2010年4月29日木曜日

抗がん剤投与のためのCVポートの利点と注意点


再発患者さんのように長期にわたって抗がん剤投与が必要な場合、腕などの血管が徐々に痛んで使用できなくなるため、CVポートという器具を挿入することがあります(写真はBARD社のX-ポートisp グローションカテーテルタイプ)。

挿入方法は、以下の通りです。
①局所麻酔下で鎖骨下静脈などの太い静脈を注射針で試験穿刺。
②専用の穿刺針で穿刺後、ガイドワイヤーを針の内部から挿入。
③ダイレーターという拡張用の器具でルートを拡張した後でガイドワイヤーを介してカテーテルを心臓近くの上大静脈まで挿入。
④前胸部を切開し、ポートを皮下に留置し、カテーテルと接続し固定。
⑤閉創

およそ30分から45分で終了です。

一度入れてしまえば、ここから採血もできるし点滴のために何度も針を差し替えられることもなくなり、患者さんにとっては非常に楽になることが多いです。また、抗がん剤が血管から漏れてしまうと重篤な組織の壊死をきたすことがありますので、ポートを入れてしまえばこういうリスクを低減できます。

一方、ポートやカテーテル関連のトラブルも時に経験します。代表的なものは以下の通りです。
①ピンチ・オフ…鎖骨下静脈と第1肋骨の間にカテーテルが挟まれた状態。体位で点滴の落ち方が変わったり、採血できなくなったりします。このまま放置するとカテーテルが離断して心臓内に落ち込んでしまことがありますので、入れ替えが必要になります。
②キンク…カテーテルが折れ曲がること。肥満体型の患者さんに起きやすい傾向があります。ポートとの接合部の近くや大胸筋の挿入部などで起きやすく、ピンチ・オフと同様にカテーテル離断の原因になります。離断したことを知らずに抗がん剤を投与すると皮下に漏出してしまうことになりますので、必ず投与前に血液の逆流を確認する必要があります。
③カテーテル感染…ポートやカテーテルのような異物には、時に細菌が住みいてしまうことがあります。他に原因がないのに高熱を繰り返す場合にはカテーテル感染を疑います。菌が血管内をまわる状態(敗血症)を引き起こすため、早く適切な対処(抗生物質の投与とカテーテルの抜去)をしなければ重篤な状態になるので注意が必要です。
④気胸、血胸…ポート挿入時の肺や動脈の誤穿刺で起きます。胸腔ドレーン(チューブ)の挿入が必要になります。

ポートの挿入によって得られるメリットは大きいですが、このような重篤な合併症も起き得ますので注意が必要です。ポート周囲の発赤や痛み、腫れ、発熱が起きたときはすぐに主治医に報告するようにしましょう。

8 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

お世話になります。初めて質問させていただきます。ポート入れておよそ10ヶ月くらいですが、ポートの盛り上がってる部分を自分から見て右の腕側に向かい4から5センチあたりのところが時々、息を吸うだけでも激痛がします。主治医に見てもらっても問題ないと判断されるし、ひどいときは整形外科へと言われました。ポートは痛みに無関係でしょうか?因みに今も昼ごろから痛いんです。教えていただけませんか。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
はじめまして。
診察していませんので何とも言えませんが、ポート挿入後から生じたのであれば創部に関連する神経痛が一番考えやすいのではないかと思います。あとは、ポートとはまったく関係ない肋間神経痛の可能性もあります。
神経痛であれば三環系抗うつ薬が有効な場合がありますが、無効であれば神経ブロックを考えます。この場合、整形外科でも良いですが、ペインクリニックの方が専門になります。
また、もし何かに夢中になっているときにはあまり痛みが気にならないようでしたら、精神的な要因(何か大きな問題が生じているのではないかという不安感など)も悪化の原因になっている可能性があります。なるべく気をそらす工夫も必要だと思います。

たまき さんのコメント...

はじめまして。お世話になります。
鎖骨下にポートを入れて5年目になります。この場合、カテーテルは寿命になるのでしょうか?
カテーテルが断裂し、心臓内、右房に沈み込んだ場合は何が原因になるいのでしょうか?
取り除くべきですか?

どうか教えて頂けますでしょうか?

hidechin さんのコメント...

