昨日、東京のグランドプリンスホテル新高輪で開催されたBreast Cancer Forum 2009という講演会に行ってきました。
プログラムは、①St.Gallen 2009の報告会、②スイスからの招待演者によるBIG1-98というタモキシフェンとレトロゾールの比較試験の報告、③「ホルモン感受性乳癌の標準治療を探る」というテーマのパネルディスカッションで、全国から800人以上の乳腺外科医が集まりました。
ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、St Gallen(ザンクトガレン)という国際会議は、それまでに集積された臨床試験結果をもとに、乳癌の再発リスク分類の方法を決めたり、初期治療の方法を話し合う会議です。最近では2年に1度行なわれています。
St.Gallen 2009のトピックを一部抜粋します。
①ホルモン感受性の判定基準が10%から1%に引き下げられ、より多くの症例にホルモン療法の適応を与えるようになった。HER2は、逆に10%から30%に引き上げられ、適応が厳密になった。
②再発リスクをリスク因子をもとに低リスク、中間リスク、高リスクにまず分けてから、治療法を提示する考え方から、治療法別にその患者さんに投与する妥当性があるかを検討する方法に変更された(これは簡単に説明するのは難しいです)。最終的に問題になるのはホルモンレセプター陽性、HER2陰性の乳癌で、この群に抗癌剤を上乗せするかどうかの判断は、ホルモンレセプターの発現程度や組織学的異型度、腫瘍径、リンパ節転移数、脈管浸襲の程度、増殖能(ki67など)で判断することになった。
③Mamma PrintやOncotype DXなどの多遺伝子発現解析が再発予測因子として認識され、今後の臨床応用に道筋ができた。
④センチネルリンパ節生検は標準的治療法と認定された。ただ、微小転移と取り扱いについては結論は先送りされた。
⑤トリプルネガティブ乳癌の治療については、現在臨床試験が進行中という報告にとどまった(イグザベピロン、プラチナ製剤、PARP阻害剤など)。
こんなところです。ちょっと難しいですね。
興味深かったのは、術前内分泌療法についての招待演者の先生のコメントです。St.Gallen 2009では、ホルモンレセプター強陽性、HER2陰性の乳癌に対しては、抗癌剤があまり有効ではなく、ホルモン療法の投与は妥当であるというvoting(観客がスウィッチを押して質問に答えて集計する方法)の結果であったにもかかわらず、実際の欧米の医師はほとんど術前内分泌療法を行なっていないという招待演者の先生のお話です。効果があるとわかってはいても、慣れ親しんだ化学療法を選んでいるというのが実態のようです。現在、日本で行なわれている術前内分泌療法の結果が出れば、世界的に考え方が一変するかもしれません。
1日だけの講演会でしたが、なかなか勉強になりました。
なお、NPO法人 がん情報局のHPにSt.Gallen 2009の論文の日本語訳が出ています(http://www.ganjoho.org/)。興味のある方は、ご参照ください。
5 件のコメント:
お疲れ様です。
素人にもわかりやすい内容で書いていただきありがとうございます。
(でも、半分わかった感じです~笑)
ホルモン治療がかなり効果があり、治療できる人の幅も広がり、ハーツは幅が厳しくなったて、感じでしょうか・・?
ホルモン療法は飲み薬だけなので、かなり患者にとっては 優しい治療で嬉しいです。
もちろん、辛い3大治療をこなしたから言えますが。
早期発見や、リスクのすくない乳癌ですと抗がん剤などしなくて良いのがいいですよね。
しかし、私は乳癌を発見した時は・・「あ、癌・・、もうだめ」って思いましたが、主治医が「治そうね」と言ったことばがその時は、不思議でした。
今では、日々医療が進歩していることが心強いです。
リンダさんへ
最近の治療は、強ければ良い治療、というのではなく、その患者さんの癌により適した治療、というのが求められるようになってきています。これからさらにこの分野の研究がすすめば、副作用の少ない、オーダーメイドの治療ができる日が来るかもしれませんね。
臨床試験の結果は、こういった大規模な講演会で、会議されのるに大変役立っているんだと実感しました。
今、どんな治療方法が注目されて期待をよせられていて、いろんな臨床試験が行われているのか、その背景もよく理解できました。
先日先生にご見解をお伺いした自分の治験参加による術前ホルモン療法の治療方法に非常に関係している内容の報告とも受け取りました。
なので私もとても興味深い内容なので、URL検索して参照させていただきます。
こういう報告がされることによって、それをもとに、より患者さんにあった治療方法を主治医は考えてくださって、少しづつ、患者さんの治療方針が変化していくきっかけになっていく大切なディスカッションの場なんですね。
自分の治療方針に不安を覚えていたのに、先生のご見解のおかげで、自分の治療が、将来の乳がん患者さんの役に立てばいいなと、思えるようになりました。
しかしながら、術前内分泌療法がどれほど注目されているのか、実感したしました。
臨床試験は、専門家が期待するような良い結果がでれば、将来の新しい治療の突破口となるべきとても大切な事ですね。
自分の参加している治験も、良い結果が出て欲しいと祈るばかりです。。(自分のことですみません <(_ _)>)
世界的な講演会に出席されたのですね。いろいろ基準が変わったのですね。再度じっくり読ませていただきます。お疲れさまでした。たくさんの方々がこの先生の投稿をご覧になって頂きたいと思いました。とても勉強になります^^
kimikomew
kimity0115さんへ
私もkimity0115さんが参加した臨床試験の結果に期待しながら注目しています。
以前と違って、最近の臨床試験は安全性や倫理面にも配慮しながら行なわれていますから、もっと多くの患者さんに参加してもらえるといいですね。
kimikomew3824さんへ
今回の基準は前よりちょっと複雑なのでわかりにくいかもしれません。私もまだ100%理解できていないので、論文を熟読しておこうと思います。また、ki67の免疫染色は今まではしていないので、これから病理医に協力してもらわなければなりません。乳癌取り扱い規約もそうですが、一つ基準が変わるとデータ入力もし直さなきゃならないし、新たな病理医の仕事も増えて、なかなか大変なんです。
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