2011年12月5日月曜日

乳がんの切除断端を正確に診断する新技術??

Tornado Medical Systemsというベンチャー企業が、乳房温存術中の切除断端のがんの有無を迅速に調べる装置を開発、実用化すると先日発表しました(http://www.longwoods.com/newsdetail/2241)。2013年度中にでもFDA(米食品医薬品局)の承認取得を目指しているそうです。

この装置は、”Margin Assessment Machine (MAM) ”と呼ばれるもので、詳細なシステムについては不明ですが、配信されたニュースによると、「乳がんで切除した標本の断端にレーザー光を当てると、石灰化して硬くなったがん組織だけ強い光の散乱が起こる。それをラマン分光法という方法を応用して解析することで、腫瘍組織と正常組織の境界を見分けることができる。」と書いてありました。

これが本当だとすると、その有効性は限局的なような気がします。その理由は、全てのがんが石灰化を伴っているわけではないからです(”石灰化”という記述が間違っているのではないかとも思うのですが確認できません)。乳房温存術の際に切除断端が陽性(つまりがんが残ってしまうこと)になる一番の要因はがんの乳管内進展によるものです。今はMRで乳管内進展範囲がある程度予測でき、特に壊死型の石灰化を伴うがんの代表である「面疱型(comedo type)」の場合はMRでよく染まってきます。一方、「低乳頭型」などの乳管内進展はMRでも染まりにくいことがあり、これらは石灰化を伴わないですのでこの装置では描出できないのではないかと思います。ですからMRでわからないような進展範囲がわかるような装置でなければ有用性が大きいとは言えません。実際、術中迅速組織診断でさえ、乳管内の乳頭状病変の診断はかなり困難なのです。病理医の目以上の診断力をこの装置に期待するのは少し無理があるような気がします。私たちは石灰化を伴うがんの場合は、摘出標本のマンモグラフィで石灰化がきちんと切除されているかどうかを確認します。この装置はこのレントゲン検査と術中迅速診断にどのくらい上乗せした情報を私たちに提供してくれるのでしょうか?まだ詳細な情報がありませんので、実際はここに書いた内容とは少し違うのかもしれませんが、乳管内病変の診断の難しさをたくさん経験している私としてはあまり過大な期待はしないようにしています。

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