骨転移の初期は無症状です。しかし時に骨折による突然の激痛や麻痺で発症する場合があります。
今回は骨転移がある場合に起こりうる併発症についてお話しします。
①病的骨折
転倒したり、激しい外力が加わったわけではないのに骨折することを「病的骨折」と言います。歩いていただけで大腿骨を骨折したり、腕で体を支えただけで上腕骨を骨折したり、などです。転移巣によって骨がもろくなっていることが原因です。乳がんの骨転移は、溶骨性転移(骨が溶けるタイプの転移)と造骨性転移(骨を作るタイプの転移)が混在していることが多いと言われていますが、溶骨性転移が優位な場合に特に病的骨折のリスクが高いので注意が必要です。溶骨性転移の程度を見るためにはCTが有用です。
正常な骨ではないので自然治癒はなかなか期待できませんから、特に四肢の骨折や麻痺のある脊椎骨折の治療は手術(固定術)が必要になることが多いです。麻痺のない脊椎の圧迫骨折には放射線治療を行なう場合もあります。また未使用であればビスフォスフォネート製剤(ゾメタなど)を併用します。
②麻痺
病的骨折が脊椎に起こり、骨折した部分が脊髄や神経根を圧迫すると麻痺が生じることがあります。症状は骨折した部位によって異なります。上位の脊椎ほど麻痺の範囲は広くなります。病的骨折による麻痺が生じた場合は、できるだけ早くに手術に踏み切ることが大切です。骨片による脊髄圧迫の解除が遅くなるほど麻痺の回復が困難になるからです。
私たちが最近経験した頸椎の病的骨折で四肢麻痺になった患者さんは、早期手術とリハビリによってかなり回復しています。もう一日手術が遅れたら回復は難しかったかもしれません。
③高カルシウム血症
転移したがん細胞によって破骨細胞という骨を溶かす細胞が刺激され、骨から溶け出すカルシウムの量が増え、血液中のカルシウム濃度が上がることによって起こります(骨転移がなくてもがん細胞自体が破骨細胞の働きを促すホルモン様の物質を産生して高カルシウム血症をきたすこともあります)。
症状は、のどの渇き、多尿、食欲不振、吐き気、頭痛、骨の痛み、脱力感(体のだるさ)、意識障害などがありますが、初期症状は他の原因でも起こるものなのでなかなか発見できない場合もあります。治療は脱水を補正するための生理食塩水の点滴と脱水が補正されてからの利尿剤投与によるカルシウム排泄、そして骨吸収を抑制するビスフォスフォネート製剤(ゾメタやアレディア)の投与を行ないます。
これらの骨関連イベント(SRE)を減少させるのにはビスフォスフォネート(ゾメタ)が有用であることが報告されています。乳癌診療ガイドライン(2011年版)においても推奨グレードA「ビスフォスフォネートは、骨転移を有する乳癌において、骨転移に伴う合併症の頻度を減らし、その発症を遅らせるので強く勧められる」となっています。ただし、下額骨の壊死をきたす可能性がありますので特に歯周病がある患者さんや歯科治療をしなければならない患者さんなどは注意が必要です(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2009/05/blog-post_06.html、http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2011/02/blog-post_10.html)。
8 件のコメント:
はじめまして。
先日術後1年検査で主治医から腫瘍マーカのひとつが上昇しているとの話がありました。三か月後に再度採血により検査をすることになっています。
診察の時には、いつも先生の話についていくのが精いっぱいで、後になってから聞きたいことや、不安な気持ちに胸が苦しくなります。
家族には検査は大丈夫だったと話したので、一安心し、良い年末年始が迎えられると心から喜んでくれています。
検査の結果で家族に残念な思いをさせるのではないか、家族の生活を変えてしまうのではないかと思うととてもつらいです。
主治医の先生と話をすると安心できるのですが、予約日以外にはなかなか行くこともできず・・・
そんな時にこちらのページにたどり着きました。まだほんの少ししか読んでいませんが,なんだか、ホッとしています。
ありがとうございました。
>匿名さん
はじめまして。コメントありがとうございます。
腫瘍マーカーが高値とのことで不安なことと思います。
上がっていた腫瘍マーカーはCEAですか?CA15-3ですか?どのくらいの値ですか?
腫瘍マーカーは体質で少し高めになる方もいらっしゃいますし、CEAは喫煙者で軽度高値になるのはよくあることです。一度の異常では再発と診断することはできませんが、少し慎重に経過を追った方が良いですね。何もないことをお祈りしています。
早々のお答をありがとうございます。
どの腫瘍マーカーかも、数値も聞きませんでした。
これまで、腫瘍マーカーの異常はありませんでした。
喫煙で高値にでることもあるとのことですが、喫煙はしません。一緒に住む家族も同じです。ただ、検査の前日まで実家に帰っていたのですが、父が喫煙をします。滞在中の三日間は父のそばにいました。これぐらいのことでは影響はありませんか。
腫瘍マーカーが高値に出て、また元に戻ることはありますか。
どの腫瘍マーカーかもわからないのに質問をして申し訳ありません。どうぞ宜しくお願い致します。
>匿名さん
3日間程度喫煙者の近くにいたくらいでCEAが上がることはないと思います。
体質的に腫瘍マーカーが高い数値をとる方はいらっしゃいます。通常軽度の高値のことが多く、時々正常値に戻ったりします。
私の経験で一番驚いた方はCA15-3が70台まで上昇した患者さんです。正常値は30-35くらいですのでほぼ倍になったわけです。間違いなく再発だと思い、転移巣の検査をしながら入院を待っていましたが、次に採血した時には何も治療していないのに低下していたのです。検査でもはっきり再発巣が確認できなかったためにしばらく経過をみることにしたところ、CA15-3は徐々に低下し正常値に戻ったのです。
こういうケースは稀ですが、再発ではないのに正常値を少し超える程度のことは時々見られます。ただ匿名さんの数値がどのくらいなのかわかりませんのでこれ以上のことは言えません。経過をみて上昇傾向ならやはり再発を疑って検査をした方が良いと思います。
次回の検査で下がっていると良いですね。それではお大事に!
腫瘍マーカーの件で質問させて頂いたものです。申し訳ありません。お礼が送信されていませんでした。お伺いした質問に親身に答えてくださり有難うございました。不安でしかたなかったのですが、本当に救われました。お陰様で気持ちも落ちつき、前向きな気持ちになり、何事もないことを祈りながら、体に良い生活を心がけています。本当にありがとうございました。
どうぞよいお年をお迎えください。
>匿名さん
何もないことをお祈りしています。
それでは良いお年を!
頸椎が病的骨折し手術不可能と言われました。
先生、お力添えをお願いできませんか・・・・。
>ころちゃんさん
頸椎の骨折ですか…。詳しい病状がわかりませんのでなんとも言えませんがとても不安なことと思います。ゾメタやランマーク、放射線治療などで少しでも症状が改善すると良いですね。
つらいとは思いますが、できないことを悔やんだり悩んだりするのではなく、今できること、リハビリで少しでもできるようになったことの中で楽しみや生き甲斐を見つけられるようになれば…と思います。
きっと良いこともあると信じて前向きに生きていけるようになることをお祈りしています。それではくれぐれもお大事に…。
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