2010年10月19日火曜日

乳がん治療後の妊娠・出産

若年発症の乳がん患者さんにとっての大きな心配事は、乳がんになっても妊娠して大丈夫か、ということです。私もネットを介して何度か相談を受けたことがあります。

昔は妊娠・出産は再発を促すので禁止ということを指導されていましたが、最近の報告では妊娠・出産は乳がん患者の予後を悪化させないという考え方が一般的になってきています。ただ、術後補助療法を中止して妊娠・出産しても大丈夫かどうかまではっきり書かれた報告はないように思います。基本的には術後必要な補助療法を行なった後に妊娠するのであれば予後を悪化させない、と考えるのが正しいのではないでしょうか。

今回、第35回欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2010;10月8~12日,イタリア・ミラノ)でJules Bordet Institute(ベルギー)らが発表した報告もこの考え方を支持するものです。概要を下に示します。

対象:1988~2006年に40歳以下で乳がんと診断され,治療完遂後に妊娠した患者32人中、回答を得た20人。乳がんと診断された当時の年齢の中央値は32歳(27~37歳),出産時の年齢の中央値は36歳(30~43歳)。

結果:授乳を行っていたのは回答者の半数の10人。そのうち4人は出産後1カ月以内に授乳を中止していたが,授乳に関するカウンセリングを受けていた6人は出産後7~17カ月(中央値11カ月)にわたって授乳していた。また,温存手術を含め乳腺切除を受けている場合は授乳期間が短くなる傾向にあり,ボディーイメージが授乳行動に影響することも示唆された。授乳をしない主な理由としては「安全だと知らなかった」,「授乳できないと思っていた」など。進行例は授乳者と非授乳者それぞれ1人ずつであり,出産後の追跡期間中央値48カ月において回答者20人はすべて生存していた。

この報告は比較試験ではなく、観察期間も短く、症例数も少ないのでエビデンスレベルは低いものですが、今後妊娠を希望されている若年乳がん患者さんには心強いデータだと思います。

妊娠可能年齢ぎりぎりで妊娠を希望されている場合には、5年間のホルモン療法はかなり決断のいることだと思います。可能なら補助療法は行なうべきではありますが、再発リスクと秤にかけて主治医とよくご相談の上、慎重に判断されるのがよいと思います。

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