乳癌が心配だけど、どこに受診したらいいかわからない、乳癌になってしまって不安…、再発したからもうだめかもしれない…。そんな不安や悩みに少しでもお役に立てればと思って始めてみました。 (*投稿内容と無関係なコメント、病状のご相談はご遠慮願います*)
2011年9月24日土曜日
Novartis Breast Cancer Forum 2011 参加報告
今日、東京から帰ってきました。
昨日行なわれた「Novartis Breast Cancer Forum 2011〜乳がん個別化治療に向けて〜」は大変勉強になりました。と同時にあまりに分子生物学の進歩が早いため、少しでも油断しているとついていけなくなるという危機感を持ちました。
講演の内容は私が聞いていても完全に理解できない部分もあるため、メモできた中で印象に残った部分を書いてみます。
講演①「Breast cancer signal pathway and treatment strategy」(Stephen Uden氏 ノバルティスファーマ)
アロマターゼ阻害剤やハーセプチンの耐性(効果がなくなる現象)発生の機序と耐性化した乳がんに対して効果が期待される新たな分子標的(mTOR pathway、PI3K/ATK pathway、FGFR pathway、Heat Shock Protein90)についての話でした。すでに臨床試験が開始され、一定の効果がみられているということで今後に期待できそうです。
講演②「Individualization of breast cancer-Intrinsic Subtype」(Prof.Matthew J.C.Ellis Department of Medical Oncology,Washinton University)
ER陽性乳がんの個別化治療についての話でしたが、特に術前ホルモン療法におけるKi-67の変化についての話が印象的でした。通常、日本では術前治療の前に針生検で検体を採取したあとは、手術材料で調べるくらいですが、Ellis先生の施設では術前ホルモン療法中に再度針生検を行なってKi-67の変化を調べるそうです。そしてKi-67が低下していた場合は治療が奏効していると判断できるためそのまま継続する指標になるし、もし逆に増加しているようならホルモン療法の効果は期待できないと判断して化学療法への変更を考慮することができるということでした。2回目の針生検に関して患者さんの同意が得られるのか?という質問には、治療効果を患者さんも知ることができるため、かえって安心して治療を継続したり変更する決断ができるので問題ないと答えていました。
また、LH-RH agonist+AI(アロマターゼ阻害剤)のホルモン療法については、LH-RH agonistでは卵巣機能抑制が不十分なために徐々にE2レベルが上昇し、AIの効果が低下するという問題点について述べていました。このようなケースには外科的な卵巣摘除を考慮すべきであるということでした。以前からこの治療についてはここでも書いてきましたが、なかなか再発治療の実臨床で認められない理由が理解できたような気がします。
講演③「How should we implement the St.Gallen Consensus 2011 in daily practice?」(Prof.Beat Thürlimann Breast Center ,Cantonal Hospital St.Gallen)
Thürlimann先生はSt.Gallen consensus meetingの中心メンバーの一人で、この会議の意義(エビデンスが十分ではないことを討論し、合意を作っていく)について説明して下さいました。また、Adjuvant!Onlineは様々な理由(データに信頼区間がない、何年後の再発率または死亡率なのかが不明、ハーセプチンなどを使用する以前の治療に基づいたデータであることなど)からあまり信頼するべきではないとの考えを強調されていました。また、臨床試験から得られるエビデンスやガイドラインというのは平均的な患者さんに対する平均的な治療を提示するものであるので、個々の患者さんに対しては別な視点が必要であるというようなお話しをされていました。
Thürlimann先生の講演で最も印象的だったのは、スイスではOncotype Dxの保険適応の採用を却下したというお話でした。その根拠になったのは、Oncotype Dxで得られる再発リスクというのは、その腫瘍そのものの性質を現しているだけで、その患者さん個々の化学療法によるリスク低下を反映しているわけではないからだということでした。つまり、腫瘍径やリンパ節転移の程度によって患者さんの再発率は違うので、化学療法を行なった時に得られる再発率の低下の絶対値も異なります。例えば絶対値の低下が5%以上あれば化学療法をしようと考えたとしてもOncotype Dxから得られるデータからは推測することができないということです。
今回のSt.Gallenではサブタイプ別の治療方針がより明確になり、腫瘍径やリンパ節転移の程度の持つ重要性はかなり低くなったと報道されていまいましたし、ほとんどの乳腺外科医もなんとなく納得がいかなくても「そんなものなのかな…」と思っていたと思います。にも関わらず、St.Gallenの主要メンバーであるThürlimann先生の口からこのような考えを 聞くとは思いませんでした。やはり、Luminal Aであっても杓子定規に「ホルモン療法のみでいい!」というのではなく、進行度によって変化する再発リスクを考慮した上で化学療法の追加を検討しても良いのだということのようです。これが確認できたことが今回の最大の収穫だったと思います。
パネルディスカッション「個別化治療のための生物学的解析」
パネルディスカッション 「個別化治療の実践」
詳細は省略しますが、この中で「Luminal Aでリンパ節転移がある患者さん」に対してどの治療を選択するかというVotingにおいてもThürlimann先生は、「N=3ならホルモン治療のみ、N=4なら化学療法(EC×4またはTC×4)を選択する」とおっしゃっていました。
ちょっと今回は難しい話になってしまいました。ゆっくりする暇はありませんでしたが、参加できて良かったです。参加させて下さったノバルティス(株)、そして回診のために残ってくれた同僚のG先生とN先生に感謝申し上げます。
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