2010年12月2日木曜日

高齢者の手術はどこまですべきか?

私たちの病院は高齢の患者さんが多いため、乳がんで手術をする患者さんも高齢者の比率が高いです。以前調べてみたら、乳がん手術患者さんの3人に1人は70才以上でした。これはおそらく乳腺クリニックやがんセンターの比率とはかなり異なると思います。

一般的に高齢者に対しては過大な侵襲を避けるように心がけています。全身麻酔が危険なほど全身状態が悪い患者さんにはホルモン療法のみにしたり、多少大きくても局所麻酔で部分切除のみにしたりしています。全身麻酔可能であっても、リンパ節転移の可能性が低い場合には腋窩には手をつけない場合もあります。ただセンチネルリンパ節生検をするようになってからは、センチネルリンパ節生検まではすることが多くなっています。

私が外来で診ている患者さんで、いま80代半ばの方がいらっしゃいます。この患者さんは、初回手術のときに腋窩に明らかなリンパ節転移が1個ありました。この時すでに80才くらいで少し持病をお持ちだったため、腋窩リンパ節はLevel1までの”軽い”郭清にして乳房温存術を行ないました。しかし、2年もたたないうちに郭清した腋窩の奥にリンパ節再発をきたしたのです。

この患者さんはトリプル・ネガティブでした。ホルモン療法は無効です。しかし強い抗がん剤を投与するには年齢的に厳しいと考えたため、結局切除することになりました。全身麻酔で問題なく再郭清を行ない、その後内服の抗がん剤を2年服用し、再手術から3年、どこにも再発しておらず元気に通院されています。

結果的には初回手術の時に定型的な郭清をしていたら再手術はしなくてすんだ症例です。初回手術時の判断が完全に間違っていたとは思いませんが(年齢的にはこの間に他の病気で命を落とす可能性もあったため)、年齢だけで治療を決めつけてもいけないということを考えさせられました。

トリプル・ネガティブなのに内服の抗がん剤(フルツロン)のみで再発していない、というのも興味深いですね。前にある先生の講演で、内服の5FU製剤(UFTやフルツロンなど)が案外、トリプル・ネガティブにも効果があったという話を聞いたことがあります。暴れん坊のトリプル・ネガティブにマイルドな内服の抗がん剤が効くことがあるというのは不思議だけど本当なんですね!

10 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

悩むmusumeです
70歳半ばの母が術前ホルモン療法を終えて数日後に手術です。治療前のPETCTでレベルIに集積あり、(またおそらく造影CT上と思うのですが)ホルモン療法後画像上腋窩リンパ節の縮小傾向と乳癌自体のやや縮小傾向を認めています。術後もホルモン療法の予定となっていますが、手術では乳房全摘及びリンパ浮腫など術後後遺症のリスクも考慮に入れてレベルIもしくはサンプリング郭清を予定されています。ガイドラインでは臨床的リンパ節転移の場合レベルIとIIの郭清となっていますが、年齢の事を考慮した上の事だと思います。高齢者でのリンパ郭清省略について色々調べて見たのですが中々見つからず悩んでいます。hidechin先生の患者様の例を読ませて頂き、やはりきっちりI及びIIの郭清をして頂くのか、少なくともレベルIはサンプリングでなく完全に郭清して頂いた方がいいのかなど悩んでいます(術後リンパ浮腫の事も心配で)。先生の患者様とは違う点はホルモン感受性陽性であることなのですが、、ご多忙中とは思いますがご意見頂ければ幸いです。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん(悩めるmusumeさん)
はじめまして。
70才代半ばですか…。悩ましいですね。同じ年齢でも全身状態によって治療方針は変わりますから、主治医の先生はおそらく生活の質を落とさないことがお母様にとってもっとも重要であると考えたのではないでしょうか?
局所コントロールという点ではLevelⅡまで郭清した方が良いとは思いますが、LevelⅠ郭清やサンプリングでもある程度の効果はあります(放射線治療を追加する方法もありますが、多少リンパ浮腫のリスクは増します)。万が一再発した時に全身状態が許せば再手術という考え方もあり得ると思います。
私はお母様を実際に診ておりませんので一番近くにいる主治医の先生とよくご相談の上でご判断下さい。
それではお大事に!

匿名 さんのコメント...

悩むmusumeです。hidechin先生早々のお返事有難うございます。先生のご意見頂けて本当に感謝致します。ご多忙中誠に恐縮ですが、もうひとつ教えて頂けないでしょうか。母は同年代の人と比べても元気だと言われています。実際の御治療の中で、60ー70歳代患者様のレベル1及び2のリンパ郭清後ひどい後遺症は出やすいのでしょうか。先生のご経験上ご意見頂ければ幸いです。何卒よろしくお願いします。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん(悩めるmusumeさん)
リンパ節郭清によるもっとも問題になる後遺症はリンパ浮腫です。これは年齢とは関係なく一定の割合で発症します。ですから60-70才代だから発症しやすいということはありません。私の経験上は肥満がある場合はリンパ浮腫をきたしやすい傾向があると思います。また腋窩から腕にかけての痛みが出たりもしやすいですので年齢とは無関係ですが杖をついたりする方の場合は転倒しやすいなどの支障が出ることがあります。
以上です。

匿名 さんのコメント...

悩むmusumeです
お返事頂き有難うございました。ご意見を頂けることは患者家族にとって本当に貴重です。重ね重ね御礼申し上げます。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん(悩めるmusumeさん)
お母様の手術が無事終わることをお祈りしています。それではお大事に。

匿名 さんのコメント...

悩める娘です。無事手術を終える事が出来ました。
手術前には貴重なご意見頂き本当に有難うございました。腋窩リンパ節の郭清で5個(レベルI(4;完全郭清), レベルII(1;サンプリング郭清))の転移がありました。ガイドラインでは4個以上の場合胸壁及び鎖骨上に放射線照射となっていますが、70歳以上の高齢者の場合も同様に考えた方がよいのでしょうか。腋窩郭清後でもあり、リンパ性浮腫のリスクやhide先生が放射線療法の項目でコメントされていた放射線肺臓炎なども危惧されます。母の場合手術前に皮膚浸潤していましたのでこれについても術後放射線照射をした方がよいものなのか..術前ホルモン療法で腋窩のリンパ節がやや縮小し、皮膚の浸潤も軽減したことから術後ホルモン療法による局所制御に期待したい気持ちもあります。ご多忙中誠に恐縮ですがご意見頂ければ幸いです。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん(悩める娘さん)
こんばんは。
とりあえず無事手術が終了して良かったですね。
残念ながら5個のリンパ節転移が残っていたということですが、この場合の治療法に絶対の正解はありません。もし比較的若い方であれば術後PMRT(胸壁、所属リンパ節照射)と化学療法を行なうのがベストだとは思います。しかし70才以上ということであれば、患者さんの全身状態、そしてご希望をお聞きした上での個々の判断になるかと思います。
ですから実際にお母様を診ていない私の意見に頼るのは正しい方法ではありません。申し訳ありませんが主治医の先生とよくご相談の上でご判断下さい。
それではお大事に!

匿名 さんのコメント...

悩める娘です
hidechin先生、早々のお返事ありがとうございました。これからも先生のsiteで色々勉強させて頂きたいと思います。よろしくお願いします。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん(悩める娘さん)
あまりお役に立てなくてすみません。
お母様にとって最善の治療が選択できることをお祈りしています。