2009年9月13日日曜日

外来担当医とネクタイ

私は普段病院では下は白衣のスラックス、上は検査着とブレザータイプの白衣を着ています。学会に出発する日など、特別なとき以外はネクタイとワイシャツは着ません。どうもネクタイは首が苦しくて苦手なんです。それに、処置をする際にネクタイがぶら〜っと垂れ下がると邪魔だし、傷に触れると不潔です。ですから今はそんな格好をしています。もっと若いころはケーシータイプ(半袖で首のところまでボタンのついているタイプ)の白衣を着ていました。

そんなネクタイ嫌いの私ですが、一時期だけ外来の時だけはネクタイを着用していたことがあります。それにはあるきっかけがありました。

それは乳腺外科の専門研修のために、東京に行っていたころのある日のことです。

仕事が終わったあと、私たち研修医と指導医数人でいつも行く、近くの居酒屋で飲んでいたのですが、そのうちの一人が、
”K先生(その病院の乳腺外科のトップの先生)が○○新報に、外来医はネクタイを着用すべきだって書いていたよ。”
と言いだしたのです。そこで、ネクタイ問題について大議論になりました。
私は、
”ネクタイは医療行為には邪魔なだけだし、普通の接客業とは違うので必ず着用しなければならないものではない!”
という反対派でした。
賛成派は、
”ネクタイをするほうが、患者さんに信頼されるし、社会人の身だしなみなんだから着用すべきだ!”
と主張していました。
”ネクタイ着用と医師の信頼性は別だよ!”
というこちら側の反論が出たので、結局その居酒屋のおばさん2人に、患者としてどう思うかを聞いて決めることにしたのです。

おばさん曰く、
”私はネクタイをした医師のほうがきちんと診てくれるような気がするね。だって初対面じゃその医者がどんな人かわからないでしょう?ネクタイをしていないとだらしないんじゃないかと思っちゃうよ。”
とのこと。

結局、おばさんの意見を尊重し、それ以降はネクタイを着用することにしました。
K先生は私の恩師でもあり、一番尊敬している方ですから、やはりおっしゃるとおりにすべきでした。

その後地元に戻ってからもしばらくはネクタイをしていましたが、途中からは今の服装に変えました。理由は、院内感染の問題が出てきたからです。私たち医療従事者は、腕時計をするのも感染対策上望ましくないと言われています。もちろん私もしていません。ましてやネクタイをぶらぶらさせるのは危険です。長白衣の前のボタンを全部留めればぶらぶらはしませんが、それでなくてもネクタイで苦しいのにそんな格好をするのは私には耐えられませんでした。

結局、恩師の教えを守れなかった私ですが、幸い田舎の病院なのでそのことをうるさく言われることもなく仕事ができています。
逆にたまにネクタイをしていくと患者さんにびっくりされるくらいですので、当面はこのスタイルでいこうと思っています。

でも中には不快に思ったり、信頼できないと思ったりする患者さんもいるのかなあ…。ときどきあの居酒屋での議論を思い出して自問自答しています。

10 件のコメント:

genkoba さんのコメント...

ネクタイの話。私もよくわかります。

個人的には、学生時代から、初対面の患者さんへの礼儀、尊敬、尊重気持ちから、Yシャツにネクタイ、その上に白衣(身軽にしたいためにブレザー型が多かった)で仕事をしていました。

臨床やってた頃は、産婦人科医だったために、一層そういう気持ちが強かったんですが、皮肉なことに、産婦人科医なればこそ、血液が飛び散る場面が一日に何度もありました。

たとえば、急に「お産になりま~す」という連絡を受けて、外来から分娩室へすっ飛んで行きます。胎児の心音が下がってて(赤ちゃんがピンチってこと)、急いで吸引などして何とか頑張って無事に赤ちゃんを娩出できた途端に、子宮の収縮が悪くて出血が止まらなかったりします。

