通常はホルモン感受性乳癌に対してエストロゲンを投与すると癌はさらに増殖すると考えられています。ところが最近、ワシントン大学のMatthew J. Ellis氏らのフェーズ2試験において、アロマターゼ阻害薬が無効となった転移性乳癌の治療に、低用量のエストロゲン投与が有効であったというパラドックス的治療法(paradoxical strategy)の報告がされました(JAMA)。
実はこのエストロゲン療法というのは1940年代に行なわれていた方法で、私も大量のエストロゲン投与が一部の癌には有効だったということは聞いたことがありました。今回はより低用量のエストロゲンが有効である可能性を証明するため、以前にアロマターゼ阻害薬を使用していて再発した、エストロゲン受容体陽性乳癌患者66例を、エストロジオール(エストロゲン)の1日6mg経口投与または30mg経口投与のいずれかに無作為に割り付けて比較試験を行ないました。
研究の結果、両群の有効性は同様(低用量群29%、高用量群28%)であり、被験者の約30%に腫瘍の縮小または成長抑制が認められました。ただ、高用量群は低用量群に比べて副作用が多く(低用量群18%、高用量群34%)、QOL(生活の質)も低く、全体的に低用量のほうが優れているという結論でした。
また、治療前のPET検査で、腫瘍のuptakeが高いと、エストロゲンが奏功する可能性がはるかに高いという結果が得られ、腫瘍の反応を予測できることも判明したそうです。さらに、エストロゲン療法後に再発した症例に対して再度アロマターゼ阻害薬を投与するとその3分の1の症例で再び奏功したという結果でした。
ホルモン療法は、抗エストロゲン剤からアロマターゼ阻害剤へと進化してきましたが、アロマターゼ阻害剤が無効になると治療は難渋します(MPA=ヒスロンHや高用量トレミフェンを投与することもあります)。やむを得ず化学療法に頼らざるを得なくなります。しかし、これでまた治療選択が増えることになるかもしれませんね。
2 件のコメント:
今回の記事はとても興味深いですね~
通常の治療方とは正に反対の治療方ですよね。
1940年代にすでにもう行われていたんですか。
とても驚きました・・
いろんな臨床試験を通して効果を見極め、一人でも多くの患者さんがこういった治療の恩恵を受けることができるといいですよね。
治療の選択が広がるのは本当にいいことだと思います。
無治療ほど心細いものはありませんから・・
kimity0115さんへ
どうしてこのような効果があるのかという作用機序については今ひとつわからないのですが、もしアロマターゼ阻害剤とエストロゲンを交互に使って効果が得られるなら、副作用の点からもありがたい治療法になりますよね。
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