先日、高校時代の知人で、形成外科医のE先生と飲みに行った話を書きましたが、先週の土曜に2回目の同期会をしました。そしてせっかくの縁なので、乳房再建についての講演をお願いしたところ快く承諾して下さいました。今のところ11月くらいの土曜日に病院の会議室で患者さん、職員を対象にお話ししていただく予定です。
乳房再建には様々な種類があります。私も詳しくはありませんが、簡単に書くと以下のような種類があります。それぞれに利点欠点がありますので、形成外科医とよく相談した上で術式を決めるのが良いと思います。もし乳がん根治術の際に乳房再建を考えているのであれば、そのことを主治医ともあらかじめよくご相談しておくことをお勧めします。
1.人工乳房を使用する方法
①単純人工乳房挿入法
十分な厚みをもった皮下組織と大胸筋がある場合、特に一期的(乳がん根治術と同時)に乳頭乳輪を温存した皮下乳腺全摘術に併用すると一回の手術で終了し、新たな傷も生じません。乳がん根治術後比較的早期の場合にも適応になりますが、時間が経つと組織が収縮してうまくいかなくなります。また、この場合、混合診療が禁止されているため、乳がん根治術も原則保険適応外になってしまいます。
②組織拡張法(ティッシュ・エキスパンダー法)
大胸筋は残っているものの、反対側の乳房の大きさに合う人工乳房を覆うのに十分な皮膚がない場合(通常の乳房切除術後)に行ないます。まず、全身麻酔下で乳房切除術の傷跡に切開を加え、皮膚と筋肉の下に、生理食塩水を少量入れた袋状のエキスパンダーを挿入します(エキスパンダーを根治術を受けた際に挿入しておく場合もあります)。術後1~3ヶ月くらいかけて、1~2週間に1回の割合で外来でさらに生理食塩水を加え、徐々にエキスパンダーを大きくします。十分なまでに皮膚が伸びた後3~4ヶ月ほどそのままおいてからエキスパンダーを抜去し、人工乳房を全身麻酔下で挿入します。この手術は日帰りでも可能です。乳頭乳輪はその後局所麻酔で形成します。
*人工乳房を挿入する手術は原則保険適応外です。片側で約100万円くらいはかかるようです。
2.筋皮弁法
①広背筋皮弁法
この手術法はより根治的な手術により大胸筋と広い範囲の皮膚に欠損を来たし、鎖骨下やわきの下に凹みができてしまい、人工乳房だけでは再建が難しい方などに用いられます。手術は背中の皮膚と脂肪、筋肉(広背筋)を乳房切除術がおこなわれた部位に血管(胸背動静脈)をつけたまま移植します。しかし背中の筋肉はうすいため、乳房の大きな女性には適しません。ドレーン(貯留液の排出用のチューブ)を手術後数日間留置します。背中には新たな傷ができます。手術には数時間を要し、約1週間~10日間の入院が必要です。
②有茎腹直筋皮弁法
この手術法は広背筋皮弁より大きな組織を用いることができるため、ほとんどの症例に適応可能です(腹壁瘢痕ヘルニアを起こすことがあるので妊娠希望者には不適)。腹直筋の一部を血管(上腹壁動静脈)とともに、紡錘状に切除した腹部の皮膚と脂肪をつけて乳房の領域に移植します。この方法では、胸部の乳房切除術の傷跡に加えて、下腹部を横断する水平方向の傷跡を残します。この傷はパンティの中に隠れますが、なくなることはありません。この方法は体力的な負担が大きく、出血も多量なことがあります。入院は最低2週間。通常の生活に戻るにはさらに1~3カ月を要しますが、できあがった乳房はとても柔らかく、自然です。
③遊離腹直筋皮弁法
②と似ていますが、これは血管をつなげたままではなく、一度血管(下腹壁動静脈)を切り離して移動し、顕微鏡下に胸部の内胸動静脈と吻合するという方法です。上腹壁動静脈に比べると下腹壁動静脈のほうが太くて血流が良いため、②より広い組織を採取しても皮弁壊死になりにくいと言われていますが、高度の技術を要し、手術時間もかかります。
④深下腹壁穿通枝皮弁法
③と同様ですが、これは腹直筋を犠牲にせずに腹部の皮膚、脂肪組織と下腹壁動静脈を移植するという方法です。③よりさらに時間を要します(10時間くらい)が、腹直筋を温存しますので、腹壁瘢痕ヘルニアになりにくいという利点があります。E先生が得意としている方法です。
*筋皮弁法の場合も、乳頭乳輪の再建は、通常二期的に行ないます。一期的に行なわない理由は、再建した乳房は、術後少し形が変わるため、最初に乳頭乳輪を作ってしまうと後で位置がずれてしまうためです。
とりあえずこんな感じです。
私も乳房再建は素人なので、これからE先生にいろいろ教わりたいと思っています。また新しい情報があればここにアップします。
2 件のコメント:
初めまして。ケイティと申します。
温存手術後、病理検査で全摘出を勧められました。
浸潤癌は切除でましたが、また
進行も広がりも遅い性質とのことでしたが、
DISCが多発だったとのことです。
全摘出+腹筋を使わない自家組織による再建が希望ですが、今の病院では乳房再建に力を入れた医師がいないので、転院の予定です。
皮下摘出で乳輪、乳首も残せるので、
エキパンを経ずに同時に再建してくださる先生にお願いしようと思っております。
前置きが長くなりましたが、ご質問をさせてください。
エキパンは大胸筋の下に入れあとからインプラントなり自家組織を入れるのだと思うのですが、
先生のご説明の
Q①単純人乳房挿入法というのは、エキパンは経ないが、
大胸筋の下にインプラントを入れるというものなのでしょうか?乳腺をとって脂肪と大胸筋の間に入れるのでしょうか?
Q単純自家組織挿入法というのはないのでしょうか?
Qまた筋肉を使わない自家組織でも大胸筋の下に入れるのでしょうか?
お忙しい中申し訳ございません。
できましたら、ご回答頂けましたら幸いです。
>ケイティさん
はじめまして。システムのトラブルでお返事が送れて申し訳ありません。
なお、私は形成外科の専門家ではなく、自分の病院で再建しているわけではありませんので知っている範囲内での返答になりますことをご了解下さい。
①エキスパンダーを入れないで直接インプラントを入れる方法です。皮下乳腺全摘時に行なう同時再建でもインプラントの挿入は大胸筋の下です。
②同時再建で自家組織を使うという意味でしょうか?私の知人の形成外科医は行なっています。
③自家組織を入れる場合は、筋肉を使っても使わなくても皮下(大胸筋の上)です。
簡単ですが以上です。詳細は担当の形成外科医にお聞き下さい。それではお大事に!
コメントを投稿