2011年5月20日金曜日

これからの乳がん検診の課題

先日のピンクリボン in SAPPOROの打ち合わせで、対がん協会の方が、”もうマンモグラフィを無料体験などでお誘いする段階は終わった”と話されていました。

たしかにもうそういう段階は終わったのかもしれません。ここ数年、ピンクリボン in SAPPOROの夏のイベントでも、ファイターズの田中賢介選手がアウト1つにつき1人の無料マンモグラフィをプレゼントしたり、無料クーポン券が配布されたり、様々なメディアでピンクリボン運動や乳がん検診を取り上げていただいたりで、”興味を持っている対象者”に対してはかなりマンモグラフィ検診が認知されたのではないかと思います。

しかし、一方で未だに目標の検診受診率にはほど遠く、せいぜい20%程度で頭打ちになっています。今のままでは50%の検診受診率にはほど遠い状況だと思います。受診率向上、そして乳がん死亡率減少のためには、さらなる工夫が必要になってきているのだと思います。

現在の乳がん検診の課題をあげてみます。

①乳がん検診を受ける気がない人は結局受診しない(自分は乳がんにならないと思っている、乳がんと言われたら怖いから…、経済的問題など)
②マンモグラフィという検査自体の問題(被曝のリスク、痛み、高濃度乳腺の小腫瘤の描出能が低い)
③乳がんは30才代から増加するのに対象年齢が40才以上に限定されている
④検診発見乳がんは、比較的進行の遅いタイプが多く、たちの悪い進行の速いタイプは検診で引っかかりにくい?(検診不要論者の根拠にもなっています)
⑤地方に住んでいる人は機会が限定されていて検診を受けるのもなかなか困難な場合がある

①の経済的問題については、所得に合わせたきめ細かい自己負担率(無料受診者割合を増やすなど)の設定を行なうなどが必要です。正しい知識の啓蒙については地道に努力していく必要があります。また、生命保険に定期的ながん検診を無料でセットにして、保険支払いの条件にがん検診を受けていることを入れるというのも良いかもしれません。

②③④は、マンモグラフィという検診手段の問題です。マンモグラフィのみに頼っているうちは解決しない問題かもしれません。現在、J-STARTで超音波検査併用検診の臨床試験が行なわれていますのでその結果に期待したいところです。また、④についてですが、私の病院での検診発見乳がんと有症状発見乳がんの悪性度、増殖能(Ki-67)を調べてみると、たしかに検診発見乳がんはおとなしいタイプが多い傾向がありました。もちろん、だからと言って検診発見乳がんを放っておいても命に関わらないなどという”がんもどき”理論を支持するつもりはありませんが、問題は石灰化を伴わない悪性度の高いタイプをどうやって検診で拾い上げていくかという検討が必要だということです。これはおそらくマンモグラフィの読影能力を上げるだけにこだわっていては解決しない問題なのではないかと私は思っています。

⑤は乳がん検診に携わる医療従事者を増やす以外に解決の道はないと思います。一般病院で勤務しながら地方へ出張検診するのは現在の体制上なかなか困難です。対がん協会などの検診専門施設だけではマンパワーが不足しています。しかし医師不足は全国的、全科的な問題ですので、乳がん検診に関わる医師だけ増やすのは現状ではかなり困難な課題です。

私の病院は、乳腺外科医3人体制になって少し余裕ができました。私の病院には関連診療所が道内にいくつもあります。検診車さえあれば定期的な出張乳がん検診ができるのですが…。超音波検診なら可能ですので今後検討していきたいと思っています。

2 件のコメント:

nunu さんのコメント...

以前数回書き込みさせていただいた、米国で治療を受けている者です。
お忙しい中のブログ更新ありがとうございます。イベントにも積極的に参加されていらっしゃるんですね。本当に有難いことです。
一昨年のマンモ検診のとき、自分では皮膚のひきつれに気づいていましたが、結果が異常なしだったので一年放置してしまいました。
自覚症状があると強く自己主張しなかったのがいけないのですが、あの時、超音波もセットだったら発見できたのかもと思います。
温存手術+リンパ節切除、ポート装着手術、T/C療法と順調に進み現在放射線治療中です。治療が受けられること自体感謝で不満はありませんが、やはり早期発見・治療が大切だと痛感します。
一人でも多くの人に検診を受けてほしいと思いますが、少し強制的に検診を受けるシステムにしないと重い腰はなかなか上がらないかもしれませんね。私も米国のような高い医療費、健康保険料という条件がなければ、毎年検診はしなかったと思います。ずっと健康でしたし、根拠もなく自分はがんにならないと思ってました。

hidechin さんのコメント...

>nunuさん
そういう経過だったんですね。超音波検査を併用するべきかどうかは臨床試験の結果が出ないと軽々しく主張することはできませんが、個人的な意見としてはやはり特に閉経前の女性には併用すべきだと思っています。もしくは、マンモで不均一高濃度乳腺、または高濃度乳腺の場合は超音波検査の併用を推奨するとガイドラインに明文化するのも良いかもしれません。

引き続き治療、頑張って下さいね。お大事に!