こういう場合、白衣をかなぐり捨てて、Yシャツの袖をまくりあげるのが精いっぱい。よくてビニールの前掛けをつけるってくらいです。

医者になって2年目、3年目のときは、こういう状況が一日一回は必ずあったので、Yシャツのクリーニング代がバカにならず(…というよりも一日にYシャツを何度も換えるのでYシャツ自体のローテーションがもたず)、仕方なくケーシーも併用するようになりました。

最近は、クールビズという流れもありますので、必ずしもネクタイ着用じゃなくてもいいのかもしれませんね。
それでも私は、患者さんへの礼儀、尊敬、尊重する気持ちは、何かしらあってしかるべきだと思います。それは必ずしも形式じゃなくて、清潔な身だしなみや、患者さんへの表情や言葉でもいいと思います。

ちなみに、私は昔、大学時代に、某大学病院(我々の母校じゃなくて)の外科の先生が、手術室できるシャツ姿で堂々と外来を歩いているのを見ました。何か急ぎの時事情があったんでしょう。しかし、その後ろにそれを真似して同じ服装で歩いている実習中の医学生の集団。念のために病棟を見てみると他の科にもそんな恰好をした学生が。

今は、あれから20年以上経つので、医者の事情もきちんと説明されると思うし、もうそんな学生もいないことでしょうね。

hidechin さんのコメント...

gennkobaさんへ

外科医は手術中に外来に呼ばれて対応することもありますから、術衣の上下で外来をうろうろする医師もいないわけではありませんね。

うちの病院では、当直医は寝ていてもすぐ対応できるように術衣を着ているのことが多いです。ただ、以前、他のDrが当直のときに術衣を着ていたら、後日投書で”当直医がパジャマのまま診察に来た!”と苦情が入ったことがあります(泣)。当直中は許して欲しいと思いますけどね。

genkoba さんのコメント...

うんうん。

僕も外科系の医者のはしくれだったから、よくわかるよ。術衣の上に白衣を羽織っただけで走り回らなきゃならない事情はね。

でもがっかりしたのは、その後ろに付いている学生。ただその真似をしてるだけっぽく見えたのでね。その恰好のまま休憩とったり売店のあたりをうろうろしたり。当時、同じ医学生として、見ていて気持ちよくなかったんだね。

そういえば、当直といえば、5年目の冬休みに菊水で一緒に病院実習に行ったことを思い出したよ。夜中に運ばれてきた尿管結石の患者さん、典型的な症状だったのに、僕は全然わからなくてショックだった。あの晩、寝ないでその教科書の部分を読みまくったなあ。今では懐かしい思い出。

mafu さんのコメント...

私の担当医は病院の乳腺外科の一番「長」の先生なのですが、一度もその先生がどんなネクタイをしていたか記憶にありません。

その先生の前だと、そんな余裕もなくなります。そのような緊張感を受けてしまうからです。

乳がんのような長いおつきあいになる担当医とは、ネクタイとかの問題ではなく、本当にその先生の人柄が大事だと思います。

このようなブログをやってくださっている先生が担当医の患者さんがうらやましいです。
私は先生のスタイルが好きです。

ネクタイをしていても・・・必要最低限の結果を言うと、「パタッ」とカルテをすぐ閉じて、質問もできない雰囲気の先生もいるのですよ・・・残念ながら。

いろいろな患者さんがいるので、先生方も大変だと思います。
ストレスにならないよう、先生のスタイルで・・・
このブログを参考に楽しみにしています。

hidechin さんのコメント...

genkobaさんへ

よく覚えてますね〜。もちろん当直の実習のことは覚えているけど尿管結石のことはまったく記憶にありません…。ただ、若手の当直医がてきぱきと診療をしていたのだけ覚えています。
ちなみにこのときも出産は見れなかったんですよね。私は医学生時代も医師になってからも、一度も自然分娩を見ていない珍しい医者です(笑)。

hidechin さんのコメント...

mafuさんへ

このようなとりとめもない話ばかりのブログを読んでいただき、ありがとうございます。
mafuさんの担当の先生もノーネクタイなんですね。なんだかうれしいです!

