2009年11月12日木曜日

私が尊敬する超音波技師Sさんから学んだこと

私が学会に参加する楽しみの一つは、乳腺診療に携わる恩師、仲間や先輩たちと貴重な話ができることです。その恩師の一人が、Sさんです。

Sさんは医師ではありませんが、誰もが認める超音波検査技師の第1人者です。私がG病院で研修中だったときに、外来や病棟、手術室以外で一番多く出入りしていた場所が超音波検査室でした。そこでいつもSさんの仕事ぶりを見せていただき、貴重な教えをいただきました。

”スクリーニングは何十分も時間をかけちゃだめだ。見えない人はいくら時間をかけても見えないんだよ。”
”ドップラーで良悪の診断をするのは間違っている。Bモードを読めない技師がそんなものを使っても意味がない。まずはBモードで診断する訓練を十分に受けなければだめだ。”

などなど。部下の技師さんたちにとってはとても厳しいSさんですが、私にはこのような指導者のもとで学べる技師さんたちは幸せだと思った記憶があります。Sさんのすごいところは、乳腺に関する知識が超音波の枠を超えているところです。G病院では多職種が集まって症例検討を行っています。長年そこに指導的立場で参加してきたSさんは、マンモグラフィや病理の知識も医師の私よりずっと豊富でした。そういう知識が、日常の超音波診断にも反映されています。Sさんが書くレポートには、まるで顕微鏡で見てきたんじゃないかというような、癌の伸展範囲を詳細に表したシェーマが書いてあります。後に病理結果と比較してみると、まったくその通りだったりするので、その読みのすごさにはいつも驚きでした。このような記録は、仮に結果が違った場合でも、見直して学ぶための貴重な資料になります。

以前うちの病院で働いていたY技師さんが、ご主人の転勤で関東に転居したため、いまSさんの指導を受けています。Yさんも乳腺超音波の経験はけっこうあったのですが、Sさんから見ればまだまだひよっこです。Sさんは相変わらず厳しいようですが、充実した日々を送っていると思います。Sさんは学会発表の指導もかなり厳しいので何度もダメだしされて彼女はいつもへこんでます。でもこの前の発表は終わったあとで少しほめられたので、”初めてほめられた!”と喜んでいました。

Sさんは、経験の浅い技師であっても、学会発表するからには、きちんとした内容でなければだめだという考え方です。ある意味当然なのですが、初めてなんだから低いレベルの発表でも仕方ない、と思っている人もいるのです。でも、聞いている人にとっては、その発表者が初心者かどうかはわかりませんし、関係ありません。発表するからには言いたいことが伝わらなければ何にもならないのです。また、最初のうちにこのような訓練を受けていなければ、それでいいものだと思ってしまい、成長できなくなってしまいます。

私もそういうSさんの指導を見てきたので、うちの病院でもそのような環境をつくりたいと思ってきました。私は超音波検査の技術はありませんので技術指導はあまりできませんが、G病院でSさんに学んだ乳腺疾患診断に対する考え方や他の診断法(マンモグラフィなど)に対する知識の必要性、学会発表への取り組み方などを技師さんたちに伝える努力をしてきたつもりです。きっと少しは伝わったと思うのですが…。

0 件のコメント: