2011年1月2日日曜日

抗癌剤の副作用13 骨髄抑制〜発熱性好中球減少症

骨髄抑制については前回総論を書きましたが、その中でも一番先に抗がん剤の影響を受けやすいのは白血球、特に好中球です。好中球は細胞性免疫という、細菌を直接攻撃する免疫機能をもつ細胞です。ですから好中球が減少すると容易に細菌感染を引き起こし、発熱をきたします。こういう状態を発熱性好中球減少症(febrile neutropenia; FN)と言います。

①定義:
現在日本では主に「発熱性好中球減少症治療ガイドライン」(2004年)による定義、「好中球数が1000/μl未満で500/μl未満になる可能性がある状況下で,腋窩温で37.5℃以上もしくは口腔内温で38℃以上の発熱」を用いています。

②予防:
現在、好中球減少、またはそれに伴う発熱に対して、G-CSF(骨髄の好中球などの顆粒球の元になる細胞に作用して顆粒球を増員させる薬剤)と抗生物質の予防投与が実診療において行なわている場合があります。この適応についてはある程度の基準はありますが、実際は施設ごとに若干異なります。

抗生物質の予防投与は、全例に行なうことを推奨しているガイドラインはないと思います。ただ、高率にFNを引き起こすレジメンの場合や一度FNを起こした場合の次にクールで投与する施設はけっこうあるようです。問題点としては、広い範囲で強力に効く抗生物質をやみくもに投与すると耐性菌が増える可能性があることと、抗生物質を投与していて発熱した場合には、血液培養などで原因菌が特定しにくい場合があることです。

一方、G-CSFは抗生物質と違って、耐性菌の問題はなく、根本的な治療になりますので合理的のように思えます。問題点は、非常に高価であること、日本の場合は自己注射ができませんので、毎日のように通院しなければならないことです。また、この薬剤による副作用もあります(発熱、骨痛、間質性肺炎など)。
ASCO2006において改訂されたG-CSFの投与基準の概要は以下の通りです。

・基本的には発熱を伴わない好中球減少症(AFN)に対してG-CSFを使用すべきではない
・発熱性好中球減少症のリスクが20%以上で、かつG-CSFを必要としないで同様の効果が期待できるレジメンがない場合やdose denseレジメンを行なう場合には、G-CSFの一次予防投与は許容される。
・ハイリスク患者(65才以上、PSが悪い、低栄養、活動性感染症を有する、広範囲の放射線治療の既往、化学放射線療法中、腫瘍による骨髄障害があるなど)にはFNのリスクが20%以下でもG-CSF投与が適切である場合がある。
・二次的予防投与については、1コース目に発熱性好中球減少が起こった場合で,2コース目の抗悪性腫瘍薬の減量が適切でないと判断される場合はG-CSFの使用が推奨される。

③治療:
スコアリングインデックス(MASCC Score)を用いてリスク分類を行ない、治療方針を決めます(Low Risk群:21点以上、High Risk群:20点以下)。治療の基本は適切で強力な抗生物質の投与です。リスクを評価して、原因菌の推定を行ない、初期治療を行ないます。3-5日後に再評価を行ない、原因菌の培養結果も合わせた上で、追加の治療を判断します。
一度発熱してしまった場合には、G-CSFは抗生物質の補助としてルーチンに使用すべきではないとされています。ただし、感染に対する合併症のリスクが高い場合(発熱が10日以上持続、好中球数100未満、65才以上、原疾患のコントロール不良、肺炎、低血圧、多臓器不全、深在性真菌症、発熱による入院など)、あるいは治療結果が不十分な徴候がある場合には投与を考慮すべきであると言われています。


私たちの病院では一昨年くらいから、比較的若い患者さんに対してはFECの量を増やしました(FEC75→FEC100)。それ以降、どうもFEC100施行後に発熱する患者さんが多いと感じていましたが、昨年末にまとめてみると、なんと67%の患者さんでFNをきたしていました。同時期にFEC75以下の量で行なった患者さんではFNの率は0%でしたので明らかに高率になっていました。興味深いのは、どちらの群も好中球がgrade4(500以下)になった割合は83%と同じだったことです。おそらく、好中球の最低値というより、grade4の期間が長かったことが発熱につながったようです。昨年までは予防的な抗生物質の投与もG-CSFの投与も行なってきませんでしたが、これだけ高率であればなんらかの対応を考えなければならないと感じています。 

3 件のコメント:

nunu さんのコメント...

hidechin先生、明けましておめでとうございます。
先生ご自身もどうか健康で過ごされますように祈っております。
私は現在、乳房温存手術後の抗がん剤治療を受けていますが(タキソテール+サイトキシン)、治療翌日に必ずNulastaという免疫を上げる注射をします。
そのためドクターは生ものでも何でも食べていい、人ごみに出てもいい、ふだんどおりの生活をしていいと言うのですが、2回目の治療前の血液検査では、やはり白・赤血球、血小板の数値は下がっていたので、もっと数値が悪くなり治療が延期になるくらいなら、と思って用心しながらすごしています。

nunu さんのコメント...

サイトキシンではなく、サイトキサンでした。
失礼しました。

hidechin さんのコメント...

>nunuさん
TC療法を受けられているのですね。最初からG-CSFを併用するレジメンは私たちの病院では行なっていませんが、骨髄機能には個人差がありますので回復が悪い場合もあると思います。何日目に一番白血球が下がるのかがわかっていれば、その時期には念のためあまり人ごみには出ないほうが無難かもしれませんね。
それでは治療、引き続き頑張って下さいね!