先日、外来に受診した患者さんから、”エラストグラフィっていう新しい検査でさらに早期の乳癌が見つかるってTVで出てました”と言われました。どんなTVだったか、どんな内容だったかは見ていないのでわかりませんが、もしかしたら正しく視聴者に伝わっていないのかもしれません。
エラストグラフィ(Elastography)は、筑波大の植野映先生らと日立メディコが中心になって日本で開発された超音波検査の新しい技術です。腫瘤の硬さを超音波画像モニター上で色分けして表示することにより、その腫瘤がどの程度悪性を疑うか、または精密検査が必要かどうかを判断する検査法です。色分けは、軟らかいものが赤、中間(乳腺組織や良性腫瘍)が緑、硬いものが青で表示され、癌は青で表示されることが多いとされています。それらを弾性スコア1-5で判定し、スコア1-2を良性、3は境界、4-5を悪性疑いと判定します。
何度かここでも書いていますように、若年者の乳がんの早期発見にはマンモグラフィ単独では不十分で、超音波検査が非常に有効です。ただ、問題点としては、検査をする医師または技師の技量によってその成果が大きく左右されるということが挙げられています。エラストグラフィはその欠点を補い、若年者の早期発見に役立つということが期待されているようです。
しかし、経験が少なくてもエラストグラフィがあれば超音波検査で早期乳癌が診断できると安易に考えるのは危険だと私は思っています。なぜなら、エラストグラフィはあくまでも補助的な技術だからです。通常の超音波画像(Bモード)を見て、病変があった場合にエラストグラフィを使って硬さを見る、というのが通常の使用方法です。したがって、Bモードで病変を見逃せば結局同じです。また、エラストグラフィで陽性(つまり”硬い”)と判定されない乳癌もあるということを理解した上で使う必要があります。特に腫瘤像非形成性病変(非浸潤癌など)の場合には悪性でもスコア1-2となる場合が時々あります(偽陰性)。ですから早期癌の発見に役立つとまでは言えないのです。また良性(線維腺腫など)でもスコア4-5と判定されることもあります(偽陽性)。
Bモードで明らかに良性と思われる腫瘤(嚢胞など)に対してはエラストグラフィは不要であり、明らかに悪性の腫瘤はエラストグラフィをするまでもないので、有用性があると思われるのは、良悪の判断が困難な腫瘤ということになるのですが、上で述べたような偽陰性の問題もあるため、結局、悪性の可能性が考えられる場合には、私ならエラストグラフィが陰性であっても細胞診を念のために勧めると思います。
ですから、真にエラストグラフィが有効なケースというのは限られてしまいます。良性の可能性が極めて高いけど少しだけ気になる場合に、精査とするかどうかを判断する補助的診断法(つまり検診における要精査率を下げるため)として、この検査法が最も威力を発揮するのだと思います。
エラストグラフィはまったく新しい観点から考えられた素晴らしい技術だと思いますし、うまく使いこなすことによって超音波検診の現場に様々なメリットを与えてくれると期待しています。しかし、エラストグラフィを行なえば簡単に早期乳癌の発見率が上がるわけではなく、やはり超音波検査を行なう医師や技師の技量の向上が絶対不可欠です。新しい技術が導入されることによってそのことが軽視されはしないかということを私は少しだけ危惧しています。
4 件のコメント:
はじめまして。50歳のJと申します。
ネットで検索していて先生のブログにたどり着きました。
大変お忙しいとは存じますが、ご一読いただけたら幸いです。
30代後半の時に乳がん検診でひっかかり、それ以後3か月~年に1度は定期的に
主治医の下で検診を受けてきてました(間が空くこともありましたが)。
乳腺症でしょうと言われ続けてきましたが、昨年11月に受けた検診で、
様子を見て大きくなっていたら手術(おそらく摘出生検のことだと思われます)して診断しますと言われました。
1か月後の12月に診察を受け、大きさは変わりませんでしたが細胞診をしました。
結果は検体適正でしたが、判定不能ということで今週摘出生検をします。
私がかかっている病院ではマンモトーム生検はしないようですし、
摘出生検ではっきりさせるのは、リスクがあったとしても承知済みです。
エコーでは周りがもやもやした6.9ミリ×4.8ミリの丸いしこりが写っており、
エラストグラフィでは青く表示されています。
一昨年もこのしこりはあったようですが、大きさは6ミリで、エラストグラフィでは青と緑が混じった状態で、
