現在、J-START(http://j-start.org/index.html)という、マンモグラフィ検診に超音波検査を上乗せする意義を調べる臨床試験が40歳代の女性を対象に行なわれています。
私たちの施設はこの臨床試験には参加していませんが、乳腺症などでフォローしている患者さんには定期的にマンモグラフィと超音波検査を行なっています。通常、例えば次回1年後にマンモグラフィと超音波検査を予定している患者さんは、自覚症状がなければ予約した検査を受けてから診察にまわります。つまり、検査をする側、特に超音波技師は視触診とマンモグラフィの情報なしに検査を行なうのです。この場合、時に判断に非常に迷う場合があります。
私が経験しただけでも何回かひやっとしたことがあります。
超音波検査で異常なし(または不変)なのに、マンモグラフィでちょっと気になる所見があった場合、どの程度超音波検査を信用するかは難しい判断です。なぜなら、超音波検査は本来、視触診よりは間違いなく小さな腫瘤を描出できますし、高濃度乳腺であればマンモグラフィよりも検出能は優れています。これは私の施設で何度か報告していますが乳腺疾患に対する超音波検査経験が豊富な施設ではおそらく同じだと思います。ですから、その超音波検査で異常を指摘していなければ、多少気になる所見があっても乳腺の重なりだろう、とか孤立性乳腺だろうと判断するのが普通なのです。
しかし、超音波検査にもいくつか落とし穴がありますので私の経験も踏まえていくつか挙げてみます。
①乳腺のはずれにできた乳がん
超音波検査では乳腺組織を描出しながらその端まで観察します。しかし、超音波検査で描出される乳腺の先まで脂肪化した乳腺組織が筋状に残っていることが多いのです。この筋状に残った乳腺から発生したがんは、一見、乳腺組織がなくなったと思われる先にあるため、観察し損なうことがあるのです。ですから画像で描出される乳腺組織にとらわれず、乳腺組織が存在していた可能性のある範囲(上下方向は鎖骨下から乳房下縁まで、横方向は正中から腋窩まで)をきちんと走査する必要があります。私自身も触診でとても気になったり(得てしてこのような部位は触診しやすいのです)、マンモグラフィで描出されていて比較読影で変化が確認されたりということで超音波検査の再検査(second look)で描出できたというケースを経験したことがあります。
②脂肪化した乳腺内に発生した粘液がん
粘液がんは脂肪と似たような内部エコーを呈することも多く、脂肪化した乳腺では脂肪と誤認してしまう可能性があります。このような場合は、マンモグラフィが非常に有効で、明瞭な腫瘤として描出されます。マンモグラフィで明瞭な腫瘤なのに超音波検査で確認しづらい場合は、過誤種や粘液がんであることが多いと思います(比較的若い場合は線維腺腫も時にわかりにくい場合があります)。
③腋窩に発生した腫瘍
腋窩に発生する腫瘍には、乳がんの腋窩リンパ節転移(原発巣がはっきりしない場合はoccult cancerと言います)、悪性リンパ腫などのリンパ節発生の腫瘍、異所性乳がんなどがあります。
乳がんのスクリーニングの場合、通常は腋窩の観察を目的として超音波検査はしません(乳腺の観察で腋窩まで見てしまうことはありますが)。マンモグラフィでも腋窩の深部の腫瘍までは写ってきません(乳腺に近いリンパ節は写りますが)。ごく稀ではありますが、触診で腋窩に腫瘤を発見することがあります。私が経験したケースでは、初回の超音波検査は異常なし、マンモグラフィでも腫瘤は認めませんでしたので、前回と変わりないかなと思いながら触診をしたところ、腋窩にごろっとした腫瘤がありました。わりと深い位置にあったため、マンモグラフィでも超音波検査でも描出されませんでしたが、きちんと腋窩まで触診しておいて良かったと思った症例でした。もし触らなければ大変なことになるところでした(汗)。このようなことがありますので私は乳がん検診の触診では必ず腋窩はきちんと触診するようにしています。
超音波検査は非常に有用な検査だと私は思っています。しかし、このような落とし穴があることを自覚して初めて有効な手段になることを忘れてはいけません。また、超音波検査をマンモグラフィと同時に行なう場合には、できればマンモグラフィを先に撮影して、それを超音波技師が見た上で検査を行なうのが理想的だと考えています。そのためには最低限のマンモグラフィの読影力が超音波技師にも求められるということになります。毎月多職種で行なっている症例カンファレンスはそういう意味でも非常に重要ではないかと私は考えています。
