2010年10月26日火曜日

ホルモン補充療法(HRT)と乳がんの関係〜最近の知見

今まで報告されてきた研究によると,HRTは乳がんの発症を増加させるものの,HRTを受けていない場合と比べその性質は良好で,ステージが低く,生存期間が長いと言われてきました。

しかしランダム化比較試験であるWHI試験では,HRTは乳がんリスクを上昇させるだけではなく、より進行したステージで診断される傾向が示されました。そして今回,さらに長期の追跡により,HRT群ではリンパ節転移陽性が多く,死亡率が高いという結果が出たとのことです。

WHI試験の概要は以下の通りです。

対象:1993-2002年に全米40施設で登録された50~79歳の健康女性1万6,608人。HRT群(結合型エストロゲン0.625mg/日+酢酸メドロキシプロゲステロン2.5mg/日)とプラセボ群に分けられた。

方法:当初の平均介入期間は5.6年(SD 1.3年,3.7~8.6年)で平均追跡期間は,7.9年(SD 1.4年)だった。今回は,その後の積極的追跡に関して同意を得た1万2,788人(生存者の83%)の2009年8月までの追跡に基づき,平均追跡期間の11.0年間(SD 2.7年,0.1~15.3年)の浸潤性乳がんの累積発症数と死亡率を解析した。

結果:すべての試験参加者を含むintention to treat(ITT)解析を行なった。
①浸潤性乳がん発症率:HRT群とプラセボ群で385例(1年当たり0.42%)vs. 293例(同0.34%)発症し,HRT群でハザード比(HR)1.25(95%CI 1.07~1.46,P=0.004)と,有意なリスク上昇が認められた。
②リンパ節転移陽性率:81例(23.7%)vs. 43例(16.2%)とHRT群に多く,HR 1.78(95%CI 1.23~2.58,P=0.03)であった。
③乳がんによる死亡率:25例(1年当たり0.03%)vs. 12例(同0.01%),HR 1.96(95%CI 1.00~4.04,P=0.049)と,HRT群でリスクが有意に上昇していた。
④乳がん診断後の総死亡率:51例(1年当たり0.05%)vs. 31例(同0.03%),HR 1.57(95%CI 1.01~2.48,P=0.045)とHRT群で死亡率が高かった。

プロゲステロンは血管新生を刺激し,このために乳がん死亡や肺がん死亡を増加させる可能性があることが報告されています。総死亡はこれらのリスクが合わさった可能性があり、HRTを選択する場合には十分なリスクとベネフィットの考慮が必要と考えられます。

今まで私は、HRT中の患者さんに、「HRTは乳がん発症率は増加させますが、ホルモン依存性のおとなしいがんが多いことと、注意して乳房検査を受けることが多いため、予後は悪化させないと言われています」とご説明してきましたが、少し改めなければならないと思いました。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

NHKのためしてがってんで更年期障害のホルモン補充療法について放送していました。
3年以内ならリスクも少ないというような放送でした。このような間違った情報を流すことは大問題ではないでしょうか。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
HRTについては様々な意見があって、今までも長い間、論争がありました。そして、「HRTは乳がん発生率は上げるが予後は悪化させない」という考え方が最近の基本的な考え方であったのも事実です。
「ためしてがってん」は見ていないので何ともいえませんが、検討の仕方によって、少し異なる結果も出るのです。どのような人たちを対象に選ぶかでも違ってきますしね。ですから、NHKの報道(3年以内なら大丈夫)が間違っているとも断定できません。