開発・導入当初は、”微小ながんでも見つけられる夢のような検査”という期待が寄せられたPET検査ですが、その後のさまざまな検討によってその位置づけは変わってきています。がん検診目的で導入したのに経営に行き詰まってつぶれてしまった人間ドック専門クリニックも市内にはありました。
現在保険診療で認められている乳腺疾患に関する病態は以下の通りです(注 下記参照)。
①「ほかの検査、画像診断によりこれらのがんを疑うが、病理診断により確定診断が得られない患者」(FDG-PET)
②「ほかの検査、画像診断により病期診断、転移・再発の診断が確定できない患者」(FDG-PET、FDG-PET/CT)
①は体表臓器に発生する乳がんの場合はきわめて稀なケースです。通常は画像に写りさえすれば細胞診や針生検、場合によっては摘出生検で確定診断が可能だからです。あり得るとすれば、腋窩リンパ節転移などで乳がんを疑うが原発巣を確認できないoccult cancerの場合くらいでしょう。
②の理由でPETを行なうことはたまにあります。腫瘍マーカーが増加傾向なのに通常の画像検査では転移がはっきりしない場合などが良い適応です。ただ、PETが万能な検査というわけではありません。例えば肺転移を疑う孤立性腫瘤がある場合、肺転移、原発性肺がん、炎症性腫瘤(肺結核も含む)などが鑑別に上がりますが、PET検査では、転移も肺がんも活動性のある炎症性腫瘤も取り込まれてしまい、転移の確定は困難です。結局針生検や部分切除を行なったり、それらが困難な場合は臨床的に判断して治療を行なっていることが多いのです。そうは言っても再発かどうかの判断に迷う場合にPETのお世話になることは時々あります。
*注(訂正)
上記は昨年3月までの保険適応です。参照した資料(「乳癌診療におけるFDG-PET検査」(臨床外科 65(2):192-199, 2010大地ら)が2010.2掲載のものでした。
2010.4からの保険適応は、
「悪性腫瘍(早期胃癌を除く)の病期診断または、転移・再発の診断(他の検査、画像診断により診断が確定できない患者に使用する)」
と変更されています。悪性腫瘍の診断が得られていないものに対しては保険適応外となりましたが、「病理診断による確定診断が得られていなかった場合については、臨床的に高い蓋然性をもって悪性腫瘍と診断されれば、なお従前通り算定できる」との通知が出ているとのことで、乳がんに関する保険適応に関してはおおむね上記の内容と同じです。
以上から考えると、PET検査は1回の検査で全身を調べられる利点はありますが、乳がんの術後検査(再発のチェック)目的でPET検査のみを行なうということは保険診療では認められていないことになります。
次に「乳癌診療ガイドライン」におけるPET検査の位置づけは以下のようになっています。
①「FDG-PETは乳がん検診として勧められるか?」
→「乳がん検診を目的としたFDG-PETは勧められない」(推奨グレードD…不利益が及ぶ可能性があるというエビデンスがあるので日常診療では実戦しないよう推奨)
ちなみに10mm未満の原発巣の検出感度は46.6%(大地ら)と報告されています。
②「FDG-PETは初期治療後フォローアップとして推奨されるか?」
→「定期的なFDG-PETを勧める十分な根拠はない」(推奨グレードC…エビデンスは十分とは言えないので日常診療で実戦する際は十分な注意が必要)
③「FDG-PETは有所見の患者の乳がん術後の再発および転移の検索に勧められるか?」
→「FDG-PETは有所見の患者の乳がん術後の再発および転移の検出に勧められる」(推奨グレードB…エビデンスがあり日常診療で実戦するように推奨)
ただし、造骨性主体の骨転移は偽陰性になることがあります。
その他、治療効果の判定やセンチネルリンパ節生検の適応判断の補助として、用いられることもあるようです。施設によっても違うのかもしれませんが、私たちの病院では日常診療する上で実際にPET検査を行なうことは稀です。なお、PETは放射性同位元素を用いる検査ですのでCTや骨シンチと同様に医療被曝が生じます。その線量は、PETで2.2mSv、PET/CTで6mSv程度と言われています。通常の診断用CT検査に比べても多い線量ではありませんが、人間ドックとして(がん検診目的で)検査を受ける場合には、上に記した推奨グレードと一緒に被曝についても一応考えた上で受けた方が良いでしょう。
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