2009年11月7日土曜日

検診受診率の話のつづき

昨日の公開シンポジウムの続きです。

乳がん検診を受けなきゃ、と思いながらなかなかきっかけがなくて受けない人が多いことが問題で、いかにこういう人たちの背中を押してあげるかが課題だと言うお話でした。

一方で、ネットを見ていると、いまだに”乳がん検診は無意味だ”という人たちが存在します。個人攻撃はしたくないので、こういう論調を広めようとしている人物のことには触れたくありませんが、受診が遅れて、悲しい結果になった患者さんたちをたくさん見ている私たちから見れば、早期発見が無意味だという考え方は容認できません。乳がん検診受診率が75%を超える欧米諸国で、乳癌死亡率が低下しているのはまぎれもない事実です。乳がん死亡率が減少しても全死亡率は変わらない、ということをその理論の根拠にしていますが、これは最終的な結論は出ていないはずです。また、1−2年に1度のマンモグラフィが生体に及ぼす影響も問題ないとされています。

とにかく、こういう説をまともに信じてしまっている人たちがけっこう存在していることに驚きます。いったん信じ込んでしまえば、私たちがいくら乳がん検診の効果を説いても考えを覆すのはかなり困難です。前にも書きましたが、一部マスコミ主導の乳がん検診キャンペーンが効果が証明されていない若年者にマンモグラフィを勧めるという誤った認識のもとで行なわれていることが、こういう乳がん検診罪悪論者の主張を助長させてしまうのではないかと危惧しています。

乳がん検診を受けるつもりがある人に対するアプローチだけではなく、このようなネットやマスコミの情報で乳がん検診に対する疑念を持っているために検診を受けたくないと思っている人たちに対する対策も必要だと思います。乳がん検診について正しい認識を広めること、このような誤った情報を垂れ流しにすることに対して、乳癌検診学会がきちんとデータを示して論破することが必要だと思います。

(なお、乳がん検診が不必要だと考えていて私のこのブログの内容に反論したい方は、ここではなく、診療ガイドラインを作成している日本乳癌学会、または乳癌検診学会にお問い合わせください。)

9 件のコメント:

may さんのコメント...

早期発見は無意味だとか三大治療では癌は治らないだとか、奇抜な説を信じ込んでいて人にも押し付ける方っていますよね(^^;
早期発見云々はまだ健康な状態で聞くなら冷静な判断もできるでしょうが、三大治療は無意味説は、藁にも縋りたいような正確な判断力を失っている状態の人に付け込むのでタチが悪いと思います。
うちのお隣さんは、手術も抗がん剤もやめてアロエジュースを飲めと言って来ました(^o^;
アロエジュース飲んでいたら癌にはならないから検診も行かないそうです…
丁重にお断りしたらその後絶縁状態になりました。

とはいえ、身内に乳がん患者がいるので乳がん検診は年に1度きちんと通って友人達に布教活動までしてますが、私も子宮がん検診は抵抗があって行ってないです。
きっかけがない限り乳がん検診も同じような「なんとなく嫌」なものなんでしょうね。

hidechin さんのコメント...

>mayさん
女性にとってはやはり女医さんがかかりやすいのでしょうね。うちの病院でも乳腺外科に女医さんをと思って誘っているのですがなかなかうまくいきませんでした。ようやく数年後には一般外科の研修を終えて仲間になってくれそうです。
民間療法はすべて悪いと言っているわけではないのですが、民間療法信奉者にとってはそれらの代替医療以外の標準的な医療を敵視する傾向がありますよね。うまくお互いの良いところを科学的分析のもとで組み合わせていくことが一番良いと思うのですがなかなかうまくいきません…。

きみちゃん さんのコメント...

検診や、標準治療は必要ないんだ!と信じて疑わないその気持ちを動かすのは容易ではないですよね。

また、あえて標準治療を拒み、代替療法を選択して治癒に望みをかけていらっしゃる方なりの信念、価値観、考え方も人それぞれですしね。。

でも、その信念や執着心を少しでも今の現代医療に目をむけてもらって、標準治療を受けながら平行して、いろんな代替療法をしていくという選択方法もありかと思いますが。。
現代医学は日進月歩なのですから、検診や標準治療を受けないというのももったいない話しかなと思ったりもします。


本人の意思を尊重するという事から、それでも言葉を選びながら、親切心から、いろいろなアドバイスをしても、やはり結局は、治療の選択は本人にありますものね。

その周りからのアドバイスを、「余計なお節介」と取られたらそれまでですよね。


そのような方はどういう事を思い信じて、標準治療を拒否しているんだろう、一体何を信じて代替療法を選択していらっしゃるんだろう・・と、関心があり、最近、代替治療を選択されている方のブログ日記をずっと拝見しておりました。

