境界明瞭な腫瘤に細胞診をした際、粘液が引けることがあります。このような場合には細胞診の結果が良性であっても注意が必要です。
粘液を伴う悪性腫瘍の代表が粘液がんです。粘液がんは乳がんの組織型の中では特殊型に分類されており、その頻度は全乳がんの約1-4%程度と言われています。粘液がんはさらに全てが粘液がんからなる純型(pure type) と乳管がんの成分を有する混合型(mixed type) に分けられます。比較的予後が良いタイプと言われており、特に純型は予後良好です。
そして粘液を伴う良性の代表がmucocele-like tumor(MLT)です。MLTは嚢胞や拡張乳管内に貯留した粘液が破綻して間質内に漏れ出て粘液湖を形成したものです。マンモグラフィで多形性の石灰化集簇(丸みがあって大きめなのが特徴)を呈したり、超音波検査で点状の内部エコーや隔壁を伴う嚢胞様病変として描出されます。
MLTは良性ですので普通に考えると何もしなくて良さそうですが、この腫瘤の問題点は、周囲に非浸潤がんや粘液がんを伴うことがあるということです。ですから粘液が引けた場合は、たとえ良性の細胞しか引けていなくても、摘出して周囲にがんを伴っていないか確認した方が良いという意見が多いようです。
ただ、周囲と言ってもどのくらいの範囲まで切除して確認すべきなのかまでは言及されていません。通常は腫瘤の周囲に正常乳腺を少しつけて切除しますが、石灰化を伴なう場合は石灰化のある範囲はできる限り切除して病理検索したほうが良いということになります(この場合切除範囲が広くなることもあります)。MRで悪性を疑う所見が認められず、細胞診でも悪性所見がなければ厳重な経過観察ということも選択肢の一つとして考えることも可能かもしれませんが、がんの合併については十分な注意が必要であることを説明する必要があります。
私たちの病院でもMLTはたまに経験する病変です。経過観察をしている患者さんもいますが、今までのところ悪性疾患の合併はみられていません(注 その後切除症例で1例がんの合併例を経験しました)。
いずれにしても細胞診で粘液が引けた場合には、そのことをきちんと依頼書に記載することが、治療や経過観察をする上でとても重要なのです。
11 件のコメント:
はじめまして。
MLTでこちらに辿り着きました。
2012年に7ミリの嚢胞と診断
2013年の経過観察にて再度同じく嚢胞の診断。
本当に嚢胞なのか不安に思い、先生にお願いして細胞診をしてもらったところ結果クラスⅢ、後日コア針生検で良性、3か月後の経過観察と診断されました。
その時に先生は細胞診の時に吸引した細胞がトロッとしていた、と仰られたのです。
針生検の結果は良性との事でしたが、取り切れていないガン細胞があるかもしれないので気になるのであれば外科生検して調べてもいいかもしれない、とのことでした。
それは私の判断にお任せします、と。
そこで質問なのですが
①細胞診の時に採取したドロッと、というのはこちらに記載されている粘液が引ける、という表現の事なのでしょうか?
②針生検の結果は良性で、どうやら嚢胞ではなかったようですとしか教えてくれませんでした。
コア針生検の結果でMLTであるという事はわからないのでしょうか?
③もしMLTだという診断であっても患者さんには伝えないものなのでしょうか?
>匿名さん
はじめまして。
ご質問にお答えします。
①粘液の可能性は十分にありますが、見ていないので私にはわかりません。細胞診のレポートに書いてあると思いますのでご確認下さい。
②針生検でわかる場合もありますし、わかりにくい場合もあります。ただ採取されたものすべてに嚢胞性の病変が含まれていないなら充実性の腫瘍なのかもしれませんね。だとすると最初に引けたのは粘液ではなかったのかもしれません(これも推測に過ぎません)。
③そんなはずはありませんし、隠す必要もありません。ただMLTであっても細胞診、針生検で断定できない場合はありますので、その場合は良性としか言わないかもしれません。
いずれにしてもネットを介して私が言えることはごく限られています。ここで私に聞くより担当医に聞く方が派近道だと思いませんか?その方がきっときちんと納得できると私は思いますよ。
はじめまして。
47歳です。乳癌検診(触診及びマンモグラフィー)で乳腺腫瘤疑いD判定診察を受けてくださいとの事でした。
乳癌検診時触診にてしこりがあるマンモをとり再検査になるかもと言われてました。
癌の可能性は高いのでしょうか?不安です。
総合病院の乳腺外来に予約を入れましたが、近くの病院だと3カ月後、遠い所で1カ月後以降との事でした。
不安で早く診ていただきたいのですが、あわてなくも大丈夫なのでしょうか?
