
再発患者さんのように長期にわたって抗がん剤投与が必要な場合、腕などの血管が徐々に痛んで使用できなくなるため、CVポートという器具を挿入することがあります(写真はBARD社のX-ポートisp グローションカテーテルタイプ)。
挿入方法は、以下の通りです。
①局所麻酔下で鎖骨下静脈などの太い静脈を注射針で試験穿刺。
②専用の穿刺針で穿刺後、ガイドワイヤーを針の内部から挿入。
③ダイレーターという拡張用の器具でルートを拡張した後でガイドワイヤーを介してカテーテルを心臓近くの上大静脈まで挿入。
④前胸部を切開し、ポートを皮下に留置し、カテーテルと接続し固定。
⑤閉創
およそ30分から45分で終了です。
一度入れてしまえば、ここから採血もできるし点滴のために何度も針を差し替えられることもなくなり、患者さんにとっては非常に楽になることが多いです。また、抗がん剤が血管から漏れてしまうと重篤な組織の壊死をきたすことがありますので、ポートを入れてしまえばこういうリスクを低減できます。
一方、ポートやカテーテル関連のトラブルも時に経験します。代表的なものは以下の通りです。
①ピンチ・オフ…鎖骨下静脈と第1肋骨の間にカテーテルが挟まれた状態。体位で点滴の落ち方が変わったり、採血できなくなったりします。このまま放置するとカテーテルが離断して心臓内に落ち込んでしまことがありますので、入れ替えが必要になります。
②キンク…カテーテルが折れ曲がること。肥満体型の患者さんに起きやすい傾向があります。ポートとの接合部の近くや大胸筋の挿入部などで起きやすく、ピンチ・オフと同様にカテーテル離断の原因になります。離断したことを知らずに抗がん剤を投与すると皮下に漏出してしまうことになりますので、必ず投与前に血液の逆流を確認する必要があります。
③カテーテル感染…ポートやカテーテルのような異物には、時に細菌が住みいてしまうことがあります。他に原因がないのに高熱を繰り返す場合にはカテーテル感染を疑います。菌が血管内をまわる状態(敗血症)を引き起こすため、早く適切な対処(抗生物質の投与とカテーテルの抜去)をしなければ重篤な状態になるので注意が必要です。
④気胸、血胸…ポート挿入時の肺や動脈の誤穿刺で起きます。胸腔ドレーン(チューブ)の挿入が必要になります。
ポートの挿入によって得られるメリットは大きいですが、このような重篤な合併症も起き得ますので注意が必要です。ポート周囲の発赤や痛み、腫れ、発熱が起きたときはすぐに主治医に報告するようにしましょう。