抗がん剤投与後の嘔気・嘔吐には、その発症時期によって二つに分類されます。
一つ目は投与後24時間に起きる急性期のもの、そしてその後数日(120時間後まで)にわたって起きる遷延期のものです。
私が医師になったころは、化学療法後の嘔吐を抑制する良い制吐剤がなく、FECやCAF療法後にはかなりの率で嘔気や嘔吐が起きて患者さんを苦しめていました。嘔気が出現してからこれらの薬剤を投与してもあまり効果がなく、コントロールするのがやっかいでした。
しかし、グラニセトロンなどの5HT受容体拮抗剤が出現してからは、ステロイドも併用することによって化学療法当日に嘔吐する患者さんは非常に少なくなりました。ただ、遷延期の嘔気・嘔吐に対しては効果は不十分で、患者さんは辛い数日間を過ごしていました。
先日T薬品の方が新薬の紹介に訪問されました。それがパロノセトロン(商品名 アロキシ)という新しい5HT受容体拮抗剤です。この薬剤はグラニセトロンとの比較において、有意に遷延期の嘔吐完全抑制(嘔吐または空嘔吐0回)率を改善しました(全体で56.8% vs 44.5%、AC/EC投与群で61.1% vs 50.0%)。副作用も両群で大きな差は認めませんでした。
さらに、選択的ニューロキニン1(NK1)受容体拮抗薬であるアプレピタント(商品名 イメンド O薬品)とアロキシ、デキサメタゾン(ステロイド)の同時併用をおこなった臨床試験では、遷延期の嘔吐完全抑制率は92.6%という優れた結果でした。
問題は非常に高価になりそうなこと(アロキシだけで約10000円くらい、イメンドも1セット約11700円→制吐剤だけで3割で6000円以上の自己負担!)です。
初回からフルで投与しなくても良いかもしれませんが、初回に嘔吐が見られた場合には2回目以降の心強い武器になります。もう少し薬価が下がると良いのですが…。
あとは脱毛を予防できる薬剤が開発されれば、乳癌患者さんのFECに対する恐れはかなり軽減するのではないかと思います(脱毛の予防はまだまだ時間がかかりそうですが…)。
2 件のコメント:
化学療法は初回のフォローが後々まで尾を引くと思います。
投与後に使われる制吐剤は保険の都合で切られてしまうためコントロールが付かない方も多かったと思います(治療による場合は保険が使える場合もありますが)。
嘔気・嘔吐と倦怠感が治療の不安につながるので、このような薬が手に入りやすくなる事を期待します。
>itomakiさん
お金のことを考えなければ初回から3剤併用がよいのかもしれませんね。でも今の処方(グラニセトロン+ステロイド)でもある程度コントロールできるので、次の一手として残しておくのも良いのではないかと思います。
いずれにしても化学療法にかかるお金は高いですよね…。
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