2009年3月7日土曜日

諦めなかったから起きた、乳癌再発治療の奇跡

”トリプル・ネガティブ(TN)乳癌”というタイプの乳癌が最近注目されています。

これは、ホルモン受容体(ERとPgR)もHER2受容体も陰性の乳癌です。そのため、ホルモン療法もトラスツヅマブ(ハーセプチン)も効果がありません。他のタイプに比べると再発しやすく、治療に抵抗性で難渋することが多いのです。
一般的な抗癌剤もあまり有効でないことが多く、TN乳癌に対しての標準的な化学療法のプロトコール(治療スケジュール)がまだ決まっていません。

ですから、再発患者さんが、TNだった場合は、特別な方法が決まっていないので、一般の乳癌再発治療に標準的と言われている治療法から順番に試すことになります。例えば、FEC療法、タキサン系(パクリタキセル、ドセタキセル)、ナベルビン、5FU系の経口抗癌剤などです。

それでも、すべて効かなかったら…、けっこうこれは厳しいです。

でもあきらめないで治療すれば、時に奇跡も起きるのです。

今回はそんな患者さんに、MM療法という治療を行ないました。
有効性が10-20%と報告されていれば、奇跡ではないと思うかもしれませんが、他のすべての抗癌剤が効かない中での出来事ですから、患者さんはもちろん、治療者側の私たちも大喜びでした。

治療を変えるたびに、期待しては裏切られ…、また期待しては副作用だけ…。いつも頑張っている患者さんに申し訳ないと思いながら、なんとか次こそは効いて欲しいと願った結果、初めて著明な効果が見られました。できるだけ長く効果が持続することを祈りながら、いまも治療をしています。

なかなか良い治療がなくても、ねばって、ねばっているうちに、新しい治療法ができるかもしれない…、そんな期待を持ちながら、あきらめずに治療するのが私の基本方針です。もちろん、患者さんの考え方、生き方が最優先なのは言うまでもありません。

乳癌治療の進歩は速いです。これからも治療はドラマチックに変わっていきそうな予感がします。TN乳癌も近いうちに怖いタイプではなくなるのかもしれませんね。

4 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

TN乳癌はどのようにして見つかるものなのでしょうか。もし、画像的所見で特徴がありましたら、教えて頂きたいです。また、ホルモン受容体やHER2受容体が陰性とありましたが、どのように調べていくのかも興味があります。
私は放射線技師ですが、この前患者様に「マンモグラフィが一番有効な検査なんでしょう?」と言われました。やはり、色々な報道のせいなのか・・・誤解をまねいてるのかな・・・と実感しました。

hidechin さんのコメント...

TN乳癌に特徴的な画像所見というのは特にありません。ですから、TNであるかの診断は、病理組織学的検査によって行ないます。
通常は、手術で切除した組織を、免疫組織学的な染色を行なって癌細胞が染まるかどうかを見て判断します。ER、PgR、HER2、いずれも染まらない癌がTNということです。
最近では、術前化学療法のために、針生検という方法で組織をあらかじめ採取して手術前に診断することもあります。
マンモグラフィの神話については、かなり浸透しているようです。すべて間違っているわけではありませんが、どんな検査にも限界があることをご説明し、それぞれの患者さんに適した、より精度の高い検査を必要に応じてお勧めしていくのが私たちの責務だと思っています。

ひろこ さんのコメント...

先生の初回のブログにコメントしたひろこです。返信コメントありがとうございました。
ラストケモから1年、ハーセプチン終了から2ヶ月半経ち、今はホルモン療法をしています。今は抗がん剤の副作用症状がほぼ消えて、お陰さまですっかり元気です。
実は昨年ハーセプチンのことを検索している時に先生のブログは知っておりましたが、最近になって初めから読もうと思った次第です。腫瘍内科医のブログも読みますが、やはり乳腺外科の領域を知るならこちらがいいと思っております。
質問があります。
文中に出てきた「MM療法」について教えてください。(ググってもわかりませんでした。)
MMってマイトマイシンのことですか?
(お忙しいことと思いますのでお返事は気長に待ちます^^ )

hidechin さんのコメント...

>ひろこさん
MM療法はメソトレキセートとマイトマイシンを組み合わせた化学療法です。ただあまり一般的ではないと思います。私が以前研修していたG病院で再発治療のかなり後の方で使用していたレジメンです。でも最近でも私はトリプルネガティブに使用することがあります。
以上です。