先日ある乳癌関係のサイトを見ていたところ、非浸潤癌で乳房全摘を受けた患者さんのコメントに対して、
”0期(非浸潤癌)で全摘をされたなんておかしいのではないか?0期なら温存手術ができるはず”
という書き込みがありました。
同じような話は何度か耳にしたことがありますが、”非浸潤癌(つまり非常に早期な状態)”であることと、”温存術が可能である”ことは、別の次元の話です。
非浸潤癌は、転移能力を持っていない超早期の状態の癌ではありますが、広がりが広ければ温存術は適応外です。場合によっては、乳房全体に広がっていることもあるのです。例えば、悪性の微細石灰化が広い範囲で見られる場合は、ガイドライン上でも適応外となっていますし、超音波で非浸潤癌による不整な乳管拡張が広く確認される場合やMRで広範囲に造影される病変が見られる場合も温存術はできません。
早期に見つかったのだから乳房を残してあげたいと私たちも思うのですが、癌の性質によってはあまりしこりを作らずに非浸潤癌のまま広く広がってしまうタイプがあるのです。
もちろん乳房温存術で取りきれる非浸潤癌もあります。しかし、もし非浸潤癌で切除断端に癌が残ってしまった場合には、より慎重な対応が必要になります。なぜなら非浸潤癌は、完全切除(全摘)してしまえば本来100%治る癌だからです。
通常、温存術で乳管内進展した癌(非浸潤癌)がわずかに遺残してしまった場合は、放射線治療の追加(電子線)で経過をみる場合がほとんどです。しかし乳房温存術全体で見ても、年率1%くらいの局所再発は起こります。このうち約半数は浸潤癌として再発すると言われています。つまり、最初に全摘してしまえば100%治癒したはずのものが、遠隔転移のリスクを背負うことになるのです。
浸潤癌は最初からある程度の遠隔再発リスクを背負っていますから、局所再発によるリスクの上乗せはさほどでもないかもしれませんが、非浸潤癌の場合は遠隔再発率0%が0ではなくなるのですから意味合いは大きく異なります。
ですから広い非浸潤癌に無理して乳房温存術を行なうことはあまりお勧めできません。美容的にも無理に温存するより再建したほうが、ずっときれいになります(お金はかかりますが…)。
非浸潤癌はすべて全摘すべきだと言っているわけではありません。私の患者さんの中にも非浸潤癌で乳房温存術で経過をみている患者さんはたくさんいます。問題は、美容的に許容できる範囲内で完全切除できる見込みがあるかどうかなのです。そして、手術の結果で癌の遺残があった場合には、浸潤癌で再発するリスクを背負っても温存術のままで経過をみたいかどうかをよく考えて再手術するかどうかを判断すべきであるということです。
少し話がそれましたが、”早期癌(非浸潤癌)なら温存術を選択するのが当然”という考え方が正しくないことが理解できましたでしょうか?
6 件のコメント:
私の場合は温存手術でしたが、術前に乳がんの知識が殆ど無く、メディアからの情報で「温存手術」という方法がある事を知り、胸が残る方が良いと思い医師に温存を希望しました。
検査の結果温存が可能だったので、その時は単純に喜びましたが、
切除の範囲や切開の場所など何度か説明を受けたけれど、図で説明を受け想像していたのと術後の胸の形は違っていました。
胸の内側を扇型に切除しているので、市販のパットでは補正出来ません。
女性の気持ちとしては「全摘」は嫌と思って当然なのですが、パットによる補正も再建をするにしても、いびつに残った胸が厄介な場合もあります。
芸能人の方が温存で元の形とあまり変わらないと言うのを聞いた事がありますが、胸の大きさや腫瘍の場所によって人それぞれだと言う事も、これから手術をされる方に知って欲しいです。
基本は再発のリスクが少ない事が一番大切ですから。
>ちっこさん
そうですね。部位や切除範囲によってはせっかく乳房を残してもがっかりする結果になることもあると思います。
周囲の乳腺や脂肪を寄せてなるべく変形をおこさないように努力はしますが、無理して乳房温存術を選ぶより、きれいに全摘して再建したほうが良いケースもあります。もう少し乳房再建が気軽に受けられるような体制があれば良いのですが、形成外科医の数の問題もありますし、保険適応の限界もありますから誰でもどこでもというわけにはいかないのが現状です。
温存、色んな意味の温存があるかと思います。
私は、最後の砦的な、乳輪・乳頭の温存だけは残したい…
でも、なかなかそういったガイドラインは見つかりません。
非浸潤型乳がん、腫瘍6センチ、石灰化あり。
乳頭直下7ミリまで迫っているそうです。
乳腺外科の先生、2人見解が分かれています。
・乳輪、乳頭も完全切除。全摘
・術中生検で陰性なら乳輪、乳頭を残留、他は全摘。
かなり悩みます
>匿名さん
検査所見を見ていないのでなんとも言えませんが…。乳頭乳輪を残すのは同時再建の場合ですよね?二期的ならかえって形をきれいにすることが難しい場合がありますので注意が必要です。ただし、同時再建して切除断端が陽性だった場合にどうするかも考えなければなりません。ですから乳頭側の断端が陽性になる可能性が高い場合には避けるべきだと思います。
それぞれ一長一短ありますのでよく説明をお聞きになって判断して下さい。それではお大事に!
以前の記事にコメントしてしまって申し訳ありません。
私も非浸潤がんでしたが、しこりが広範囲に広がっていた事、再発リスクも考えて、迷わず全摘を選択しました。術後病理でも浸潤は見られず
そのまま無治療で5年が経ちますが、3ヶ月に1回の定期健診と、年1回のマンモや超音波検査にプラスして念のためCTも撮ってもらっていました。
ところが、今年のCTで肺に影が1つ見つかり「肺転移の疑い」と書かれていて、転移か良性か?で、気管支鏡をする事になってしまいました…
検査はこれからですが、大変ショックを受けて落ち込んでいます。
今まで転移だけは疑ってもいませんでしたので…
主治医も今まで非浸潤がんの患者さんで転移した人はいないという事と、転移は多発で見つかりやすい…というお話はしてくれましたが、画像だけではわからないと言うだけで転移を強く否定されないので見た限りかなり可能性が高いのかと思って不安な日々を過ごしています。
でも、先生の記事を拝見して転移の可能性は限りなくゼロなのでは?と、少し安心しました。
>匿名さん
はじめまして。
孤立性の肺腫瘤の場合、もちろん肺転移の可能性もありますが、原発性肺がんや炎症性腫瘤の可能性もあります。
悪性を疑う所見が強くなければ短期間の経過観察を行なうことも多いです。画像を見ていませんのでなんとも言えませんが、ちょっとひっかかる所見があったのかもしれませんね。まずはよく調べてもらって下さい。
良性であることをお祈りしています。
それではお大事に。
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