イタリア国立がん研究所のLucia Del Mastro博士らが「化学療法を受けている若年乳がん患者にゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)作動薬triptorelinを投与し,卵巣機能を一時的に抑制したところ,化学療法の副作用である早発閉経が減少した」との第Ⅲ相試験の結果をJAMA(2011; 306: 269-276)に発表しました。
化学療法を受けた患者さんの40%以上が長期的に無月経となると言われています。若くして乳がんになり、治療終了後に妊娠を希望されている患者さんにとっては、卵巣機能の不可逆的な機能低下は大きなショックをもたらします。
GnRH作動薬には、ゾラデックスやリュープリンなどのLH-RH作動薬も含まれます。かなり以前から、これらの薬剤を併用しながら化学療法を行なうと、卵巣機能が保護されて閉経になりにくいと言われていましたが、異論もあり確立された考え方にはなっていませんでした。
「乳癌診療ガイドライン①治療編 2011年版」には、
CQ ”妊孕性維持のために化学療法中にLH-RHアゴニストを使用することは勧められるか”
に対して、
推奨グレードC2(化学療法時にLH-RHアゴニストを投与すると化学療法誘発性閉経の割合は減少する可能性があるが、妊孕性維持についてのエビデンスはなく現時点では勧められない)
となっています。
今回の報告の概要は以下の通りです。
対象:2003年10月~08年1月にイタリアの16施設で登録した、術後補助化学療法または術前化学療法が予定されていた閉経前乳がん患者281例。
方法:化学療法のみを受ける群(化学療法単独群)とtriptorelinを併用する群(triptorelin群)のいずれかにランダムに割り付けた。triptorelinは化学療法開始1週間前および化学療法中4週間ごとに3.75mgを筋注した。
結果:化学療法終了1年後の早発閉経発生率は,化学療法単独群の25.9%に対してtriptorelin群では8.9%と有意に低く(絶対差−17%,P<0.001)。早発閉経の有意な減少はtriptorelin投与のみに関連し,年齢や化学療法のタイプの影響は認められなかった。
今回の研究は,乳がん患者の卵巣機能温存の研究の前進に大きく寄与するものではありますが、問題点が2つあります。
一つ目は、閉経を予防できることと妊娠が安全に可能であることは同義ではないこと(流産率が高いという報告もあります)、二つ目は、特にホルモン受容体陽性乳がん患者に対するtriptorelin併用による予後への影響は確認されていないことです。
ただそうは言っても若年乳がん患者さんにとっては妊娠の可能性を残すことは切実な問題です。現在、受精卵の凍結保存(または未婚者の場合は卵母細胞の凍結保存)などが行なわれていますが、妊娠成功率は必ずしも高くはありません。妊孕性維持の一つの手段として、これらの薬剤併用の安全性が確立されれば化学療法への不安も軽減するのではないかと考えています。
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