2015年1月15日木曜日

異型過形成の乳がん発症リスク

異型乳管上皮過形成(ADH)は、しばしば良悪の診断で病理医を悩ませる病態です。一応、良性ではあるのですが、ADHから非浸潤がん(DCIS)に移行している像が見られたり、ADHなのかDCISなのか病理医でも判断が分かれる場合もあります。

これまでもADHは、前がん病変、もしくは周囲に浸潤がんを将来発生させるリスク因子として捉えられていました。昨年、生検で異型過形成(ADH+ALH(異型小葉過形成))と診断された場合、そのまま経過を見るとどのくらいのがんが発生するのか、という研究結果がメイヨー・クリニック腫瘍学教授のLynn Hartmann 氏によって報告されました(http://www.ascopost.com/issues/november-1,-2014/what-is-the-real-risk-of-breast-cancer-associated-with-atypical-hyperplasia.aspx)。

この報告によると、1967-2001年に同クリニックで異型過形成と診断された女性698人を平均12.5年追跡した結果、143人が乳がんを発症したとのことです。さらに、バンダービルト大学でも別の集団を対象に検証したところ、異型過形成の女性の30%前後が乳がんを発症していたそうです。過形成の範囲が広いほどリスクも高かったようです。

異型過形成は米国で実施される乳房生検の良性所見のうち約10分の1に認められるそうですが(おそらく日本より高率)、今回の研究では、異型過形成のある女性の約30%が、診断から25年以内に乳がんになる(年率約1%)いうことで、今まで推測されていた率よりかなり高いことがわかりました。。

これを受けて、異型過形成と診断された女性は、予防的にタモキシフェンを服用したり、乳がんスクリーニングにMRを加えるなどのガイドラインの改正が必要かもしれないと述べています。

(この論文内における”breast biopsies ”は、切除生検ではなく、針生検、もしくは吸引組織生検を意味するのだと解釈していますが、以下はその前提で書いています)

私たちの施設でも針生検でADHと診断されることは、たまにあります。こういった場合、私たちは基本的に描出された病巣の切除生検をお勧めしています。こういう症例の中には、そのものが実はDCISだったり、DCISとADHが混在していることがあるからです。米国の今までの考え方からすると、やり過ぎだと言われたかもしれませんが、今回の結果を見るとやはり間違ってはいなかったのだと思いました。なぜならおそらく組織生検で異型過形成と診断されて、そののちに乳がんを発症した患者さんの中には、最初からDCISだった、またはDCISが併存していた症例が一定数含まれていると思われるからです(あくまでも推測ですが…)。

いずれにしても、ADHとDCISの診断は非常に難しい場合があります。私たちの施設ではこのようなケースでは、必ず坂元記念クリニックにコンサルテーションをお願いしています。まずは自分たちで診断し、さらに乳腺病理の第一人者の先生の診断を仰いで学ぶことから得られるものは、コンサルテーションにかかる費用よりはるかに大きいと私は思っています。私たちの施設の病理医も同じような意識で考えてくれているので乳腺外科医としては非常に助かっています。

9 件のコメント:

りりぃ さんのコメント...

はじめまして。りりぃと申します。
半年前に乳管内乳頭腫と診断されました。
右乳首のすぐ横に1㎝のしこりあり。エコーと太い針生検でそのような診断になりました。分泌物は一切ないです。
半年後にしこりが1.4㎝になり、エコーでみるとのうほうができてて水が溜まっているそうです。
今度マンモグラフィをするのですが、乳ガンの可能性もあると言われました。
3ヶ月前のエコー診察のときは、大きさや状態も変わってないから大丈夫と言われてたのでとても動揺してます。急変することってあり得るのですか?
現在埼玉の大学病院に通ってます。検査結果が出たら坂元記念クリニックでセカンドオピニオンをお願いしたいと思うのですが、大学病院でもそのような依頼は受けてもらえるのでしょうか。
長々とすみません。宜しくお願いします。

hidechin さんのコメント...

>りりぃ さん
はじめまして。
まず、1cmの乳管内乳頭腫疑いの腫瘤が、嚢胞内に液体がたまって1.4cmに増大したことを急変と考えなくて良いと思います。1.4cmは液体を含んでの大きさですので腫瘍自体は大きくなっていないのではないでしょうか?
乳管内乳頭腫はよく出血しますので(血性乳頭分泌で受診することが多い腫瘍です)、経過の中で出血して全体の大きさが増大することは珍しくありませんし、そのことがイコール悪性を示唆するわけでもありません。
ただ、ここでも何回か書いていますが、乳管内乳頭腫と非浸潤がん(嚢胞内がん)の区別は非常に難しい場合もありますので、摘出して調べた方が良いこともあります。
病理診断のセカンドオピニオンは可能ですが、担当医が必要と判断して送る場合と、ご本人の強い希望で送ってもらう場合で診断料が異なります。担当医が必要性があると判断して下されば良いのですが、不要と判断された場合は、よくご相談の上でご判断下さい。
以前、埼玉の大学病院には私と同じ時期にG病院で研修した先生が勤務されていましたが、今は外来体制表に名前はないようですので、坂元坂元記念クリニックとの連携がどうなのかは私にはお答えできません。以上です。

りりぃ さんのコメント...

