”乳腺症は、乳癌になりやすいのですか?”
外来でよく聞かれる質問です。
私は、
”乳腺症の一部は乳癌と関係あると推測されていますが、そういう変化があなたの乳腺内に起きているかどうかは、両方の乳房をすべて顕微鏡で調べないと正確にはわからないので、あまり乳腺症だから…とは考えなくて良いです。ただ、乳腺症の有無に関わらず、20-25人に1人は乳癌になりますから、すべての女性は乳癌に気をつけなければなりません。”
と、わかるようなわからないようなお答えをしています。
そもそも”乳腺症”とは何か?ということに正確にお答えするのは、実は難しいのです。
症状的には、”中年女性に好発する、痛みを伴う硬結を乳房に生じる状態”を意味しており、女性ホルモンの不均衡(エストロゲンのプロゲステロンに対する相対的過剰状態)により発症すると言われています。ですから、しばしば月経前に悪化し、月経後に軽快することが多いのです。
エコー検査では、ヒョウの柄のような乳腺のムラが強くあらわれたり、嚢胞という拡張した乳管の中に液体がたまった袋ができたりといった所見が見られます。また、マンモグラフィでは、全体に乳腺が濃く写ることが多く、細かい石灰化が広い範囲に見られることがありますが、乳腺症に特徴的な所見というのはありません。
病理学的には、乳腺組織(乳管上皮細胞)の増殖、仮性、嚢胞化、線維化など、様々な変化をきたしています。その中でも、異型を伴った乳管上皮の過形成などは、乳癌の発生リスクを高めると言われています。しかし、これらの変化がどの程度起きているかは病理学的検査以外ではわかりません。
以上のような特徴はありますが、例えばすごく痛みが強くてごつごつ触れても、エコー上はあまり所見がなかったり、逆に典型的なヒョウ柄模様の乳腺でも触診上は異常なくて痛みもないということもあります。また、未出産の若年女性では、月経前は乳腺は硬く、ごつごつして痛みや張りがあるのはめずらしくありませんし、エコーをしたらヒョウ柄の方が多いです。さらに言えば、触診上も既往上も乳腺症ではないと思われる女性の剖検による病理検査では、結構な割合で病理学的な乳腺症の所見があったという報告もあります。
こういった事実を考えると、いったい何をもって乳腺症とすべきなのか?、乳腺症と正常の境界線はどこにあるのか? ということがまったくわからなくなってしまいます。
だから乳腺症かどうか?はあまり重要ではないのです。
マンモグラフィだけで乳癌の存在がわかりやすい乳腺なのか、エコーを併用すべきなのか、という判断をしたり、定期的に検査を受けてもらう啓蒙目的に使用している言葉という意味合いが強いのです。また、エコー検査を保険適応で行なうために便宜上、必要であるということも言えます。
2 件のコメント:
「乳腺症」って?
お陰様で、少々理解は深まりました。
病態としての乳腺症と、臨床の場面での乳腺症。とらえ方は、色々なのですね。
でも、画像検査では「乳腺症」はとても手強いですよね。
匿名さんは検査技師さんなんですね?
確かに乳腺症をエコーで診断するのはある意味難しいと思いますし、乳腺症の変化が強ければ早期の癌を見落としやすいという心配はありますよね。
ただ、乳腺症は画像検査でどうしても診断しなければならない”病気”ではありませんので、検査をする上では、乳腺症かどうかより、早期の癌が紛れ込んでいないかどうかだけに集中するほうが良いと思います。
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