17 件のコメント:
いつも勉強になります。(でも難しくてよく分からないことも多いですが^^;)
私の乳癌が分かったきっかけは、初めてマンモを受診した時に乳首から血汁が出たからです。検査技師さんがこのことを触診の先生に伝えてくれたので、その時の触診で血汁を搾り出し、それを検査したらクラス5でした。しかし、当初の触診の結果は「しこりなし」。
その後、超音波、CTも撮りましたが画像には写らなかったです。マンモにも写っていませんでした。MRIで、もや~と薄く白く写る程度でした。
放射線は他の病院で受けたので紹介状を書いて頂いたのですが、その時に「腫瘤非形成」とありました。
今はホルモン治療中なのですが、年に1度CTを撮っていますが、前と同じタイプの乳がんだとCTには写らないので、次回はMRIをお願いしようかなと思っています。
自己検診で分かればいいのですが、前回の診断後も自分で触ってもよく分からなかったので、今後も自信がありません。^^;先生は「つまんだら分かる」とおっしゃいますが、それでもはっきりとは分からなかったです。
MRIにしか画像で写らない場合ってありますか?
私も非浸潤性乳管がんで左乳房全摘術を受けましたが、MRIにしか良く写りませんでした。超音波で腫瘤の部分は嚢胞と診断され、経過観察を5年間していましたが、5年後に腫瘤とは別の場所にマンモグラフィで石灰化がわずかに現れ、MRI検査を初めて受けてがんと診断され生検をしました。MRIでは石灰化とは別の方向にがんが広がっているのが写っていました。その時も超音波上では変化はありませんでした。対側乳房も術前検査でCT,PETで集積が見られていますが、MRIなしで超音波とマンモグラフィのみの経過観察予定で少し不安になっています。MRIにしか映らないがんは心配いらないのでしょうか。経過とともにエコーやマンモグラフィでの変化が現れるのですか。
>さちさん
もちろんMRでしかわからない場合はあります。ただ、この場合でもMRの情報を元に超音波検査を行なえば病変が認識できる場合もあります。MRにしか写らない場合のほとんどはごく早期の非浸潤がんです。
ですからすべての乳がんがさちさんのようにMRにしか写らないようながんというわけではありません。むしろほとんどの乳がんはマンモグラフィか超音波検査のどちらかもしくは両方で認識できます。
一般的にさちさんのように超音波検査で写らないような乳頭分泌のみの乳がんは非常に早期である場合がほとんどです。この手のタイプは自分で乳頭をしぼってチェックするしか方法はありません。
MRが乳がん術後のフォローに最適なのかどうかはまだ結論は出ていません。あくまでも乳がん術後に行なう検査でエビデンスがあるのはマンモグラフィのみです。もちろん私は超音波検査も有用だと思っています。
自己チェックでしこりと乳頭分泌を確認しておき、マンモグラフィでしこりや微細石灰化、構築の乱れ(ゆがみ)をチェックし、超音波検査で微小なしこりをチェックするという方法を私はお勧めしています。
なお、「腫瘤像非形成性病変」というのは超音波検査の表現です。ということはさちさんのがんは超音波検査で写っていたのではないですか?乳頭分泌で見つかる乳がんのほとんどは超音波検査で乳管拡張(の集簇)や乳管内の腫瘤や石灰化などの「腫瘤像非形成性病変」として認識できる場合がほとんどなのです。
ご質問の答えになっていたでしょうか?取り急ぎ以上です。
>匿名さん
さちさんへの返答とほぼ重複するかと思いますのでご参照下さい。
匿名さんの場合も、マンモグラフィで変化(微細石灰化)が現れてから切除しても非浸潤がんというごく早期のがんだったわけですので診断が遅れたわけではありません。またMRでしか写らないようながんまで診断すべきなのかという考え方もあります(一生悪さをしない非浸潤がんやがん以外の良性疾患も多く含まれる可能性がありますので過剰診療になる危険性があるということです)。
ですから今のところMRを定期的に行なってマンモグラフィや超音波検査で写らないようなものまで診断するべきだという結論にはなっていないのです。もちろん将来的には考え方が変わる可能性はありますが…。
以上です。おわかりいただけましたでしょうか?