現在仕事をしていますが、検査等で何日も休むようになるのでしょうか?
不安です。
>ココロロさん
はじめまして。
要精検と言われてご不安なお気持ちはよく理解できます。
ただ実際に診察もせず画像を見ていない私ががんの可能性をお答えすることはできません。
一刻も早く、というほど慌てなくても良いと思いますが、3ヶ月は待たせすぎだと思います。1ヶ月以内に検査を受けることができる病院をお探し下さい。検査は必要に応じて追加されますので、良性と断定できなければ何度か通わなければならないかもしれません。
以上です。
早速のご回答ありがとうございます。
1か月以内で診てくれる病院を探してみようと思います。
ありがとうございました。
はじめまして。
MLTについてわかりやすく書かれていて、大変参考になりました。
38歳で、2016年8月にしこりに気づき、石灰化を伴うMLTということで10月に、念のため周囲1cmの乳腺をつけて摘出しました。
織検査の結果、粘液癌と判明しましたが、増殖能力の低い非常におとなしいタイプと言われ、断端も陰性でした。
仕事の都合で、放射線は3月から行う予定でした(自分としてはそれも省略できないかと考えていました)。
ところが、2017年1月に撮ったマンモで(主治医が術後すぐにマンモを指示したのは、何か疑っていたからなのか)、同じ部位に石灰化が写っており、再手術でこれを切除し、今度はセンチネル生検も行うと言われました。
素人目には、粒状の石灰化が、しこりの形の周囲に集まって点在しているように見えました。
今は当然しこりはないのですが、この石灰化は、粘液癌の周囲の取り切れなかったものということなのか、また別の癌なのでしょうか?
しこりもないのに、再手術で正しく切り取れるものなのでしょうか?
来週の診察で主治医にも確認するつもりですが、要点を自分なりに整理して診察に臨み、納得して手術を決めたいと思い、いろいろと調べているところです。
どんな可能性があるのか、お教えいただけるとありがたいです。
>Sさん
初めまして。
まずは切除生検して良かったですね。経過観察になったら診断が遅れるところでしたよね。
で、その後の検査などについてですが、正直よくわかりません。通常、術後すぐにマンモグラフィは撮影しません。Sさんのご推察通り、主治医の先生は何か引っかかるものがあったのだと思います。
それが何かは定かではありませんが、病理医の診断は断端陰性という結果だったけど、切り出し図を見た主治医がもしかしたら遺残があるのではないかと疑ったというのが一番考えられる予測です。慎重な判断をした主治医の先生はかなり正直な先生だと思います。病理医の診断結果に反して自分の推測を誤魔化すことなく再手術を提案することは勇気のいることです。ただ本当にがんが遺残しているのか、多発がんなのか、この石灰化は粘液がんとは無関係の良性のものなのかは画像も病理結果も見ていない私はなんとも判断しかねます。
なお、石灰化のみの遺残に対する再手術はなかなか難しいです。前回の切り出し図とマンモグラフィを参考にどのあたりにどのくらい残っているのか推測して切除するしかないと思います。でももし遺残だった場合は、それでも断端陽性になる可能性も考えておく必要があります。以上です。
こんなに早くご返答をいただき、感嘆と感謝でいっぱいです。
正直を言えば私は、切った跡に異栄養性石灰化ができ始めているだけかもしれない、などという希望的なお話を期待している面もあったのですが、やはりいろいろな可能性があると、覚悟をすることができました。
次の診察では、主治医の先生を信頼して、どんな可能性を疑っているのかをしっかり聞き、手術の難しさも含めて納得できるまで相談することができそうです。
>Sさん
異栄養性石灰化は数年かけて出てくるものですのでSさんの場合は少し早いような気がしますが…良い結果だといいですね。
それではお大事に!
診察の日に主治医が急遽、石灰化の部分の針生検をしてくださり、結果良性の線維腺腫とわかり、手術はしないことになりました。粘液癌と線維腺腫が近接していたようです。お騒がせいたしました。
ただ、別の部分に乳管内乳頭腫が見つかったので、放射線と経過観察はしっかりやっていこうと思います。
hidechin先生のおかげで気持ちを落ち着かせることができて、もし結果が悪くてもがんばれたと思います。
本当にありがとうございました。
>Sさん
粘液がんの遺残ではなくてよかったですね。きっと標本内の石灰化と術前のマンモグラフィの石灰化を比べて石灰化が残っている可能性があると思ったので術後早期にマンモグラフィの再検査を行なったのですね。結局MLTと線維腺腫の両方の石灰化が混在していたのですね。
切除せずに診断できて何よりでした。
それではお大事に!
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