2010年10月26日火曜日

糖尿病性乳腺症

今日、右乳房にしこりを自覚して受診した35才初診の患者さん。触診では両側に乳腺症の所見がありますが、明らかに右乳房の外上部に5×4cm大の硬いしこりを触れました。徐々に増大してきたという症状からまず乳がんを疑いました。

しかし超音波検査をしてみると…境界不明瞭で強く後方に陰影を引きますが、画像を調整(ゲインを上げる)と内部構造が透けて見えて周囲の乳腺とつながるのが確認できました。超音波診断は”糖尿病性乳腺症疑い”。今まで何例か経験しているベテランの技師さんは、この疾患の特徴をよく覚えていてくれたため、的確に診断してくれました。

実はこの患者さんが受診したのは受付時間を過ぎていたため、慌てて触診をしてから検査に行ってもらったため、カルテを十分に見ていませんでしたが、若いのにかなりコントロールの悪い糖尿病を患っていたのです。超音波技師さんは内科のカルテも確認して、診断に確信をもったのだと思います。結局、確定診断のために針生検をすることにしましたが、もし超音波検査で乳がん疑いと書かれたら細胞診をオーダーしていたかもしれません。この疾患は細胞診ではほとんど細胞が取れないため、診断できないことが多いのです。今日は本当に技師さんに助けられました。

以下、糖尿病性乳腺症について少しご説明します。

臨床的に乳癌と紛らわしい比較的まれな良性病変の一つにfibrous disease というものがあります。線維化、硝子化した基質の増生と、小葉の萎縮、リンパ球浸潤を特徴とし、一種の炎症性変化と考えられる病態で、その一種で糖尿病患者で発生したものを糖尿病性乳腺症(diabetic mastopathy)と呼んでいます。代表的な検査所見は以下の通りです。

触診:硬く不整形で境界不明瞭な腫瘤を触れ、癌が疑われる所見です。
マンモグラフィ:局所性非対称性陰影または構築の乱れなど、やや不明瞭な像が多いと言われています。
超音波検査:不整形の低エコー腫瘤を呈し、後方エコーは強く減弱します。あたかも硬ががんか浸潤性小葉癌のように見えますが、がんであれば、周囲の乳腺とは構造が連続していませんが、この疾患ではゲインを調整すると内部構造が周囲の乳腺とつながることが確認できます。
細胞診:穿刺時の印象は非常に硬く、細胞成分がほとんど採れないのが特徴です。ですからこの疾患を疑った場合には針生検を行なう必要があります。

2 件のコメント:

Martha さんのコメント...

hidechin先生

またまた勉強になります。
私も2度ほど糖尿病性乳腺症経験しました。初めて見たときは、分からなくてC4を付けて小葉癌疑いとレポートを書いて出しました。
診察が終わって、先生から「糖尿病でコントロールが悪かったでしょ?カルテを見ましたか? 本人に問診しましたか?」と聞かれました。
それ以来、カルテのチェックと怪しい低エコーを見たときは、まず本人に聞くようにしています。
確かに、あわ〜く正常な乳腺が透けて見えるような気がします。

気をつけないといけない症例ですね。

hidechin さんのコメント...

>Marthaさん
そうですね。よく観察していると糖尿病性乳腺症はときどき遭遇します。程度が強いと硬癌や小葉癌のように見えてきますので注意が必要だと思います。やはり問診内容のチェックは重要ですね!