2010年3月11日木曜日

病室には植物の持ち込みを禁止すべき?

今回は乳がんとは直接関係ないお話です。

私たち医療従事者は、生花や木を院内には置くべきではないと教えられてきました。理由は、植物や土に細菌がいるから、とか、昔から”(病院に)根付く”から縁起が悪いのでだめだとか、あまりはっきりした根拠があったわけではありませんが何となくそんなものだと思っていました。

先日BMJというイギリスの雑誌に掲載された記事ではこれについての論評が書いてありました。要旨は以下の通りです。

・イギリスでも多くの病院では患者のベッドサイドに花を飾ることが禁止されているか,少なくとも奨励されていない。理由は、
①花に含まれる水分に有害な細菌が存在しているのではないか?
②ベッドサイドに飾られている花が患者の酸素を奪うのではないか?
③医療機器の周囲に花が飾られた場合に健康や安全にリスクをもたらすのではないか?
などの懸念があるためである。

・これらの疑問に対するエビデンスは以下の通り。
①1973年に行われたある研究で,花の水分には多数の細菌(緑膿菌などのグラム陰性桿菌が主)が含まれていることが明らかになったが、その後の研究では,花の水分が院内感染の原因になったというエビデンスは得られなかった。
②複数の研究で,花が病棟の空気組成に与える影響は無視できるほど小さいことが示された。
③サウスエンド大学病院では,「高度医療機器の近くに花を置くと健康や安全にリスクをもたらす」という理由で花の持ち込みを全面禁止したが,ベッドサイドの花と飲食物が入った容器のリスクは同等という意見もある。

これら以外にも、花の手入れのために医療従事者の仕事量が増えるというのも病院に花を置きたがらない理由のようです。

一方で、花を病室に置くことによるメリットも報告されています。
①花は男女問わず情緒反応,気分,社会的行動,記憶に直接的で長期に及ぶ有益な影響を与える。
②植物や花が飾られている病室の患者では,飾られていない病室の患者よりも術後に要する鎮痛薬の量が有意に少なく,収縮期血圧と心拍数が低下しており,疼痛,不安,疲労感のスコアが低く,肯定的な感情が多い。

この論文の結論は、「かつて病院では花やハーブが治療薬として使用されており,少なくとも200年にわたり病院内を明るくする手段として用いられてきた。現在でも病院では花が重要な役割を果たしている。確かに花の手入れは手間がかかる。しかし,花を贈ったりもらったりすることは文化的に重要な行為だ」ということのようです。

なお、CDCが2003年に公開した「医療施設における環境感染制御のためのガイドライン」にも、免疫不全状態にある患者さん以外に対しては、花を病室に置くことは感染源にはならないと書いてあります。ただし、花の取り扱いは患者さんに接しないスタッフが行なうか、やむを得ない場合は手袋を着用して行ない、手洗いをすること、となっています。なお免疫不全状態の患者さん(臓器移植患者、エイズ患者、抗がん剤治療中の患者など)では、植物に付着したアスペルギルスなどの真菌感染を起こす危険性があるため避けるべきと書いてありますので乳がんで抗がん剤治療中の患者さんは植物の持ち込みはやめた方が無難です。

私の病院のホスピスには花も木も置いてあります。やはり癒しの効果はあるようです。先日視察させていただいた東北の大学病院でも、1階の通路やロビーなどにも花や木がたくさん配置してありました。殺伐としやすい病院ですので、やはり植物は気持ちをなごませてくれると思います(ただ、手入れはきっと大変でしょうし、感染対策にも気を使わなければならないと思いますが…)。皆さんはどう思われますか?

2 件のコメント:

Martha さんのコメント...

話は少しずれるかもしれませんが...

以前読んだ、鎌田実先生か、日野原先生の本だったか忘れてしまったのですが、こんな話がありました。
末期癌の患者様で本人もそれを十分かっていてホスピスに入っていらっしゃったと思うのですが、ある日娘さんに飼っている犬にもう一度逢いたいとおっしゃいました。娘さんはお母さんのその望みを叶えてあげたいと思いますが、病院に犬を連れて行くことは許されないことだと知っています。でも、お母さんと犬を逢わせてあげたかったので、隠れて、カバンに犬を入れ、一生懸命隠れて病室に犬を連れ込んだのです。お母さんはとても喜ばれたそうです。
その時担当看護士は犬に気がついたけれど、気がつかない振りをしてそっとしていたそうです。

この話を読んだ時、とても暖かい気持ちになりました。この看護士さんの行動は衛生面から言うと許されないことかもしれませんが、最後の時間を穏やかに過ごすため患者様の気持ちをくんだ優しい行動だったと思います。

異論反論賛否両論あると思います。すべてこのようには行かないと思いますが、私なら人生の最後はこんな看護士さんに見てもらいたいと思いました。

私の両親は2人とも20年以上前に病気、殺風景な病院の部屋で亡くなりました。今考えると本人達はどうだったのでしょうね?

話がそれてすみませんでした。
許されるなら、花などあると、患者様の気持ちが癒されるような気がします。

hidechin さんのコメント...

>Marthaさん
そうですね。特にホスピスにいらっしゃるような残りの時間が限られている患者さんにとっては、心の平穏を保つためにも必要なことですよね。
先日視察した病院のホスピスでは、条件付きではありますがペットを連れてきていいそうです。免疫不全患者さんに対して制限するのはやむを得ないと思いますが、杓子定規に規則を押し付けるのはどうかと思います。他の患者さんに迷惑や不利益を与えない範囲であれば、ホスピスでは許可しても良いのではないかと私は思います。