>たまきさん
カテーテル断裂の原因は、皮下などでカテーテルが屈曲したり、鎖骨と第1肋骨の間に挟まっていて圧迫が繰り返されることによるものがほとんどです。いずれも通常、断裂前に血液の逆流不良や点滴の落下不良が起きますので何ごともないのであれば5年経ったからと言ってすぐに摘出する必要があるわけではありません。
ただ、何も使用していなくて今後も使用する予定がないのであれば摘出することも考慮しても良いと思います。現在使用中なのであれば、上に書いたような状況に注意しながら使用するということで良いと思いますが、そろそろ入れ替えも考えた方が良いかもしれませんね。主治医の先生とよくご相談なさって下さい。

(なお、”取り除くべきですか?”というのが、「5年経ったCVポート+カテーテル」を意味するのか、「断裂してしまったカテーテル」を意味するのか不明でした。前者だと考えてお答えしましたが、後者なら直ちに断裂したカテーテルの摘出が必要です。)

たまき さんのコメント...

本当に詳しくご説明頂き、とてもとても感謝しております。
こんなに詳しくお医者様から説明を聞いたのは初めてです。

実はポートは5年前に挿入し、8クール使用しただけです。
その2年後、1回だけ、手術の際に使用しました。
その間3か月に1回CT検査をしながら肺の転移癌の様子をみていたのですが、先月、急に主治医より「ポートのカテーテルが先端から12センチのところで断裂している。右房に沈み込んでいる。1年半前から癒着があり摘出できない」と告知を受けました。
何故今までわからなかったのか不明ですし、その病院の画像診断の読影も安心してまかせられないと思ったり・・・。とても複雑な思いです・・。癌の他にも新たに悩みが出てしまい、生きる力が失せつつあります。

では、ポートはもう使えないので抜いたほうがいいですか?
それともこのままの状態の方がいいのですか?
主治医は詳しく教えてくれませんので・・。
恐れ入りますが、教えていただけないでしょうか・・・。

hidechin さんのコメント...

>たまきさん
そういう経過だったのですね。それはご心配のことと思います。
おそらくCTには1年半前から断裂したカテーテルは写っていたんだと思います(だから1年半前から…と言われたのです)。転移の有無に注意が行っていたために気づかなかったのだと思います。本来はあってはならないことですが、自分でもそのような読影の見落としは起きうることだと思います…。
次に断裂したカテーテルが癒着していて摘出できないというのはCT検査などで完全に可動性を失っていたからなのでしょうか?これは一度他の循環器科の専門医にも画像を見てもらって意見を聞いてみた方が良いと思います。もしIVR(カテーテルを用いた血管内異物除去術)が危険と判断されたらやむを得ないと思いますが、可能であれば摘出すべきだと私は思います(あくまでも利益と不利益を秤にかけての判断になりますが)。
残されたポートについては既にカテーテルが断裂してしまっている以上、摘出してもしなくても良いです。邪魔なら摘出しても良いですし、よけいな手術が嫌ならそのままでも良いと思います。
以上が私の意見です。

匿名 さんのコメント...

すみません。教えて下さい。
CVポートを左腕、肘かんせつに埋め込んである場合そちらのうででは静脈点滴や血圧測定はしてはいけないんでしょうか?

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
はじめまして。
血圧測定は、マンシェット(圧をかけるために腕に巻き付けるもの)の圧迫が直接ポートにかからなければ破損に関しての心配はないと思いますが、女性の場合はポートを圧迫してしまうかもしれませんね。あとは逆流防止弁のついていないタイプの場合は、圧迫および圧の解除によってカテーテル内に血液を逆流させて閉塞させる可能性がないかどうかという心配はありますが、私の施設ではほとんど上腕には留置していませんので確実なことは言えません(カテーテルはそれほど柔らかくないのでおそらく大丈夫ではないかと思いますが…)。ネットでざっと調べた限りではこの件について詳細に記載してあるものはありませんでした。なお、手首で測定するタイプの血圧計であればまったく問題ありませんが、正確さは劣るようです。採血に関しては、ポートを留置した腕でも問題ないと思います。
詳細に関しては主治医にお聞きになってみて、必要に応じてメーカーに問い合わせてもらってはいかがでしょうか?