2010年9月3日金曜日

代替補完療法7 波動療法(浄波療法)

(2010.9.8 追記  くどいかもしれませんが、以下の内容はこの治療が効果があると言っているわけでも、この治療を推奨しているわけでもありません。)
(2010.10.28 追記 新事実について最後に追加しています。)

今までここでも何度か取り上げてきましたが、少なくとも私がこれまで経験した代替補完療法使用患者さんの中で明らかに有効だと判断できた症例は1例もありませんでした。アガリクス、メシマコブなどのキノコ類(βグルカン)、キチンキトサン、漢方薬(乳癌自体に対する効果)、鉱石から抽出した液体(大学の研究所から入手)、サメの軟骨などなど…。

唯一、少しだけ効果があったかもしれないのは、鎖骨上リンパ節再発した患者さんに、転移リンパ節摘出後、化学療法を拒否されてハスミワクチンのみ投与した方が10年以上経過した今も他の再発を認めず存命中というケースのみです。ただし、これもまれに鎖骨上リンパ節に単独再発する症例もありますので外科的切除で根治していた可能性も否定できません。

そして今回ご紹介するケースは不可解と思いつつ、代替補完療法が有効だったのかもしれないと一時は思わせた症例です。もちろん、この1例をもって、この治療が乳がんに一時的にでも有効だと言うつもりはまったくありませんので誤解されないようにお願いします。その理由は後述します。

この患者さんは数年前に乳がんと診断され、手術を勧められましたが決断できず、とりあえず波動療法を希望され、外来で検査のみ行なっていました。標準療法はホルモン療法も含めて何もしませんでしたが、腫瘍は徐々に縮小したように見え、しばらくはそのままの状態で経過していました。

結局その後、数個ある腫瘍のうちの一つが徐々に増大したため、ようやく決意して手術することになりましたが、この間の経過はもしかしたら波動療法(浄波療法)が効いたのではないかと思わせるような印象でした。

しかし念力のようなこの治療が本当に効いたのでしょうか??にわかに信じがたいのでちょっとここで考察してみます。

①乳がんは波動療法で縮小したのか?
→この世の中には、科学で解明されていないこともあるので、ひょっとしたらそうなのかもしれません。一般人が聞いたらそう思うでしょう。しかし、他に理由はないかと言えばないわけではありません。この患者さんの腫瘍はその後の検査でホルモン受容体が強陽性でした。そして、発症したころに閉経を迎えていました。ですから女性ホルモンの減少によって腫瘍が一時的に縮小した可能性は十分にあります。また、ホルモンとは関係なく自然にがんが縮小することも時にあると言われています。ですから、この1例をもって、波動療法ががんを縮小させるとは言えません。

②波動療法は患者さんに利益をもたらしたのか?
→短期的にはご本人の希望通り手術せずに生活できたわけですのでメリットはあったと思います。しかし、長期的に見ると結局手術しなければならなかったのですから、治癒はしなかったわけです。そして、初診時より進行していない保証はありません。極端な話、最初から手術しておけば完全に治癒できたのに、波動療法に頼ったために治癒できない状態になってしまった可能性もあるわけです。このあたりの判断は難しいです。最終的には患者さんの生き方や価値観によりものだと思います。

③波動療法は信頼できるのか?
→これはまったくわかりません。ただ、HPを見ると、現在ではかなり手広くやっているようで、その姿勢に少し疑問がわいてきました。この治療の創始者はもともと僧侶出身で、以前に霊的な経験をしたことがあるという人です。実際に腫瘍が縮小した時には、もしかしたらこの方は科学で説明できないような特殊能力を持っている人なのかとも思いました。しかし、最近ではけっこう高額の講習会で治療者を養成したり、有料で患者さんのための講演会を開いたりと、利益主義に走っているような気がします。こうなってしまうと、波動療法の信憑性は疑わしく思えてしまいます。

以上から、波動療法は、もしかしたら特殊能力を持った人のみ、一定の効果を与えることができるのかもしれませんが、少なくとも今回の患者さんは治癒はしませんでしたし、治癒できる乳がんが治癒できなくなる危険性もありうるため標準療法の代わりに初期治療として行なうことはお勧めできない、ということになります。


2010.10.28 追記
その後この患者さんが入院し、再度経過を確認したところ、新事実がわかりました。
実はこの患者さんは、最初に急速に増大したしこりを自覚する前に、ホルモン補充療法を行なっていたそうです。乳がんと診断されてからやめたということでした。このことは担当医のH先生には話していませんでした。

つまり、こういうことです。

ホルモン感受性の強い乳がんが、HRTによって急速に増大→乳がんと診断されたためHRT中止→閉経後のため、急速にエストロゲンが減少(つまり、閉経前患者に卵巣摘出したのと同じこと)→自然にがんは縮小→3年くらいは効果が持続したが、徐々に効果が減弱し、再増大→手術

科学的に説明がつきました!波動療法はおそらくまったく関係していなかったものと思われます。民間療法で効果があったとされている症例のなかにはこのような症例も混在している可能性があることに注意しなければならないとあらためて感じさせてくれた患者さんでした。

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