2009年9月16日水曜日

乳癌術後の後遺症 リンパ浮腫①〜リンパ浮腫とは?

乳癌の術後に起きる後遺症でもっともやっかいで、一生気をつけなければならないのがリンパ浮腫です。

リンパ浮腫の一番の原因は、腋窩のリンパ節を郭清することによって、リンパ液の流出ルートが切断されてしまうことです。
例えるならば、高速道路が通行止めになったようなものです。交通量が同じなのに、流れの良いメインルートが遮断されてしまうと一般道で混雑が起きます。これがリンパ節郭清をした状態(浮腫の準備状態)だと考えてください。それでもまだこの状態であれば、時間はかかるけどなんとか目的地に着けるかもしれません。

では、この状態で一般道で事故が起きたらどうなるでしょう?
そう、大変な大渋滞になってしまいます。乳癌術後の患者さんで言えば、この”事故”は、手の怪我(化膿、骨折など)や皮膚炎、日焼け、不適切な医療行為(患肢での点滴や採血、頻回の血圧測定など)なのです。

もちろん、腋窩郭清をした患者さんすべてがリンパ浮腫になるわけではありません。リンパ浮腫になりやすい危険因子は、広範囲のリンパ節郭清(鎖骨下や鎖骨上までなど)、術後の腋窩-鎖骨上下領域への放射線照射、肥満、感染しやすいような皮膚病などです。これらに該当しなくても、ちょっとしたきっかけでリンパ浮腫になってしまうことがあります。

予防のために自分でできることは、手の怪我や日焼けの予防(畑仕事は長袖にゴム手袋着用など)、手術した病院以外で治療を受けるときには、腋窩リンパ節郭清をしていることを告げること(患肢への医療行為の予防)、体重を増やさない(肥満の場合は減量)ことなどです。

それでもリンパ浮腫になってしまうこともあります。その場合にどうしたら良いかは次回に書きます。
なお、センチネルリンパ節生検は、リンパ浮腫の発生を防ぐために考えられた手法ですが、この手技で終わってもリンパ浮腫の可能性はわずかながらあり得ると言われています。

7 件のコメント:

genkoba さんのコメント...

先日来、hidechin先生も言っていますが、術後の長い人生を考えたときに、少しでも病気になりづらい生活習慣で気をつけていくこと、反対側や他の部分の検診もきちんと受けていくことは大事ですね。

そして、そういうことを800人以上の患者さんのことを調べて導き出すhidechin先生の姿勢に敬服します。でも患者さんのためとはいえ、あんまりご自身の眼を酷使しないようにね(笑)。

そして、さらに患者さんにとっては、病気そのもの発症もさることながら、手術後のQOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質のこと)が重要ですよね。リンパ浮腫は昔私が婦人科で子宮がん患者さんの手術後にも、下半身ですが、ずいぶん悩まされた症状の一つです。あれから、もう15年以上経ちますから少しずつ改善法が出てきているのかな?と少し期待しながら、明日以降の記事を楽しみに待ちたいと思います。

hidechin さんのコメント...

genkobaさんへ

公衆衛生の専門家で、統計のプロであるgenkobaさんからみれば、私の仕事はお遊びみたいなものですよ。800人のデータ管理ももっと手際よくできるのかもしれませんが、カルテを読みながらその患者さんの背景をじっくり知るということは、脇道にそれてはいるんですが、とても勉強になるんです。非効率的な手法でもアナログ思考の私には合っているみたいです。

フェルディ式は婦人科癌の術後の患者さんにもよく行なわれている理学療法です。札幌ではリズミック婦人科で診ていただけるので、私もお世話になっています。

匿名 さんのコメント...

教えてください。

センチネルリンパ節生検で1個とった場合、浮腫の可能性は一般的にどれくらいありますか?

怪我とかがいけないと聞きますが、切り傷、擦り傷とかもダメなのでしょうか?
一生けがをしないというのは ちょっと難しいので、もしけがをしたら、まずはどうしたら、一番いいのでしょうか?

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
はじめまして。
センチネルリンパ節の摘出個数別のリンパ浮腫発生率の大規模な解析データはわかりませんが、ACOSOG Z0010という臨床試験におけるセンチネルリンパ節生検を行なった患者さん(腋窩リンパ節を郭清しなかった群)のリンパ浮腫発生率は、術後6ヶ月で6.9%と報告されています。私の印象としては発生率が高すぎるような気がするのですが、これはセンチネルリンパ節生検の手技や摘出個数などによる違いなのかもしれません。
リンパ節郭清をした場合は、手術側の腕の点滴、採血、頻回の血圧測定、怪我(切り傷、擦り傷、日焼け、虫さされも含む)、圧迫(リュックサックなど)などを避けるように指導しています。
センチネルリンパ節生検の患者さんは郭清した患者さんよりリンパ浮腫の発生率は低いですが0%ではありませんのでできるだけ気をつけるようにご説明はしています。採血や点滴に関してはどうしても対側のルートが取れない場合は、患者さんの同意が得られたら注意しながら手術側で行なう場合もあります。
もし怪我をしてしまった場合は、すぐに流水で十分に洗うことがまず大切です。その上でできるだけ早めに主治医に見てもらうことをお勧めします。以上です。

匿名 さんのコメント...

ありがとうございます。

生検でも、気をつけないといけないのですね。
手技っていうのは判断しずらいので、とりあえず半年は特に気をつけた方がいいのですね。

早めの主治医に見せる場合の早めっていうのは、仕事中だと仕事が終わってからでも大丈夫なくらいでしょうか? 翌日でも大丈夫なくらいでしょうか? 

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
そのご質問に対する正確な答えはありません。できるだけ早めにとしか言いようがないです(そのような臨床試験のデータはありませんので)。

匿名 さんのコメント...

ありがとうございました。

わかりやすい回答、感謝いたします。