骨転移の治療薬である、ゾメタの有用性については前にも書きました。
今回は、ゾメタ投与時に一番問題になる、下顎骨壊死について書いてみます。
ゾメタに代表されるビスフォスフォネート製剤は、骨の中の破骨細胞という骨を溶かす細胞の働きを抑えて、骨転移した癌細胞が骨内で増大したり、骨折しやすくなったりする状態を改善します。しかし、一方で歯科治療、特に抜歯などの観血的治療をしたあとに、下顎骨の壊死、感染(骨髄炎)を起こすことがあります。私の患者さんでも一人発症した方がいましたが、ずっと頬の部分から排膿して、治療に難渋しました。
下顎骨壊死とゾメタの因果関係にはいろいろな説がありますが、最近では、破骨細胞の働きを抑えることが主たる原因ではなく、ゾメタが口腔内細菌を増やし、バイオフィルムという状態を作り出すことが深く関与していると考えられています。それは、壊死部に口腔内細菌が増殖していること抜歯前に口腔内清掃をしたり、予防的に抗生剤を投与すると下顎骨壊死の発生率が抑えられたというデータから推測されています。
また、ゾメタは血管新生抑制作用もあるため、抜歯後の創部の治癒を遅らせることも下顎骨壊死を起こしやすくする原因と言われています。喫煙者も同様の理由で起きやすいようです。
現在のところ、予防法は完全に確立しているわけではありませんが、とりあえず気をつけること、対処法は以下のとおりです。
①乳癌患者さんは、日常的に歯科で定期的なチェックをしておく。治療すべき歯は抜歯も含めて治療しておく。喫煙は、できるだけ避ける。
②骨転移治療中に抜歯が必要になった場合、休薬が可能な状態であれば、抜歯の3ヶ月前から抜歯後2ヶ月までゾメタを休薬する。実際は5ヶ月の休薬は困難な場合が多いが、可能な限り長く休薬する方が発症率が低いため、主治医と相談して休薬する。
③休薬が困難な場合、口腔内の十分な清浄化(イソジンのうがいなど)、前日からの予防的抗生剤投与の上で抜歯(抜歯創は縫合閉鎖)。
いずれにしてもゾメタ投与中の患者さんは、こういう副作用があることを十分に理解して、主治医と歯科医と口腔内の状態について、よく相談しておくことが重要だと思います。
6 件のコメント:
ゾメタにそのような副作用があるのですね。知りませんでした、、、ゾメタ治療を受けている患者さまに接する時に念頭におこうと思います。学習不足だわ、、と思わず独り言が、、、出てしまいました。kimikomew
kimikomew3824さんへ
下顎骨壊死は最も注意しなければならない副作用です。ただ発生は極めて稀なので、なかなか日常診療の中では配慮するのを忘れがちですよね。
やはり、初回投与時に十分に説明することと、医師、看護師、薬剤師が協力してフォローする体制作りが必要だと思います。
6 回のゾメタを投与している多発転移の再発患者です。
上の差し歯が一カ所、ぐらぐらしてとれそうになっています。(2本繋がっているため、1本が外れていそうですが)これはやはり顎骨壊死と関係しているのでしょか。
>いちごさん
歯がぐらぐらしているだけでは下顎骨壊死とは言えません。下顎周囲の発赤や腫脹、痛み、発熱、口腔内の排膿などが主な症状です。
ただ、いずれにしても歯科治療が必要だと思いますので、主治医の先生に治療内容をきちんと書いてもらった紹介状を持って歯科(できれば口腔外科)に受診されるのが良いのではないかと思います。抜歯などの処置が必要な場合、ゾメタをしばらく中止しなければなりませんので、主治医と歯科医の間でよく連携を取ってもらうようにして下さいね。お大事に!
初期の乳がん患者です。
現在ゾラデックスとタモキシフェンを投与治療中ですが、初期の乳がんの再発予防に効果があると書いてありました。
合わせて投与をお願いした方がいいのでしょうか?あと標準治療の他にも投与した方がよいものがあったら教えていただけたらと思います。よろしくお願い致します。
>花音さん
ゾメタを併用する方が成績が良かったという臨床試験のデータはありますが、現在のガイドラインではまだ推奨される段階のエビデンスにはなっていませんし(2011年の乳癌診療ガイドラインでは推奨グレードC1 ”予後を改善するという確実な証拠はなく基本的に推奨できない” となっています)、予防投与はそもそも保険適応外です。ですから主治医にお話ししても断られると思います。私の患者さんにも投与はしていません。
花音さんの場合、病理結果の詳細はわかりませんが、リンパ節転移陰性の早期のホルモン陽性乳癌だとすると、タモキシフェンだけという治療も許容されるところをゾラデックスも併用しているわけですので十分な再発予防をされていると思いますよ。標準治療以外でさらに追加した方が良いとお勧めできるような治療はありません。もしそういう治療があるのでしたら、それはすでに標準治療になっているはずですから。
それでも強いて言うとしたら、健康的な生活を送ることです。これからの人生において、生命を脅かすのは乳がんだけではありません。エビデンスのない治療に頼るより、野菜を十分に摂って、塩分やコレステロール、動物性脂肪を控えてバランスの良い食事をすること、肥満を避けて運動をすること、睡眠時間を十分に取り、過労は避けること、精神的に平穏に過ごせるような工夫をすること(趣味や気晴らしなど)、タバコは吸わないようにしてアルコールの過剰摂取を避けることなどが大切だと思いますよ。それではお大事に!
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