール値が変動することが確認されたということです。女性のコレステロール値を正確に把握するには、医師は測定時の月経周期の時期を考慮し、2回の月経周期で各月の同時期に測定する必要があると述べています。


<研究の概要>
・対象:18~44歳の健常な女性259人

・方法:2回の月経周期において14回程度採血し、コレステロール値、トリグリセライド(中性脂肪)値とエストロゲン値とを比較。また、排卵を示すホルモンレベルを検出するため、自宅用排卵日検査薬を用いて月経周期の時期をグラフ化した。

・結果:
①大多数(94%)が2回の月経周期で14回以上測定した。ほとんどの女性は運動をしており、喫煙癖はなかった。
②コレステロール値が全ての測定において200mg/dLを超えた女性は5%のみであったが、19.7%は1回以上200mg/dLに達した。
③40歳以上の一部の肥満女性は他の女性に比べてコレステロール値の変動が大きかった。
④エストロゲン値が上昇すると、HDL(善玉)コレステロール値も上昇し、排卵時に最大となった。同時に総コレステロール値、LDL(悪玉)コレステロール値、トリグリセライド値は低下し、この低下はエストロゲン値が排卵で最高値になる2日後から始まり、月経開始直前が最も低かった。


これらの結果はある程度推測できた内容ではありますが、今まで証明されていなかったことなので参考になります。
乳がん患者さんにとっては直接関係はない話ではありますが、エストロゲンの変動がコレステロール値に影響を及ぼしていることがご理解いただけたのではないかと思います。

病院でコレステロール値を調べた際は、月経周期のどの時期だったかメモしておくと良いかもしれませんね。

2010年8月21日土曜日

札幌ドームにKiKi&ピンクリボンクワイヤ登場!


今日札幌ドームで行なわれた日本ハムファイターズvs埼玉西武ライオンズの試合開始前に、先日のピンクリボン in SAPPORO夏休みフェスティバルで素晴らしい歌声を披露してくれた、ゴスペルシンガーのKiKiさんと乳がんの患者さんや医療関係者などから構成されたピンクリボンクワイヤのステージが行なわれました。

今回はピンクリボンの特別プログラムとして、KiKiさんによる国歌斉唱の前に、KiKi&ゴスペルクワイヤがファイターズの勝利と世界中から乳がんで苦しむ人がいなくなることを祈って『VICTORY』を歌いました。また、始球式では、ピンク色のボールが使用され、田中賢介選手から始球式を行うシニアリトルリーグの選手に手渡されました。

このイベントを私は昨日知りました。S医大の先生方や小樽でピンクリボン運動に取り組んでいるCさんなど、知人も出演するので楽しみにしていたのですが…。

なんと今日の試合放送はスカパー!のGAORAのみで民放の中継はなし…。残念ながら見ることはできませんでした(泣)。

なおこの試合はアインズ薬局などでおなじみのアインファーマシーズのSPゲームでした。アインファーマシーズは、このたびピンクリボンを応援して下さることになり、今日からピンクリボンキャンペーンがスタート(写真 HPより転載)。道内各店舗での指定商品の売上げの一部がピンクリボンinSAPPOROに寄付されるそうです。また、指定商品を買った方の中から50組100名を11月のファンフェスティバル2010に招待して下さるそうです。詳しくはアインファーマシーズのHPをご覧下さい(http://ainz-tulpe.ainj.co.jp/contents/event/1010.html)。キャンペーンは10月10日(日)までです。