2010年4月6日火曜日

乳腺領域における漢方治療

先日の事業仕分けで仕分け対象になり、患者さん、医療従事者から猛反発があって棚上げ状態(その後の報道がないのでどうなったのか不明ですが…)の漢方薬ですが、私たち乳腺外科医もお世話になることがあります。先日の北海道新聞(平成22年4月3日朝刊「外科にも漢方」)にも掲載されていたように外科領域ではむしろ需要が増えているかもしれません。

可能であれば通常の医薬品(西洋医学における)を用いて対処しますが、相手は人間ですのでどうしてもうまく反応してくれないことがあります。そういう時には漢方薬が効果を発揮することがあります。

乳腺領域で用いいることのある漢方薬の一部をご紹介します(私は漢方の専門家ではありませんので、不十分な内容かもしれません。専門家の方のご助言をいただければ幸いです。)。

1.乳腺炎
「葛根湯」…保険適応があります。乳腺疾患自体で保険適応として明記されているのは、私が調べた中では葛根湯の乳腺炎に対する効能だけのようです。葛根湯は風邪の初期症状でよく処方される薬ですのでご存知の方も多いと思います。動物実験で消炎作用が証明されており、初期の無菌性乳腺炎には一定の効果があるようです。

*膿瘍を形成した乳腺炎に対する漢方薬もありますが、通常抗生剤を投与したり、切開して排膿してしまうので漢方薬のお世話になることはまずありません。

2.乳腺症
「加味逍遙散」…しこりのない乳腺症(比較的虚弱な人に処方するが、時に肥満の人にも投与することあり。)
「桂枝茯苓丸」…しこりのある乳腺症(比較的体力のある人に処方。虚弱な人に投与すると体力を奪うとのこと。)
「当帰芍薬散」…乳腺症によく用いられているようですが、ある漢方の専門家によれば、乳腺症にこの漢方を用いるのは処方として正しくないとのことです。

*これらはいずれも更年期障害や月経不順、月経困難症などに用いられる漢方薬で、効能書きには乳腺症の文字はありません。しかし、痛み止めは飲みたくない、とか飲むほどではない、という患者さんに投与することがあります。

「四逆散」…臨床的には乳腺症の所見に乏しいのに、異常に乳房の痛みを訴える患者さんに有効なことがあります。このような訴えをされる方は神経質、神経過敏などの気質を持っている方が多い印象があります。保険適応上は、”神経質、ヒステリー、胆嚢炎、胃炎、胃潰瘍”などです。今までに2人処方しましたが、1人には著効し、もう1人にも症状の軽減がみられました。

3.抗がん剤の副作用軽減
「牛車腎気丸」…タキサン系のしびれ、神経痛、むくみ
「芍薬甘草湯」…タキサン系の筋肉痛、関節痛
「補中益気湯」…全身倦怠感
「十全大補湯」…骨髄抑制による免疫機能低下
「加味帰脾湯」…貧血、白血球低下、血小板低下(特発性血小板減少性紫斑病にも用いることあり)

これらの薬剤の効果に関する科学的立証は、動物実験レベルではかなり行なわれています。ニュースでも流れていましたが、今後さらに研究が進められると思います。
ただ、今のところ乳癌自体の治療に対して漢方薬が効果があるという明らかな信頼できる報告はありません。乳癌自体に対してはエビデンスのある治療法が確立されているのですから、漢方薬に頼るのは避けるべきだと思います。盲目的に西洋医学を否定して東洋医学に走るのではなく、それぞれの良い部分をうまく組み合わせることが重要だと私は思っています。

2 件のコメント:

mafu さんのコメント...

私も事業仕分けの時に、反対の署名をした一人です。
私は漢方のおかげで、慢性的な持病が良くなりました。西洋医学(いわゆる薬)が効く病気ももちろんあり、両方をうまく使い分けられたらいいなぁと思っています。

私は術後疼痛になってしまい、1年間抗うつ剤を服用していました。病院には緩和ケアの中に鍼治療があって、あわせて受けていました。
東洋医学をうまく取り入れた医療が、もっとすすむのを期待しています。
しかし、混合診療の問題もあり・・・患者としては、良い方向にすすむのを願うばかりです。

hidechin さんのコメント...

>mafuさん
mafuさんも漢方に救われたお一人なんですね!事業仕分け問題がきっかけになって、東洋医学の研究が進むといいですね。

私は、私たち医師ももっと東洋医学の知識を身につけるべきだと思っています。そして適切に西洋医学と東洋医学を融合させることが患者さんにとってより良い治療になると思っています。

そのためにも東洋医学に関するエビデンスをもっと蓄積すべきなんですよね…。でも東洋医学の専門家によると漢方薬は、患者さんそれぞれに合わせて細かく調合するのが原則であるため、同じ治療を行なって比較検討するような西洋医学的なエビデンスというのは正確には得られないということです。なかなか難しいですね…。