早速丁寧な回答ありがとうございます。
急変ではなくそのようなケースがあるのですね。
セカンドオピニオンの件も担当医とよく相談しようと思います。
重ねて質問すみません。
ほんのたまに乳頭あたりにチクチクッとした痛みが数分続くことがあるのですが、乳管内乳頭腫は痛みを伴うケースはありますか?
非浸潤ガンとの区別は難しいようですが、転移性のある浸潤ガンである可能性もありますか?
場合によっては再度太い針生検をするそうですが、何度も針を刺すことで悪影響はありますか?

現在35歳で問題がなければ妊娠出産を希望しています。担当医はすべては結果が出てからという雰囲気で色々聞きずらかったのでここで質問させて頂きました。再度長々とすみません。
宜しくお願いします。

hidechin さんのコメント...

> りりぃ さん
お返事遅くなりました。
乳管内乳頭腫はきわめて稀に梗塞をきたして痛みを伴う場合はありますが、通常は無痛です。
”転移性のある浸潤がん”の意味がよくわかりませんが、”転移をきたす可能性のある浸潤がん”という意味でしたら、あり得ます。非浸潤がんか浸潤がんかは最終的には摘出して細かく病理検索をしなければわかりません。もし浸潤がんであった場合は、浸潤径によってその可能性は変わりますが、転移の可能性は0%ではなくなります。
何度も針を刺すことでがんを刺激してしまうというのは昔よく言われていたことですが、現在は否定されています。ただ、針生検をするとそのルートにがん細胞の播種をきたすことが稀ですがありますので、あまり時間を置かずに手術をするべきですし、針のルートは一緒に切除することが必要になります。
以上です。ただ主治医の先生がおっしゃるように、まだ良性か悪性かもわかっていない状況であれこれ考えることは、精神衛生上よくありませんので私もお勧めしません。悪性とわかった時点から考えることをお勧めします。
それではお大事に!

りりぃ さんのコメント...

一つ一つ丁寧な回答ありがとうございました。
悪い方にあれこれ考えがちですが、確かに精神的に良くないですね。
まずは検査をして結果を待つことにします。
色々ありがとうございました。

りりぃ さんのコメント...

りりぃです。再びメールすみません。
乳管内乳頭腫と診断された腫瘍が大きくなっていて、再度針生検をしたところ、浸潤性乳管癌の所見と出ました(核グレード2)
坂元記念クリニックへセカンドオピニオンをしたいと担当医に相談したところ、可能だけど癌との診断が出てるのであまり意味がないかも。それよりは検査や治療をすすめていく方がいいのではとの回答でした。
やはりこの状況ではあまり意味がないでしょうか。
癌だとしても病理診断の結果が今後の治療方針を左右するのであればやはりお願いしたいと思ってます。
あるいは今ではなく腫瘍を摘出した後でそれを双方で診てもらう方がいいのか、、
どうしたらいいかわからなくて先生の考えを聞かせてもらえたらと思います。お忙しいところ申し訳ないですが宜しくお願いします。

hidechin さんのコメント...

>りりぃさん
こんばんは。
もし乳房全摘を勧められたのでしたら、セカンドオピニオンをお願いするのが良いと思います。乳房温存術(乳腺部分切除術)でしたら、仮に針生検のセカンドオピニオンの結果が良性であっても腫瘤は切除した方が良いと思いますので、切除した標本の病理結果を待ってからでも良いとは思います(この場合、少ない可能性ながら良性である可能性も考えておく必要があります)。

針生検の標本で、明らかな浸潤がんの所見が出たのであれば経験のある病理医であれば間違いはないと思いますが(偽浸潤を真の浸潤と間違えていなければ)、初回の診断とは異なりますので、ご心配でしたら術式に関わらずセカンドオピニオンを希望してみても良いとは思います。その前に、どうして初回の診断と今回の診断が違うのか、今回は間違いなく悪性と判断できた根拠はなんなのかをご確認してみてはいかがですか?(初回の針生検で非浸潤部分だけに当たると乳頭腫と区別が難しい場合がありますので、そのことを誤診と非難するような言い方は避けた方が良いと思います)その上で納得できなければセカンドオピニオンを考えるということでも良いとは思います。以上です。

りりぃ さんのコメント...

りりぃです。お返事ありがとうございます。
主治医はおそらく温存でいけるのではないかと言ってました。
摘出したあとにセカンドオピニオンしようと思います。
最初に良性と言われたときは口頭でした。紙ベースでの診断書はありません。
でも先生のパソコンの診断結果を見させてもらうと、乳管内乳頭腫の疑いあり。でも断定はできないというような事が書かれてました。最初から癌の可能性もあったのかもしれません。
もし断定できないのであれば半年前に摘出かセカンドオピニオンをしたのにと悔やまれます。
来週リンパの転移がないか等検査します。
しこりが短い期間で大きくなってることと今まで2度針生検をしてるので早く手術ができたらと思ってます。
色々聞いて頂いてありがとうございました。

hidechin さんのコメント...

>りりぃさん
良い結果をお祈りしています。
それではお大事に!