その方の考え方の根底にあるのはー

自分が、がんになってしまったことに対して、食生活の偏りや、ストレスをためこみやすい性格や自分の身体への労わりがなかったそういった悪い生活環境、今まで生きてきた自信の「不摂生」が原因で、自分のせいで「がんをつくってしまった」と結論づけていらっしゃいました。
なので、原因は自分が作ってしまったがんなのだから、そのがんを作ってしまった悪い生活習慣を改めて、身体に良い代替治療をうけながら、規則正しい生活習慣をしていけば、自分の力だけで、がんは治せるんだという信念のもとに標準治療を拒否していらっしゃるようです。

がんに「なってしまった」ではなく、がんを「つくってしまった」とういう、すべて自信が悪い、自身を責めるかのような考え方のようですが、裏をかえせば、始めから、ストレスためずに不摂生もせずに、生きてきた人は絶対がんにならないのか?と思います。

がんになる要因はいろいろかさなってありますよね・・
もちろん偏った生活をしていれば、がんになってしまうリスクもあがるかもしれませんが。。それだけでがんになるものでしょうか。

私は、その方のがんに「なる」でなく「つくってしまった」と、自分自信が悪いと追い込んで、因果関係を持っていく考え方は、誰のせいにでもするわけでないので、ある意味潔いなとも思ったりしましたが。

でもやっぱり、がんってなるべくしてなったもので、「作る」ものでは無いとも思いますしね・・

誰しもがんなんて、なりたくないに決まっている、がんを作ってしまった原因をすべて自分にあるんだと、結論づけるのもなぁ・・と、無理があるような気がしてなりませんでした。

人の解釈の仕方って百人いたら百人違うだろうけど、難しいものですね。。

hidechin さんのコメント...

>きみちゃんさん
たしかに乳癌と告知したときに、”どうして乳癌になったんですか?”とよく聞かれます。医学的には様々な原因があることが推測されていて、その患者さん個々の原因を追及するのは困難ですので、実際は簡単に”わからない”としか言わないことがあるかもしれません。その患者さんにとっては、我々が考える以上に、その”原因”が重要なのかもしれませんが気づけていなかったときに、標準医療に対する不安を抱き、自分なりの原因を求めて民間医療に頼っていくのかもしれませんね。

患者さんはそれぞれ生育歴も生活環境も違いますから、当然こう考えてくれるだろうということが私たちの思い通りに通じていないことがあります。そこに気づかずに一方的にこちらの考え方を押し付けることが様々な誤解を生むのかもしれません。患者さんの心の奥底にある不安や不信感、疑問に気づいてあげるように私たちももっと気配りが必要だとつくづく感じます。

火田 さんのコメント...

私も、一切の標準治療を拒否し代替医療に走りたがっていた妻を、必死に押しとどめた経験があります。
それはもう、相当に苦労した記憶があります。

人は他人の見つけた情報より自分の見つけた情報を信じやすく、楽して見つけた情報より苦労して見つけた情報を信じやすく、周知の情報より秘匿された情報を信じやすく、また希望に添わない情報より希望に添う情報を信じやすい。

代替療法や民間療法のみに走ってしまった方は、このような人の性に流されてしまった結果なのでしょうね。

どんな病気でもそうですが、実際に自分もしくは身近な人間が罹らない限り、その病気に対して正しく理解しようとすることはまずありません。

いざ勉強しようと思っても、納得いくまで理解するには相当の勉強が必要でしょうし、途中で放棄したり、あるいは最初から正しい知識を勉強する気すら起きない方も大勢いることでしょう。

その結果、単なるイメージだけで治療を決定してしまうのかもしれません。あるいは、どこかでちらっと見聞きした週刊誌レベルの情報を、真実だという前提で錯覚した所からスタートしてしまった結果かもしれません。

外科手術はともかく、特に化学療法に対して、間違ったイメージや情報を持っている方が多い感があります。そして、そこにつけ込んでくる(詐欺的な)輩も非常に多い(多かった)です。

患者やその家族に必要なものは、ただしい知識をわかりやすく啓蒙するだけでなく、そのような輩を追い払うガイドラインも必要なんじゃないかと痛感しました。

匿名 さんのコメント...

