2011年12月5日月曜日

特殊型(b7) アポクリンがん

乳がんの特殊型の一つにアポクリンがんがあります。特殊型の中でも稀な組織型でしたが最近は増加傾向にあるという意見もあります。

アポクリンがんの頻度は、坂元吾偉先生の名著「乳腺腫瘍病理アトラス」(1987年初版)によると、0.05-0.1%とされています。しかし、最近の全国乳がん患者登録調査報告(日本乳癌学会)では、1%前後を推移していますのでやはり増加傾向なのかもしれません。私の病院では、約0.6%でした。

「アポクリン」というのは、もともと汗腺の1つのアポクリン腺に由来しています。アポクリン腺は腋窩や乳頭、下腹部や肛門周囲にある汗腺で、体臭の元になるものです。乳腺組織の細胞がアポクリン腺の細胞のように変化することを「アポクリン化生」と言い、乳腺症でよく見られる変化の一つです。アポクリン化生は一般的には良性の変化ですが、がん細胞にもアポクリン化生を起こすことがあり、これを「アポクリンがん」と呼ぶのです(昔はアポクリン化生細胞ががん化したと考えられていた時期もありましたが、今はがん細胞がアポクリン化生したものという考え方が一般的です)。WHO 分類ではアポクリン化生成分が 90%以上のものをアポクリンがんと定義しています。

アポクリンがんの画像所見に特徴的なものはないと言われていますので画像のみでこの組織型を推定するのは困難です。病理組織所見で特徴的なのは、細胞は大型で立方状または円柱状を呈し、核小体は大型で明瞭、細胞質にはHE染色でエオジンという色素に陽性に(赤く)染まるアポクリン顆粒を有し、分泌傾向を示すということです。ホルモンレセプターは陰性であることがほとんどです。なお、最近、早期乳がんの増加により、非浸潤がんにもアポクリンがんの特徴を備えたものがあることがわかってきました。

一般的にはアポクリンがんは予後が良好と言われています。St.Gallen2009では、アポクリンがんや腺様嚢胞がん、髄様がんなどの予後の良い特殊型は、リンパ節転移がなく、小さなものであればトリプルネガティブでも化学療法を省略できる、とされています。しかし私の病院で経験したアポクリンがんの6例中3例はリンパ節転移が陽性でそのうち2例は10個以上のリンパ節転移を有していました。ですからアポクリンがんのすべてが予後良好ということではなく、やはり放置すれば転移、再発のリスクは生じてきます(注:St.Gallen 2011ではアポクリンがんのみ上記の化学療法を省略できる特殊型から除外されています)。

最近、非常に診断に苦慮した非浸潤がん主体のアポクリンがんの1例を経験しました。乳がんの診断は本当に奥が深いです。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

特殊型の乳がんの治療方法は,どのくらい研究が進められているのでしょうか。

紡錘細胞型で,坂を転げ落ちるような速さで全身に転移しています。切除手術も化学療法(FECとタキサン系)も,一度も良好な結果を見ることなく,変異を最初に感じてから1年で,緩和ケアを視野に入れた今後の治療方針の説明を受けました。今は骨転移の痛みのコントロールと赤血球数・ヘモグロビンの回復のために入院しています。

セカンドオピニオンでも,通常の癌としての治療でといわれました。TNBCと特殊型はどのように違うのでしょうか。通常タイプとして治療するのは,体力と時間の浪費と考えてしまいます。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
再発治療中とのことでご不安な日々を過ごされていることとご推察いたします。
紡錘細胞がんは全乳がんの0.1-0.2%と非常に稀な組織型です。私は1例しか経験がありません。このような稀な組織型に対して適切な治療を判断するための臨床試験を設定することは現実的にはかなり困難です(一定数の症例を集めて治療しなければなりませんので)。ですから研究したくてもできないのが現状です。
ただ、紡錘細胞がんが通常の治療に全く反応がないというわけではありませんので、通常はほかの乳がんと同様の治療を行っていると思います。
今までの治療が奏効しなかったとのことで、さらに抗がん剤を使用するかどうか踏ん切りがつかないお気持ちはよく理解できます。もちろん、積極的治療をやめて緩和治療を選択することも一つの考え方だとは思います。ただ、最近は新しい治療薬が使用できるようにもなってきましたので(ハラヴェンやアバスチンなど)、そういう治療にかけてみるのも一つの選択です。
残念ながら私が実際に匿名さんを診ているわけではありませんので、どちらがより適切かということは軽々しく言うことはできません。主治医の先生に匿名さんのご希望や不安を正直にお話ししたうえで方針を決めるのが一番良いと思います。
あまりお役に立てなくてすみません。匿名さんにとってもっとも望ましい治療方針が決まると良いですね。それではお大事に。