2009年5月20日水曜日

術式の選択〜センチネルリンパ節生検について

つい数年前までは、乳癌の標準術式では腋窩リンパ節郭清が必須でした。理由は、切除して調べなければ微小な転移があるかどうかわからなかったからです。その結果、リンパ節転移が結果的にはなかったのに、後遺症のリンパ浮腫に悩まされる患者さんが多く発生していたのです。

そこで、最初に転移するリンパ節(見張りリンパ節=センチネルリンパ節)を手術中に調べて、転移がなければそれより先のリンパ節に転移はないだろうから腋窩郭清を省略しても良いのではないか、との仮説のもとで始められたのが、センチネルリンパ節生検です。後でも述べますが、色素や核種(放射性物質)を腫瘍周囲に注射して、最初にそれらが流れ着くリンパ節をセンチネルリンパ節として同定しました。この方法を多数の患者さんで検証した結果、良好な成績が得られたため、現在では標準的な手技として世界中で行なわれるようになったのです。

1.センチネルリンパ節生検の適応
腫瘍の大きさは施設によってまちまちですが、おおむね2-3cm以下を適応にしている病院が多いようです。
また、明らかなリンパ節転移がある場合は、適応外です。術前化学療法を行なった場合は、前回コメントの返事で書いたように、適応には注意が必要です。センチネルリンパ節に転移していた癌細胞は消えていて、他の転移リンパ節では生き残っている可能性があるからです。また、診断のために腫瘍を摘出してしまったあとにセンチネルリンパ節生検をしようとすると、傷によってリンパ液の流れが変わってしまっていて、別のリンパ節をセンチネルと誤認してしまう可能性があるため、原則的には適応外になってしまいます。

2.センチネルリンパ節の同定方法
①色素法…インジコカルミンなどの色素を腫瘍直上の皮膚や腫瘍の周囲、乳輪部に注入→腋窩を切開し、染まったリンパ管を探して、一番乳腺に近いリンパ節を同定する。利点は安価で簡便なこと、欠点は、リンパ管の同定が難しい場合があることや、センチネルリンパ節が2個あったり、腋窩以外にある場合に対応できないこと。
②RI法…核種(放射性物質)を色素法と同様に注入。ガンマプローブという放射線探知機で核種が集まったセンチネルリンパ節を同定する。利点はセンチネルリンパ節を見つけやすいため小さな傷ですむこと、センチネルリンパ節が複数あったり、腋窩以外でも同定できること、欠点は放射性物質のため、取り扱いが煩雑なことと高価なこと。

*私のところでは、色素法を行なっていますが、上記の欠点を補うために、術前日にCTリンフォグラフィという方法を併用しています。これは造影剤を少量、色素法と同様に注入してからCTを撮影する検査です。リンパ管やセンチネルリンパ節が明瞭に描出され、立体的な位置関係がわかります。センチネルリンパ節がどこにあっても複数あってもわかりますし、リンパ節の部位をCTを見ながらマークしておけば、翌日の色素注入時には簡単に見つけることが可能です。同定率はいまのところ100%です。

3.センチネルリンパ節生検の問題点
①もし転移があって、リンパ管を閉塞させていた場合には、流れが変わって別のリンパ節が染まってしまい、誤った判断をしてしまうことがある。
②色素法単独では、腋窩外(胸骨傍や鎖骨下)にある場合や複数ある場合にすべてを摘出できない場合がある。
③術中の病理検査の限界(微小な転移は少ない切片では診断できない場合がある)。

以上のような課題はありますが、現在までの報告では、臨床適応はほぼ問題ないと考えられています。この手技の確立により、多くの患者さんがリンパ浮腫の不安から解放されました。ただ、温存手術と同様に適応を拡大しすぎると、せっかくの素晴らしい手技に疑念を与える結果になりますので、慎重に考えていくべきだと思っています。

4 件のコメント:

kimity0115 さんのコメント...

センチネルリンパ節生検は本当に、乳がん患者にとって、術後の身体的にも精神的にも負担を少なくする画期的な検査だと改めて感じています。

結果的には転移していないのに、リンパ節郭清をしなければならない・・郭清することによって術後のリンパ浮腫の不安をずっと背負って生きていかなければならない・・

乳がん患者にとって計り知れない負担です。

まだまだ、先生がおっしゃるように、課題もあるようですが・・でも、患者さんによっていろんな症状があり、診断も違うし、治療方針も違ってきますが、今後、一人でも多くの患者さんがセンチネルリンパ節生検の恩をうけることできるといいなぁと期待します。

hidechin さんのコメント...

kimity0115さんへ
そうですね。そのためにはやはり早期発見、早期治療が重要です。医療従事者と経験者である患者さんたちが協力して啓蒙活動をさらに勧めていかなければなりませんね!

Unknown さんのコメント...

センチネルリンパ節生検について、とても噛み砕いて説明されていて、読者がよく理解できたと思います。やはり、早期発見ですよね。kimikomew

hidechin さんのコメント...

kimikomew3824さんへ
そうですよね。早期発見できれば、乳房温存のチャンスも腋窩を温存できる可能性も高くなりますからね。