私の患者さんではないのですが、先日乳癌と診断された患者さんが手術予定をキャンセルして本州のRFA(ラジオ波焼灼療法)を行なっている某施設に受診したいと希望されました。基本的に患者さんの希望は最優先されるべきですが、この患者さんはインターネットを自分で調べて、切らなくて乳癌を治せればと思ったようで、十分な情報を与えられていたわけではありませんでした。
乳癌の最新治療情報9にも書きましたが、乳癌の原発巣に対する非手術的な治療、特にRFAはまだ標準的な治療にはなっていません。将来的には有望な治療ですのできちんとした臨床試験を経た上で患者さんに不利益にならないように慎重に勧めるべきだと考えています。
しかし、残念なことに一部の施設ではルールを守らずにこの治療を行なっていたため、最近トラブルが続出しているようです。先日乳癌学会からもそのような内容の調査用紙が送られてきました。トラブルの詳細は記載されていませんでしたが、皮膚のやけど、局所の硬結、高率な局所再発などが推測されます。
患者さんはできれば切りたくないと誰しも考えています。それでも手術の必要性をきちんとご説明すればほとんどの患者さんは手術に同意してくれます。しかし最近ではインターネットで様々な情報が入手できるので、資格を持った医師が”乳癌は切らずに治せる”と書いてあればそちらに流れていってしまいがちです。
この治療の正確な情報を提示し、meritとdemeritをきちんとご説明していればこのようなトラブルはそれほど起きないはずです。
さらに問題なのはこれら一部の施設では、現在の標準的な乳癌治療に対する考え方を守っていないということです。前回も書きましたので重複は避けますが、乳房内の局所制御においてRFA単独では外科的切除(乳房温存術)と同等以上の効果にはなりません。良くてもほぼ同等程度です。ですから、乳房温存治療として、乳房温存術+放射線治療と同等の局所制御効果を得るためには、放射線治療を併用しないRFA単独治療ということはあり得ないのです。しかし、一部の施設では非照射のRFA治療を行なっているようです…。
切除しないから傷もつかないし、放射線治療で皮膚に色素沈着することもないので、やけどなどのトラブルがなければ美容的には患者さんは大満足でしょう。数年はこの治療を受けて良かったと思われると思いますし、実際、その後も6-7割の患者さんは何も問題は起きないかもしれません。しかし、MRgFUSの臨床試験で焼灼療法後の乳腺に30%以上の癌が遺残していたというデータから推測すると、かなり高率に局所再発することが考えられるのです。
現在の乳房温存療法と同等の成績が確認されるまでは、”乳癌は切らなくても治せる”という表現は正確ではありませんし、このような治療を行なう場合はあとできちんと検証できるような形(臨床試験など)で行なうことが大切です。臨床試験以外の焼灼療法を希望する場合には、十分な説明を受けた上で、治療を選択する必要があります。そして、放射線治療を追加しない焼灼療法というのは、エビデンスはもちろんないですし、局所再発率の増加を納得した上で患者さんが放射線治療を拒否する場合と臨床試験以外では行なうべきではないと私は思っています。
4 件のコメント:
こんにちわ。
以前何度かお邪魔しました乳がん患者です。
「きちんと検証できるような形(臨床試験など)で行なうことが大切です。」に深く共感しつつ拝読いたしました。
乳がんの治療にガイドラインがあることも理解しております。
「受診したいと希望されました」ということですので、まだその治療を受けるか否かは未定と解釈しました。
他施設を受診後に、元の外科医の先生に相談するという選択肢はいかが思われますか?
例えば「こういう治療を検討して説明を聞いてきました。私はこう考えますが、先生はどう思われますか?」と。
そこで元の外科医の先生に、理解が不十分だったことを新たに質問することもできますし...
他施設を受診するだけ(セカンドオピニオンだけで決定していない)でも、やはり問題になることもあるのでしょうか?
>ふじくろさん
セカンドオピニオンという概念が世間ではまだただしく認識されていないと思います。
セカンドオピニオンというのは、その病院で下した診断や方針が妥当なものかを検査資料と紹介状をもって他の施設の医師に確認に行くというのが本来の目的です。ですから意見が異なる場合以外は、元の病院に戻って治療を受けるというのが基本なのです。ですからセカンドオピニオンとして受診する場合であれば元の病院の医師に再度説明を受けるのはなんら問題はありません。
転院を希望して受診する場合はセカンドオピニオンとは呼びません。この場合であっても、患者さんの思ったような治療方針や考え方ではなった場合は元の病院の医師に戻るということも可能です。ただ、紹介状も書いてもらわずに勝手に受診してしまった場合などは、戻ってくることを快く思わない医師もいるかと思います。
ですから、他の病院へ受診を希望する場合は、二度と戻ってくるつもりがない場合でなければ、最初の担当医と良い関係を保った状態で紹介状を書いてもらうことが大切だと思います。医師も人間ですので、一度信頼関係が崩れてしまうと、なかなか修復がうまくいかないこともあるかもしれませんからね(私のところのような小規模の病院では戻って来ていただけるのであれば大歓迎ですが…)。
まさに今の私です。
癌告知をされてから情報をさがし、宮崎の切らない「集束超音波治療(FUS)」を希望していますが、安全性がまだかくにんされていないとのこと。
宮崎の病院は、臨床試験で行われていること、その後に放射線をあてることを考えれば、安全性は確保されると考えてもいいのでしょうか。
30%のガン細胞が残っていたというデータには驚きました。(こんなデータはどこで確認できるのですか?)
しかし、何しろ遠距離。その後の治療を担当してくれる地元の病院があるかどうかもネックです。
> teliaraさん
ブレストピアなんば病院での治療をお考えなのですね?ここの古澤先生は私と旧知の仲ですがとても信頼できるDrです。
MRgFUSの臨床試験(ブレストピアが参加していた)で焼灼療法後の乳腺に30%以上の癌が遺残していたというデータは、初期の臨床試験のデータです。つまり、患者さんの同意を得て、FUSを行なったあとで切除を行ない、FUSの効果を確認した結果なのです。ただ30%以上の患者さんで確認された生き残ったがん細胞の一部は、いずれ死滅する可能性もあると考えられていますので(つまり見かけ上、生きているようにみえるだけ)、全てが再発につながるわけではありません。
ブレストピアで行なっているMRgFUSは、厳密な適応のもとで詳細なデータを取りながら行なっている臨床試験です。もちろんその効果が証明されている段階ではありませんが、少なくともきちんと管理された中で行なわれている治療です。もちろん teliaraさんが、この臨床試験の適応になるかどうかわかりませんし、治療を決意する前には詳細な説明があるはずです。この話をよくお聞きになった上でご判断されるのが良いのではないかと思います。それではお大事に!
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