最近は以前に比べるとかなり積極的に臨床試験が日本国内でも行なわれるようになってきています(浜松オンコロジーセンターの渡辺亨先生から見ればまだまだのようですが…)。私たちの施設にも参加依頼されるようになってきています。マンパワー不足と私の怠惰な性格のために、今のところ十分な協力ができていないのが現状ですが、これからは積極的に参加していきたいと思っています。
臨床試験に参加するためには、院内の倫理委員会を通さなければなりません。以前はこのような体制が整備されていなかったことと、私たちの病院の基本方針として、”安全性と有効性が保障された治療を患者さんに提供する”という考え方だったため、今までは臨床試験には消極的でした。しかし、最近の臨床試験は、安全性や臨床試験に参加された患者さんに著しい不利益が生じないような配慮もされるようになってきていることと(もちろんある程度のリスクは背負わなければなりませんが…)、他人まかせでは日本の医療が世界からは遅れてしまうし、そのことが患者さんに不利益を与えることになってしまうということから、現在の院長は、臨床試験への参加を前向きに検討してくれています。
乳癌領域においてもいくつもの国内の臨床試験が行なわれています。私が注目している臨床試験をいくつかご紹介します。
①N-SAS-BC05(AERAS)試験
アナストロゾールを含むホルモン療法を5年投与で終了した群とアナストロゾールをさらに5年投与した群との比較試験。ホルモン療法は5年だけで十分なのかもっと投与すべきなのかを比較した試験です。タモキシフェンでは上乗せ効果は出ませんでしたが、AI剤ではどうなるのか注目です。
②N-SAS-BC06(NEOS)試験
レトロゾールの術前投与の効果を検討する臨床試験です。海外でもER(+)HER2(-)の乳癌に対しては、術前化学療法よりも術前ホルモン療法の方が合理的であるという考え方が一般的になってきていますが、実際には化学療法が行なわれているのが現状だそうです。国内発のこの臨床試験結果が、世界中の乳腺外科医の考え方に大きな影響を及ぼすことになるかもしれないと期待しています。
③SUPREMO試験
中等度の局所再発リスクをもつ患者さんに(T1n+、T2N1、T2n0+ GradeⅢ or ly+)、胸壁照射が有効かどうかを検証する試験。高リスク(腫瘍径5cm以上、リンパ節転移4個以上)に対しては有効性が証明されている胸壁照射の適応が中等度リスクに対しても拡大されるのか注目です。
④BEATRICE試験
トリプルネガティブ(TN)乳癌に対して、標準的な術後補助化学療法にベバシヅマブを追加することの有効性を検証する臨床試験。再発率が高く、再発後の標準的抗癌剤の有効性が低いと言われているTN乳癌に対して再発予防効果の上乗せがあるかどうかを検証します。先日ASCOで発表されたPARP1阻害剤の上乗せ効果を検証する臨床試験には国内からの参加はなかったようですが、ベバシヅマブに関しては国内からも参加できるようです。
⑤J-START
40才代の乳がん検診被検者に対して、マンモグラフィ単独と、マンモグラフィ+超音波検査の2群に分けて、超音波検査の上乗せ効果を検証する日本で行なわれている世界初の臨床試験。
40才代においてはマンモグラフィだけの検診では約30%の乳癌は指摘できないと言われています。今回の臨床試験で良い結果が出れば、30才代の女性に対しても有効な乳がん検診手段を得るきっかけにもなるはずだと私は信じています。
このようにいくつもの注目すべき臨床試験が進行中です。
結果を待つだけではなく、積極的に参加しなくてはいけないと、このブログを書きながら決意を新たにしました。
4 件のコメント:
興味深い臨床試験ですね。特に③の超音波併用検査の上乗せ効果については、かなりの高い数値が期待できそうですね。^^kimikomew
kimikomew3824さんへ
超音波併用の上乗せ効果の結果はとても期待しています。ただ、超音波検査は技師さんの技量によって診断精度がかなり変わりますから、その点だけが少し心配です。J-STARTに登録している施設はそれなりに経験のある施設のはずなのでたぶん大丈夫だとは思いますが…。うちの施設での経験とデータからは、超音波検査の有用性はかなり高いですのできっと良い結果がでるはずだと私は信じています。
私は実際に自分が参加するまで、臨床試験というもの自体知りませんでした。
一時期、臨床試験で得られる貢献以上に、リスクの事の方がとても心配になってしまい参加する事の意義について悩んだりしていましたが、安全性などいろいろなご配慮を頂いた上での試験という事がようやく納得できましたので、私も、条件が合う患者さんであれば、積極的に、臨床試験に参加される事をご提案したいです。
いろんな年代での治療や検診の選択肢の幅を広めるためにも有効だと思われる臨床試験を実地できるよう、患者さんが参加しやすい環境にする事も大切ですよね。
ほんとに今もいろんな試験が行われているんですね。
これらの結果にも期待したいですね。確立したエビデンスの元で安全な治療計画が立てれますし、一人でも多くの患者さんが将来の治療に、恩恵を受けて頂きたいと願います。
kimity0115さんへ
臨床試験の成否は患者さんの理解と協力が一番必要です。kimity0115さんのように正しく理解して積極的に参加していただくことは将来の乳癌治療においてとても重要なことだと思います。
それと同時にやはり治療者側の積極的な参加も必要です。臨床試験に医療機関が参加するというのは実は医療者側からみるととても手間のかかることなのです。様々な書類を書かなければなりませんし院内の手続きも大変です。作業は日常業務が終わってから時間外で行なうことがほとんどでその分の報酬はほとんどありません。ちまたでは医者が儲けるために患者さんを実験台にして臨床試験をやりたがっていると思っている人たちもいるようですが、少なくとも今はほとんどの臨床試験に携わる医師たちにはそのようなメリットはありません。昔のドラマの世界ではそんなシーンがありましたけどね。
ですから臨床試験に携わる医師たちも、参加する患者さんたちが考えるのと同じように将来の乳癌の早期発見や治療のために、という意識を持って臨床試験を行なっているはずです。
安全性に十分配慮された有益な臨床試験がこれからも数多く行なわれることを期待したいですね。
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