お忙しい中お返事ありがとうございました。MRIは術後フォローには一般的ではないのですね。
当初、クラス5が出ても超音波で何も写らなかったのでMRIをし、その後、再度超音波をしましたが、超音波ではやっぱり分からなかったと言われました。
先生に「非浸潤癌ですか?」と訊くと「残念ながら浸潤癌です」と言われました。ステージは2aなので、そんなに早期ではないと思います。ルミナールAでした。
先生は「マンモグラフィーはCTより情報が多いことはないから、CT撮っていればマンモは必要ない」とおっしゃいます。私もこの説明には納得していますが、もし反対側に次にできたときには、今回のようにリンパ節移転前に発見して抗がん剤無しで治療したいので、やっぱりMRIを受けたいなと思ってしまいます。
術側は、放射線治療したので局所再発はないとは思いますが、手術では乳首も含めて切除したので、同じタイプの癌ができるともう分泌するところがないので、気になるところですが、心配ばかりになるので、あまり考えないようにしています。^^
私は40代前半でマンモグラフィがものすごく痛くて
検査が非常に困難です。
痛いということは乳腺が過密気味で
頑張って我慢してもがんが埋れてしまう
可能性があるのでは?
現に乳がんと診断されてから撮ったマンモグラフィ
でも異常が見られませんでした。
しかもマンモグラフィは被曝のリスクがあります。
そんな訳で定期健診ではマンモグラフィの代わりに
MRIをやってもらおうと思いますがいかがでしょう?
>さちさん
マンモグラフィと超音波検査にまったく写らなかったのにⅡA期だったのですね。ⅡA期はしこり(浸潤径を推定する)の大きさが2.1-5.0cmでリンパ節転移のない場合かしこりの大きさが2.0cm以下で腋窩リンパ節転移があった場合です。リンパ節転移はなかったようですので浸潤径が2.1cm以上あったけれど超音波検査には写らなかったということなのでしょうか?それともMRで染まった大きさをTとして判定した病期なのでしょうか?実際の予後に影響するのは浸潤径ですのでMRで2.1cm以上の大きさで染まっていても病理学的浸潤径が小さければⅠ期と同じに考えて良いと思いますが…。
さちさんのコメントの中にいくつか気になる点がありました。
①CTを撮ればマンモグラフィは必要ない
→造影CTということでしょうか?コスト的には高くなりますが確かに有用性は高いです。しかしマンモグラフィの微細石灰化で発見されて造影CTに写らない(またはわかりにくい)乳がんもないわけではありませんので、個人的には(対側乳房に関してはガイドライン上も)マンモグラフィが必要ないとまでは言えないと思います。
②術側は、放射線治療したので局所再発はない
→そんなことはありません。放射線治療をしても10年で約10%の乳房内再発があると言われています(これは切除方法、適応の判断などで若干異なりますが0%でないことは確かです)。
MRが非常に有効な手段であることは確かです。ですから定期的にMRを受けたいという希望は主治医の先生に伝えてみても良いと思いますよ。
(出張のため御返事が遅くなってしまい申し訳ありませんでした)
>すうさん
はじめまして。
おそらくお若いので高濃度乳腺なのだと思います。この場合、小さな腫瘤の診断率は落ちます。ただ微細石灰化はわかりますのでマンモグラフィを省略して良いとまでは言えません。私は超音波検査を併用してその欠点を補っています(ただし超音波検査の有用性は検査する技師や医師の技量に大きく影響されます)。
MRも非常に有効な手段ではありますが、上でも書いていますように術後の経過観察はMRのみで良いというエビデンスはありませんので主治医の先生とよくご相談なさって下さい。また高濃度乳腺で乳腺症の変化が強い場合、MRでも乳腺症による染まりが強くなって診断しにくいことがあるということも考慮する必要があります。
はじめまして。
乳癌について調べていたところ、先生のブログを見つけました。
私は30代の女性で、妊娠、出産経験はありません。
先日、入浴時に片方の乳首から出血があり(この日一度だけ)、乳腺科のある病院に行きました。
診察の時は出血したところがかさぶたになっていましたが、出血はありませんでした。
マンモグラフィーとエコーをやっていただき、結果は特に問題となるものはないとのことでした。
出血の原因がわからないので、詳しく調べるにはMRI検査か乳腺内視鏡検査があると聞き、MRIではうつらないこともあるとのことだったので乳腺内視鏡検査を受けようかと思っています。
現在は出血はなく、出血していた方の胸が張っていて痛いような感じと少し熱い感じがするだけですが、乳腺内視鏡の検査時に出血してなくても検査はできるのでしょうか?
