2010年12月19日日曜日

代替補完療法8 鉱物関連

今から15年以上前のことですが、今でも強く記憶に残っている患者さんがいます。「代替補完療法2 一般的なお話」の中でも少し触れた方ですが、もう少し詳しく書いてみます。

この方は60才代で息子さんは国立大学の研究所に勤めているインテリジェンスのある女性でした。しかし、ずっと前にご自分でしこりを自覚していながら、手術などの治療が嫌で限界まで受診を我慢されていたため、来院時には切除できないほどの胸壁浸潤を伴った巨大ながん性潰瘍を呈していたのです。

乳がんの診断の後、まず抗がん剤の治療を始めることにしました。しかし最初から抗がん剤治療に対しては積極的ではなく、主治医の説得にやむを得ず受けているというような状況でした。

あるとき、その患者さんから、
「息子が大学の研究所でがんの研究をしています。いま鉱物を使った治療薬を息子が研究しているので使わせて欲しいんです。」
との申し出がありました。その薬剤の内容は研究中であることを理由に教えてもらえませんでした。静脈注射をしたいとのことでしたが、こちらとしては安全性の点から、何が含まれているかわからない薬剤を投与することはできない、とお断りしました。その後何度かやりとりがありましたが、なかなか納得してもらえませんでした。結局抗がん剤を拒否してその治療をしたいという患者さん側との折衷案として、霧吹きで潰瘍部分に対して外用することのみ許可を与えました。

それから霧吹きでその鉱物から抽出したものを病巣に吹きかけつつ、抗がん剤治療を行なっていました。しかしそれから間もなくのある日のこと、その患者さんの部屋は個室だったためモニターがついていたのですが、たまたま見ていた看護師がその患者さんのご家族が点滴ボトルに注射器を使って鉱物抽出液を注入しているところを目撃したのです。

ただちにご家族、ご本人にお聞きしたところ、前から注入していたことを認めたため、このまま続けたいのであればここで治療をするわけにはいかないとご説明しました。標準治療を受けることを再度強く説得しましたが結局聞き入れてもらえず、ご家族がこの鉱物治療を受け入れてくれる病院を探し出してきたために転院することになったのです。

その患者さんは結局転院先で2ヶ月後くらいに亡くなりました。ご本人だけでなく、ご家族ぐるみで標準治療を拒否されると説得はなかなか困難です。非常に残念な思いをしましたが、ご家族やご本人はそれで納得していたのかもしれないと思うと非常に複雑でした。

最近、私たちの病院でも代替補完療法を信じて標準治療を拒否される患者さんが散見されます。前に書いた波動療法の患者さんは結局増大したため手術を受け、現在は化学療法中です(一時的に波動療法で縮小したように見えたのは、ホルモン補充療法を乳がんと診断された際に中止したことによる一時的な変化だったことが判明しました)。その他に、ホルモン療法を拒否して玄米療法を選択した患者さん、食事療法で手術を拒否し経過観察中の患者さんなどを経験しています。

いろいろな代替補完療法の全てを否定するつもりはありません。しかし、少なくともこれらの治療を信じて標準治療を完全に拒否した患者さんの中で治癒した人を私は一人も知りません。

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