ここ数年、がんワクチンの研究報告が次々と発表されてきています。私もがんワクチンに詳しいわけではありませんが、分子標的薬に続く新しいタイプの化学療法剤として注目しています。なお、現在でも一部の医療機関でこの治療が行なわれていますが、いまだに国内臨床試験中の治療法であり、保険では未認可であることに注意が必要です。また金額も高額です。
がんワクチンは、簡単に言うとインフルエンザワクチンなどと同じように、癌細胞の一部を抗原として免疫細胞に認識させて攻撃する治療法です。自分の免疫細胞を活性化させて癌細胞だけ攻撃する、ということで期待されているのです。
現在国内で臨床試験が行なわれているのは、癌細胞のタンパクの一部(ペプチド)を合成して数回皮下投与し、これを抗原と認識したキラーT細胞に攻撃させるというペプチドワクチン療法です。HLAという白血球のタイプで投与可能かどうか判断します。
その他、HER2/neuというタンパクをターゲットとして顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子(GM-CSF)を同時に投与して効果を高めるペプチドワクチン療法や、免疫細胞の一種の樹状細胞を採取して、その患者さんの癌細胞を抗原として認識させて(その患者さん独自のオーダーメイド)再び体内に戻す樹状細胞ワクチン療法などがあります。
最近米国から報告された方法は画期的です。腫瘍特異的抗原を搭載した直径8.5mmのポリマーディスクを皮下に植え込み、腫瘍を攻撃する免疫システムを再プログラミングするという手法を用いて、悪性黒色腫に効果があったとのことです。一度植え込むだけで持続性に効果がみられるので、非常に有効で使いやすいと報告されています。
免疫療法は、古くは丸山ワクチンなど、いくつもの治療法が開発されては効果が否定されて実臨床からは消えていきました。
しかし、癌細胞のみを持続的に自分の細胞で攻撃するというワクチン療法は非常に魅力的です。ですから長年の間、この魅力に取り憑かれた研究者たちが熱心に研究をすすめてきたのです。そして今ようやく実を結びつつあるような気がします。
ただ、インフルエンザワクチンでも副作用が問題になったように、がんワクチン療法でも重篤な副作用が起こりえます。ですから、慎重に臨床試験を行なってから使用すべきだと私は思っています。また、実際の生体内の反応というのは、上に書いたような単純なものではありません。癌細胞も生き残るために必死に抵抗してきます。ですから、思うような結果が出ないこともあるようで、まだまだ工夫の余地はあるはずです。
これから続々と世界中の臨床試験の結果が報告されてくると思います。早く効果的で安全性の確立したがんワクチンを保険で使用できるようになることを期待しています。
2 件のコメント:
先日の事業仕分けでがんワクチンや重粒子線療法の研究予算が大幅にカットされたらしいと聞いたんですが…
体への負担が少ない治療法っていうのは上の方から見たら「ムダ」なんですかねぇ…(^^;
なんとなく憤りを感じました。
まだ研究段階とは言え希望の光ともいえるがんワクチン、早く実用化されることを祈ってます。
>mayさん
そうですね。無駄はおおいに削っていいですけど、医療の分野はもっと配分してもよいくらいだと思います。どうも最初に削減予定額があって、これに合わせているようにしか見えませんよね。せっかく良いことをしようとしているのに残念です…。
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