検査の結果、乳癌だった時のことを考えるととても心配ですが、このまま出血の原因がわからなかった時のことも心配です。
先生ならどのようにお考えになりますか?
乳ガンについて教えてください。
市のマンモの検診で再検査だったので、乳腺外科の病院で検査をしてもらいました。
マンモで白いところがあり、エコーでも黒い陰がありました。なので、MRIを受けこの間結果を聞きに行きました。またエコーで見て、やっぱり黒い陰があるので、3ヶ月後でも良いんだけど、細胞診(針?)をしましょうと言われ結果を待っています。先生にはMRIには悪いものは移ってなかったけど、黒い陰か何であるかはっきりさせましょうと言われたんですけど…。MRIには移らなくてもガンの可能性はありますか?ちょっと心配なんです。コメントよろしくお願いします
>匿名さん
実際に画像を見ていないのでなんとも言えませんが…。ほとんどのがんはMRで写ります。ただ若い女性の場合は月経周期によって非常に見づらいことがあります。またなんらかのMRのトラブルで写らないこともきわめてまれにあります。
もう検査をしたわけですのでまずは結果の説明をよく聞いて下さい、
良い結果だといいですね。それではお大事に。
昨日からホームページを拝読しています。
私は乳癌検診でエコーとマンモを両方選びました。30代であることと、母が乳癌だったため、なんとなく選んだのですが。
検査では、マンモでは何も見えなかったけれど(引き出しにくく圧迫も少なめだったようです)、エコーで気になった部分があり(婦人科の先生は嚢胞やセンイセンシュだとも言われた)、乳腺外科に紹介になりました。
そこでは、「乳腺症なら全体的になんだけれど、一部だけなんだよね。そのうち消えると思うけど。半年後にきて。不安なら早めでもいい。今回、もっと調べるというならMRIを。」と言われました。
「心配ない乳腺症だ、経過観察でいい」という言葉を期待していた私は、ショックでした。
今できることは、検査で明らかになるまで気にせず、やるべきことをやり、楽しむことは楽しむ方がいいと思います。しかし、不安でいっぱいです。
>匿名さん
はじめまして。
実際に画像を見ていませんのでなんとも言えませんが、限局性の乳腺症様の変化が見られた場合はたしかに非浸潤がんを完全には否定できません。MRを撮影して怪しければ細胞診または組織診をするか、慎重に経過観察とするかを私も提示すると思いますが、どちらをより強く勧めるかはどの程度悪性を疑うかによって異なります。
ご心配でしたらMRを撮影してみるのも良いかとは思います。以上です。
ご返事をありがとうございました。
質問してはいけないかも、、、答えていただけないかも、、、と思っていましたので、早く返信してくださり、ありがたく思います。
ご返信に「非浸潤」という言葉があったので、このホームページ内の乳腺症vs非浸潤がんという記事も何度も読んで見ました。
記事の内容は、針の検査の話ですから、私の場合とは同じとは言えませんが、乳腺症vs非浸潤がんで、患者は結果を知るまで、気楽に構えていいですか。MRIを受けてきます。それまでの気持ちを軽くしたいがためだけのメールをしてすみません。
上に投稿した者です。今日、生理が来ました。生理前だとエコーに何か関係ありますか。でも、なかなか都合よく予約はとれないでしょうから、関係ないかな。。。。
>匿名さん
生理前は乳腺症の変化が強く出ることはありますが、診断に大きな影響はありません。MRの場合は、可能であれば月経周期(月経が始まってから)の5-12日目くらいが見やすいのですが、予約が混んでいるはずですのでなかなかこの時期にうまく予約できないことも多いです。そのあたりは主治医が適切に判断してくれると思います。
何度もすみませんでした。
ありがとうございます。
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