2010年4月19日月曜日

再発乳癌に対するステロイドの効果

ステロイドという薬をご存知ですか?とてもたくさんの薬理作用を持つために魔法の薬と呼ばれる一方で副作用も強いため忌み嫌われることもある薬です。ステロイドというのは総称で、様々な種類があります(ドーピングで問題になるタンパク同化ホルモンや性ホルモンもステロイドの一種です)。

ステロイドの主な作用は、強い抗炎症作用、免疫抑制作用(抗アレルギー作用)、抗ショック作用、タンパク同化作用、食欲増進作用、骨髄保護作用などです。好ましくない副作用としては、消化性潰瘍、血糖上昇(糖尿病の悪化)、肥満、血栓症、にきび、多毛などがあります。

乳癌の領域では、現在は抗がん剤の副作用予防目的(アレルギー反応の予防、嘔気の予防)や緩和医療領域における全身倦怠感や呼吸困難感、食欲不振などの症状改善目的で投与されることがあります。

今日の日経メディカルオンラインに、「ステロイドは進行癌の病態形成を抑制する」というタイトルで癌治療におけるステロイドの効果が掲載されていました。

癌が進行すると悪液質(食思不振、体重減少、筋肉の萎縮など)と呼ばれる状態になります。この状態の原因には、炎症性サイトカインと呼ばれる物質の一つであるTNF-α(tumor necrosis factor=腫瘍壊死因子)などが関与していることが判明しています。炎症性サイトカインは、抗がん剤の効果も減弱させる可能性があり、このようなサイトカイン過剰状態は、末期だけではなく、比較的早い段階から起きていることが推測されています。

強い抗炎症作用を持つステロイドはこの炎症性サイトカインの作用を妨げるため、悪液質に陥った患者さんの全身状態を改善させると考えられているのです。この記事の著者は、ステロイドは、悪液質を改善するだけではなく、胸水の減少や癌性疼痛の緩和にも有効であったと症例を提示して報告しています。

私もステロイドが著効した患者さんを何人か経験したことがあります。

最近経験した患者さんは、癌性胸膜炎で胸水が著明に増加し呼吸困難状態に陥ったため治療を変更する予定だったのですが、全身状態が思わしくないため、まずはステロイド(リンデロン8mg/日)を投与して経過をみたところ、癌に対する治療はまったくしていないにも関わらず、胸水が著明に減少し、酸素も不要となったのです。食欲も改善し、骨髄機能も回復したため、予定通り新しい治療を開始することができました。

ステロイドは、胸水貯留だけではなく、癌性リンパ管症による呼吸困難や骨転移による疼痛、脳転移による脳圧亢進にも効果を発揮し、症状を改善させます。すべてではありませんが、この効果が比較的長期にわたって継続することもあります。このような経験から、ステロイドには、単に抗炎症作用などによる病態の改善だけではなく、がん自体に対しても抗腫瘍効果があるのかもしれないと感じることがあります。実際、白血病などの領域ではステロイドは抗がん剤として投与されていますし、乳癌領域でも相当昔の話ですが、抗腫瘍効果を期待して抗がん剤と併用投与されていた時代があったのです。

ステロイド系ホルモン剤の一種である、酢酸メドロキシプロゲステロン(商品名 ヒスロンH、プロベラ)が、ホルモンレセプター陰性の乳癌にも一定の効果を示すという理由は、このステロイドが持つ共通の作用によるものなのかもしれないと、ふと感じました。やっぱりステロイドは魔法の薬なのでしょうか?

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