患者さんにはいろいろな方がいらっしゃいますから、失礼にならないように気をつけているつもりなんですが、なかなか難しい場合もあります。患者さんと向き合ったこの20年でずいぶん勉強になりました。
これからも、医師が向き合うのは、病気ではなく、病気になってしまった患者さんなんだということを常に心がけて診療していくつもりです。

リンダ さんのコメント...

私の主治医もネクタイ姿みたことありませんね・・。
きっとその居酒屋のおばさんは、ぱっと見た印象を言われたのでしょうが、医者という職業は、セールスマンじゃないんだから外見じゃなく、やはりハートでしょう。

ちゃんと、患者の話を聞いてくれて目を見て話をしてくれる医者が一番です。

そういや、テレビの白い巨頭の財前五郎は、毎回ちゃんとネクタイしていましたよね・・でも最悪な医師だったですよね。

hidechin さんのコメント...

リンダさんへ

財前先生〜懐かしいですね。”白い巨塔”は小説も持ってますよ。本当はかわいそうな人なんですけどね…。

たしかに一番大切なのはハートだと思います。その上でネクタイをしていたほうがいいと言われたならまた考えます。今の職場にいるかぎりはたぶん変わらないと思いますけどね!

kimity0115 さんのコメント...

私も”今”の主治医は1年たってるのに,
ネクタイ??う~ん、どんな服装すら覚えてないですね
なんか白っぽい服は着てたような気がする・・・
でも私”前”の主治医はしっかり覚えてるんですよねぇ!!
ケーシータイプでした
(ということは今の主治医もそうかなぁ)
そして一番印象的に記憶に残ってるのが、左手薬指に光るシルバーの結婚指輪!!
いつも主治医の左側に座るのでカルテを書いている手元に自然と目がいくんですよね
ごく普通のリングだったけど、まだ新婚さんなで真新しいのかとってもピカピカ光ってたんですよ
初診の時から目にとまってました
2回しか私の診察に立ち会ってない母も、指輪には目がいってたと言ってたくらいで・・

私の通院している乳腺科は本当に大勢の患者さんがいらしゃって、他の科が診察終わっても、いつも乳腺科だけは一番最後まで明かりがともってます。主治医も毎日毎日遅くまでこんな残業で大変だなって思ってました。もちろん医師として志が高いからこそ患者さんの為にハード勤務をこなしていらっしゃるとは思いますが、その前にご家族の為にも一生懸命働ける環境をご家庭でしっかり築きあげてるこそなんだろうなって思いました。

妻帯者ならリングして当然かもしれないけど、それでで奥さんを思う主治医の暖かいものも感じたり・・
こういう事から、私は患者として主治医の人間性も垣間見て信頼をおいていたのもありましたねぇ。

今の主治医にはここまでまだ慕う気持になれてないのはちょっと残念なんですが・・

医師の何を見てどう受け止めるかは人それぞれですしね
ネクタイで判断される患者さんもいらっしゃるでしょう
いろんな主観をもった患者さんがいらっしゃるから、なかなか医師目線ならではの苦悩で大変ですね

でも私もこのhidechin先生の考え方に賛成ですよ~(^-^)/
実用的な服装でストレスなく診察して頂きたいと思います!
患者が医師に一番求めてるのは、しっかり間違いない適格な診察をして頂き、そして信頼関係の間柄だと思いますよ~

hidechin さんのコメント...

kimity0115さんへ

もちろん、それが一番大切ですよね。あとは、不快感を与えないような身だしなみとか…。でも患者さんによって捉え方は違いますから難しいですね。
それにしても指輪ですか?やっぱり女性はよく観察していますね。ちなみに僕は、感染対策上、指輪は望ましくないと言われているのと、以前指輪を手術のたびにつけはずしを繰り返していたせいか、ガングリオンができてしまったためにもう長いことつけていません。