どちらかというと緑が多い気がしました。
一昨年の診断は、また1年後の検診でいいでしょうとのことでした。
しこりの形は昨年と変わっていないような気がしましたが、この場合悪性である確率はどのくらいでしょうか。
11月の初診時から3キロも体重が落ちかなり精神的に参っています。
主治医に確認してもどちらとも言ってくれず落ち込んでいます。
もう少し待てば結果が出るので待つべきなんでしょうが、不安で仕方ありません。
画像を実際にご覧になったわけではないのでご無理を申し上げているかとも思いますが、
一般的にエラストグラフィで青く表示されるしこりはガンである確率が高いのでしょうか。
ちなみにマンモグラフィでは映っていなかったようです。
しこりの位置は乳首の真下で、もしガンだったら乳首を温存するのは難しいようです。
自己触診ではしこりにはまったく触れません。
ご意見をいただけたら助かります。よろしくお願いいたします。
>匿名さん(Jさん)
はじめまして。
まず、Jさんがおっしゃる通り、実際に画像を見ていない私が悪性の確率を述べるのは控えさせていただきます。エラストグラフィもJさんが見た印象だけで軽率にお答えすることはできません。実際に検査をした施設でお聞き下さい。
ただちょっと気になることを述べさせていただくと、細胞診で鑑別困難だったということですが、摘出生検の前に針生検をしなかった理由はお聞きになりましたか?マンモトームがなくても針生検はどこの施設でもできるはずです。針生検をしても診断がつかない可能性がある(乳管内乳頭腫や乳管腺腫か非浸潤がんか微妙な場合など)もしくは針生検が困難な位置にあるというのならやむを得ないと思いますが…。
いずれにしても疑問があるのでしたら主治医にまずお聞き下さい。主治医がどちらとも答えてくれなかったのは、どちらの可能性もあるからだと思います。可能性が何%なのかにいまこだわることはあまり意味がないと思います。なぜなら画像診断はあくまでも推定診断であり、最終的には組織で診断することになるからです(針生検か摘出生検かは別として)。悪性の可能性が10%であったとしても組織検査でがんの可能性はあるわけですから、安心はできませんし、90%の確率であっても良性の可能性はあるわけですからがんだと決めつける必要もないということです。
経過観察すると言っているわけではないのですから確実に診断はつくはずです。ですから繰り返しになりますが確率にいまこだわることはお勧めしません。以上です。
Jです。
お忙しい中、早々のお返事ありがとうございます。
針生検についてですが、細胞診から1か月後の次にどうするかの話になった時に(経過観察か手術か)、
手術はマンモトーム生検ですかと聞いたら、マンモトームでは判断できないというようなお話だったと思います。
当然針生検もできないと理解してしまったのでなぜ針生検ができないのか聞きませんでした。
また、もしガンだったらしこりが固いためか硬癌を疑っておられるようでした。
疑問が生じたら主治医に聞くのが一番いいとは思うのですが、
地方では乳腺の専門の先生が少なく、疑問が生じても聞くのに躊躇してしまうのが現実です。
画像診断は推定診断なんですね。小心者のため、画像でもうがんだと自分で勝手に決めつけて落ち込んでいました。まだどちらともわからないもので悩むのはよくないですね。少し心が軽くなりました。
的確なアドバイスをありがとうございました。
勇気をもって今日の摘出生検とその後の診断に臨みたいと思います。
このような場を作っていただいている先生に感謝です。
本当にありがとうございました。
>匿名さん(Jさん)
マンモトームで診断できないと判断したのでしたらそれより採取量が少ない通常の針生検では診断できないことになりますが、もし本当に硬がんを疑っているのでしたら針生検でも診断可能なはずです(乳管内乳頭状病変、つまり乳管内乳頭腫か非浸潤がんかの鑑別の場合は針生検でも診断が難しいことはありますが…)。そのあたりがJさんが思っている内容と主治医の意見と完全に一致しているのか疑問があります。どうして針生検(もしくはマンモトーム)で診断できないのかお聞きしてみてはいかがでしょうか?もしかしたら部位的に困難なのかもしれませんよ?
でももう摘出生検を行なったのでしたら結果を待つしかありませんよね。良い結果をお祈りしています。それではお大事に。
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