2011年2月24日木曜日

抗癌剤の副作用15 B型肝炎ウイルスの再活性化


抗がん剤を使うと白血球が低下し、免疫力が一時的に低下します。また、副作用予防目的などでステロイドを併用することも多く、これも免疫力の低下を引き起こします。このように免疫力が低下した状態では、通常の状態では感染しないような病原体(クリプトコッカスなどの真菌やサイトメガロウイルスなどのウイルス、カリニ原虫など)に感染したり、体の中に潜伏していた病原体が再活性化することがあります。

後者で最近注目されているのがB型肝炎ウイルス(HBV)の再活性化です。

もちろん慢性肝炎などの持続感染状態の患者さんにおいて肝炎の悪化を引き起こす危険があるのは当然ですが、以前からHBs抗原陽性のHBVキャリアの患者さんでもこのような免疫低下状態では突然劇症肝炎を起こすことがあると言われていました。

ところが最近では、B型肝炎にかかって治癒したと考えられていたHBs抗原陰性、HBs抗体陽性の患者さんにおいてもHBVの再活性化が起きて劇症肝炎を起こすことが報告されるようになってきました。このような状態は”de novo B型肝炎”と呼ばれています。

まず肝炎ウイルスに関する検査所見の概要についてご説明します。

①HBs抗原(+)、HBs抗体(-)…HBVの持続感染状態。このうち、HBe抗原が陽性だと感染力が強いと言われています。またHBs抗原は陽性ですが肝機能が正常で肝炎をまだ発症していない状態を”HBVキャリア”と言います。
②HBs抗原(-)、HBs抗体(-)、HBc抗体(-)…HBV非感染者
③HBs抗原(-)、HBs抗体(+)…HBV感染の既往(またはワクチン接種者)
④HBs抗原(-)、HBs抗体(-)、HBc抗体(+)…HBV感染の既往

②の場合はまったくB型肝炎の既往がありませんので問題ありません。
問題は③④の場合です。以前は単なる”B型肝炎の既往”であり、”肝炎は治癒してウイルスが完全に排除された状態”だと考えられていました。しかし、このような患者さんにおいても免疫機能低下状態にさらされるとHBVの再活性化が起きることがあるということは、肝細胞内にHBVが”眠った状態”で潜伏している可能性があるということなのです。

一般に悪性リンパ腫の化学療法でHBVの再活性化が起きやすいと言われていますが、乳がんにおいても比較的起きやすいようです。特にアンスラサイクリン系のレジメン(FEC、EC、ACなど)で起きやすいようですが、アンスラサイクリン自体による影響に加えて、ステロイドを併用することも発症率を上げている要因かもしれません。

再活性化が起きた場合の劇症肝炎の発症率は17-42%と高率であるため十分な注意が必要です。

私たちの病院でも1例、HBV再活性化から劇症肝炎を併発した患者さんを経験しています。ですから、現在では厚生労働省班合同報告のガイドラインにのっとり、化学療法を施行する患者さんに対しては、HBS抗原、HBs抗体、HBc抗体をチェックするようにしています。そして図(参考資料より抜粋)のようなアルゴリズムにしたがって対応をしています。


(参考)
厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班劇症肝炎分科会および「肝硬変を含めたウイルス性肝疾患の治療の標準化に関する研究」班合同報告-.肝臓 50 巻1 号 38-42(2009)(http://www.jsh.or.jp/medical/date/09v50_38-42.pdf)

免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン(http://www.kensin-kensa.com/archives/cat15/b/)

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