先日、シドニーへ行ったときに、嬉しい風景を目にしました。ピンクリボンです。
有名なオペラハウスがあって、観光客を含め、とてもたくさん人が集まる埠頭に面した高層ビルの壁面に、とても大きなピンクリボン!
「Proudly supporting the National BREAST CANCER FOUNDATION」
ピンクリボン運動を支援する企業の広告でした。
ほかにも、老舗のデパート、日本で言えばさしずめ、「三越」?のようなデパートでも、
ショーウィンドーの一面を使って、乳がん検診の受診勧奨の広告。
女性向け商品を扱うフロアーを中心に、全てのレジのところには、ピンクリボン運動を支援するグッズが売られていました。
数種類のピンクのリボン、筆記用具、アームバンド、ブレスレット、缶バッジなどなど。
缶バッジに書かれていた文字には、ちょっと感動。「本物の男は、ピンクを着ける」。
いいですね。
ミネラルウォーターのラベルにもピンクリボン。
物価の高いシドニーでしたが、思わず何本も買ってしまいました。
そんなミネラルウォーターのボトルを、街中でたくさん見かけたし、手に持って歩くビジネスマンたちもとても自然で頼もしかった。帰り際のシドニー空港で見かけたセキュリティー担当の20代らしき男性も、胸にはピンクリボンが着いていた。すごいなあー!
オーストラリアは、ほかの欧米諸国をさらに上回るくらい、乳がん検診の受診率が高いそうです。検診を委託されている施設にも目標設定がされているらしく、工夫をこらしながら受診勧奨を行っているとか。企業のサポート体制もあるけれど、政府としての政治的な施策もしっかりしているんだろうなと思ったりもしました。
乳がん検診受診率向上のためには、官、民、市民団体など、いろいろな迫り方で、創意ある取り組みが必要なのでしょうね。

hidechin さんのコメント...

>火田さん
奥様が乳癌になって、身近な問題を冷静な目で見れたからきっと様々な間違った情報に流されずにすんだんですね。もしかしたら、標準治療を否定して民間療法に走ってしまう患者さんにはそのような冷静な判断をしてくれる身近な人がいなかったことも一つの要因なのかもしれませんね。

”患者やその家族に必要なものは、ただしい知識をわかりやすく啓蒙するだけでなく、そのような輩を追い払うガイドラインも必要なんじゃないかと痛感しました。”

→私もこのブログやmixiの書き込みを通して、患者さんの弱みにつけこんで金儲けを企んでいる輩を駆逐する必要性を感じています。これらの情報をまとめて、乳癌学会に働きかけるのも良いかもしれないと考えています。

>匿名さん

「本物の男は、ピンクを着ける」

→ファイターズの田中賢介選手ですね。なかなかカッコいいフレーズです!

”乳がん検診受診率向上のためには、官、民、市民団体など、いろいろな迫り方で、創意ある取り組みが必要なのでしょうね。”

→企業単位ではかなりピンクリボン運動に対して理解してくれるようになったと思います。ただ、まだ企業の利益追求の手段と考えているところは多いのかもしれませんね。本来は企業の社会貢献の一つと考えてもらいたいのですが…。
国の政策もまだまだ不十分です。今回の無料クーポン券でかなり新規の受診者が増えたことからも明らかなように、欧州のように2年に1回の検診すべてを無料にするとかなり受診率は上昇すると思います。また、生命保険会社が加入者の乳がん検診の全額を無償で補助するというのも良いと思います。早期癌で発見されれば、支払額も少なくてすむわけですし、これだけ乳癌罹患率が増えたのですから企業としてのメリットもあると思います。

ちっこ さんのコメント...

先週は3日と6日のピンクリボンウイークのイベントに参加させて頂き、札幌の検診率が低い事に驚きました。
北海道の低さは、いつでも検診が受けられない地域があるからだと思っていましたから、札幌の様に、乳腺外科が多数ある所が?と意外でした。
いつでも検診を受けられる安心感が、その内にとなってしまうのでは?とおしゃっているのを聞いて、それもありか?と変な納得をしたしまいました。
小樽では乳腺外科がないので「何処に行けばいいのか分からない」との意見が多いのです。
いったい、どうすれば検診に行ってもらえるのだろう?と悩みます。

若い方のマンモでの発見率が低い事は、先日私達が主催で行った、医師のよる講演会での20代の方の乳腺の画像を見て、初めて納得しました、発達した乳腺で真っ白と言っても大袈裟でない画像でしたから。

出来る事なら私の変形した胸と傷を披露して
「こんな風になりたくなかったら検診に行って下さい」と言いたいものです。

hidechin さんのコメント...

>ちっこさん
この前のシンポジウムはなかなか良かったですよね。都市部での受診率の低さには本当に驚きです。キャリアウーマンが多いことも原因の一つかもしれません。企業が検診にもっと力をいれてくれると良いのですが…。万が一、社員が乳癌になって、しかも進行していた場合には、仕事に対する影響も大きいですからね。

これからは若年者の乳癌をどうやって早期発見するかが大きなテーマだと思います。J-STARTという超音波検診の有用性を評価する臨床試験の結果が待たれます(ただ、この臨床試験は40歳代が対象なので、それ以下に対する判断がどうなるかは不明です)。