なんとも信じられないような話ですが…。
最近、モルヒネやその他のオピオイド系鎮痛薬が癌細胞の増殖を促すというエビデンスが増えつつあります(私は知りませんでしたが…)。モルヒネは腫瘍細胞の増殖を増大させ、免疫系を抑制し、腫瘍に栄養を送る新しい血管の成長(血管新生)を促し、バリア機能を低下させる可能性があると言われているそうです。
今回これを支持する新しい研究が、「分子標的治療に関する」米国癌学会(AACR)・米国立癌研究所(NCI)・欧州癌研究治療機構(EORTC)国際合同会議で報告されました。
今回発表された研究では、μオピオイド受容体を持たないマウスでは肺癌細胞を注入しても腫瘍は発現しませんが、正常なマウスでは癌が発現することを示しました。また、オピオイド誘発性便秘の治療のために開発されたメチルナルトレキソン(日本国内未承認)という薬剤によって、正常マウスにおける癌細胞の増殖が90%低減することも示しました。
癌による痛み(癌性疼痛)を非常に効果的に軽減してくれる医療麻薬であるモルヒネが、癌細胞の増殖を促すというのは、かなりショッキングなことですが、動物実験と実臨床は異なります。実際、癌の終末期に積極的治療を行なった場合と緩和治療を行なった場合の予後は変わらないかむしろ緩和治療の方が良いと言われています。人間にとっては、疼痛を軽減するという効果は免疫系にプラスに働くために、癌を増殖させる効果よりも影響が大きいのかもしれませんね。
また、今回の研究結果はこのメカニズムを利用したチルナルトレキソンのような新たな治療薬開発に道を開くかもしれません。ネガティブなデータをポジティブに変換できるという人間の知恵はすばらしいですね!
2 件のコメント:
そういえば、COX2 Inhibitorもモルヒネによる腫瘍増殖効果を抑えるというマウスレベルのデータがありましたね。
http://www.nature.com/bjc/journal/v97/n11/abs/6604057a.html
COX2 inhibitorに血管新生阻害作用があるという研究もあるので、納得といえば納得の結果ですが。
モルヒネが血管新生を促進するというのであれば、アバスチンなんかも効きそうな予感がしますがけどね…
ただでさえ根拠のない偏見がもたれる医療用麻薬なので、こういったニュースを断片的にとらえて、さらに誤って捉えられないよう、啓蒙が必要ですねえ。
それ以前に、医療用麻薬を適切に使える先生が少ないのも問題ですが…(特に地方部)
>火田さん
”ただでさえ根拠のない偏見がもたれる医療用麻薬なので、こういったニュースを断片的にとらえて、さらに誤って捉えられないよう、啓蒙が必要ですねえ。”
→おっしゃる通りですね。乳癌の場合には、他の臓器癌に比べると麻薬を使用しながら積極的治療も併用するケースが多いと思います。また、使用期間も長くなります。実臨床での影響が知りたいですね。印象としては、麻薬使用後に急速に悪化することはないと思うんですが…。
アバスチンの乳癌に対するデータが出つつありますので、麻薬使用時にはアバスチンを併用するなどという治療が行なわれる時代も来るかもしれませんね。
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